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忘れられない先生 第1162話・5.16

 その瞬間、僕は固まったのは言うまでもない。普段は起きているのかわからないような風貌の先生がこの時は、症状を見てはっきりと帯状疱疹という病名を告げたからだ。

 僕が異変に気付いたのは3日ほど前である。突然手から片腕に痛みが走った。「どうしたんだろう」僕はなぜこのような自覚症状があったのかわからない。僕は重い荷物を持つことが多いためか、僕は肩こり症である。
 片方の肩が凝ってそのまま腕が痛くなることはこれまで何度も経験しているから、そのような類のものだと思った。一度肩こりになったら、いくらもみほぐしても元に戻るのに数日かかる。肩こりが起こると歯茎のあたりにも痛みが走り非常に嫌だが、そんなことも言ってられない。

 それから僕は痛い苞の腕の方を自分に振り回すなどしながらもみほぐすことを意識した。ところが、半日してからそれが違うことが判明したのだ。
「あれ、ナニコレ?」僕はあるとき痛いほうの腕を見たとき赤い斑点のようなものを見つけた。
「虫に噛まれた?」僕はどうやら肩こりではなく虫に噛まれて赤く腫れあがったのではと思ったのだ。それなら何となくストンと来る。何しろ最近重い荷物など持っていない。
 それに肩がこれば必ず襲ってくる歯茎の痛み、浮いたようなあの嫌な感覚が起こっていなかった。だからおかしいと思っていたが、虫に刺されたのが理由で痛いのなら歯茎に影響がないのがうなづける。

「それにしても」いつ虫に刺されたのか気になった。とりあえず虫刺されに聞きそうな薬を塗っておく。だが次の日になっても症状が治まらない。そのまま会社に出勤したが、腕の痛みが気になって仕事にならないのだ。
「こうなったら...…」僕は原因がわからないので職場の近くのクリニックに行くことにした。そこに行く理由は職場の健康診断でお世話になっているからである。

 毎年の健康診断は面倒だが、ほぼ強制的にいかざるを得ない。いろいろな検査があり、血圧の測定や採血などいずれも気持ちの良いものではないが、その中でも最後の診察は何となく気楽であった。さて何歳くらいだろう?見た目70近い院長が診察をしてくれるが、2、3ほど質問しただけで終わる。まあ適当に答えれば、本当にすぐ終わるし、それまでの嫌な検査よりはずっと楽だ。

 ただその院長について言い方が非常に悪いが、見た目ではあたかも認知症にでもなっているかのようなおっとりした雰囲気で、こちらが話をしても、しっかりと聞いているのかどうかわからない様子である。
「あの院長に言ってわかるのか?」僕は健康診断で診療所にいったことくらいしなく、本当にこの不思議な症状がわかるのか心配であった。

 なぜならば子供のころに原因不明の病気になったことがある。病気と言っても入院をするほどではないレベルで、何度も採血をして通院だけで最終的に完治したからよかった。だけど最初に言ったクリニックは比較的若い医者で、ハキハキとやり取りできる相手だったのに原因を特定するまでに時間がかかり、結局対応できないとなる。その後より大きな病院に紹介状を書いてもらい、それで往診をしたという事があった。

「言ってもわからないかもな。でもここが近いし、いいか」こうして僕は上司の許可をもらい、診察を受けに行ってみる。
 いつも見る診療所、いつもなら健康診断だがこうやって症状を抱えて病院に行くと気分が違うもの。なおも腕に痛みを感じながら自分の番を待つ。

「どうぞ」健康診断の時と同じ風貌の院長がいる。頭がスキンヘッドで肥満の体だ。メガネをかけているが、レンズの先を見ても目がとにかく細くて本当に外の世界がに見えているかどうかわからにようにしか見えない。その院長に症状を説明するため、僕は服から症状の出ている腕を見せた。

 その瞬間である。「あ、こりゃ帯状疱疹だ。これは薬剤の入った点滴を打って帰りなさい」と一言。いつもの健康診断の時の穏やかなやり取りではなく、ハキハキと病名を言い当てただけでなく、即座に看護師に指示を出す。僕はそのまま隣の部屋に案内され、その場で点滴を打った。

「本当に健康診断と同じ先生か...…」僕はこれほどにまで驚いた事がない。それでもしばらくこのクリニックに通い、何度か点滴を打つことで、帯状疱疹は改善した。
「見た目で判断してはいけないんだ」僕はそう持った瞬間である。そして病気が感知してから1年後、僕は転勤で別の町に行くことになったが、今でも本当に忘れられない先生なのであった。

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