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書評「『経験知』を伝える技術 −ディープスマートの本質−」

近年、理学療法士・作業療法士の臨床実習が変化してきている。

2018年には養成施設指定規則が改定され、それに伴って新たに定められた養成施設指導ガイドラインには、診療参加型臨床実習が望ましいことが明記されている。

これまでは症例レポートの作成が中心的な課題であったが、チームの一員として診療に参加して技術を習得することに焦点が当てられるようになったのである。

技術の習得に焦点を当てる、という当たり前のような臨床実習が、ようやく日の目を見るようになったといえる。

私たちが臨床で求められている知識・技術は、症例レポートの作成ではなく指導のもとでの経験を繰り返すことによって、はじめて身に付けることができる。

ディープスマートとは、このような経験にもとづく専門的な知識・技術を指す言葉であり、エキスパートが身に付けているスキルと言い換えることもできる。

ディープスマートには暗黙知の側面が大きく、言葉にして伝えたりマニュアル化したりすることが難しいため、異動や退職に伴って容易に失われてしまう。

したがって、ディープスマートを計画的に移転し、新たなディープスマートを育成する教育体制を構築することが組織の存続にとって不可欠である。

ディープスマートは、講義を聞いたり実技練習をしただけでは育成・移転することはできない。しかし、それらはディープスマートの土台となるレセプター(受容体)の形成に役立つ。

まったく新しい情報は脳内での処理が難しく、知識・技術としてうまく取り込むことができない。養成校や研修会での学習はレセプターの形成であり、ディープスマートと混同してはいけない。

このように考えると、診療参加型実習が理にかなっていることが分かる。

本書では、主にビジネスの場面を想定してディープスマートの育成・移転について論じているが、理学療法・作業療法の教育場面にも十分に応用できる。

私たちが培ってきた知識・技術を次世代に引き継いでいくために、本書は力を発揮すると思われる。

ドロシー・レナード ウォルター・スワップ 著(2005年)

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