今日のおうちごはん　第1065話・12.30

「はい、いただきます」まずはビールを飲む。「おいおい、早いよ！飲むのって」遠くからこっちに向かって来たのは、いとこだ。同じ年なので仲がいい。
「いいじゃないか、もう年末だぜ」と返したがいとこは納得せず、「だって、今から餅をつくんだ。飲むのは餅が出来てからにしろよ」いとこはそう言って不満な表情をする。
「コップ一杯飲んだくらいで酔わねーよ」と、少し嫌味っぽく吐き出すと、コップのビールを一気飲み。酒は強い方だがアルコールとあって一気に飲むと一気にほろ酔い気分。だが全く問題なし。

「さて、もち米が蒸せたようだ」別のいとこが来た。3歳年上でリーダー格。
　まだ正月ではないのにいとこが集まっているのには訳がある。実は古くから代々続く一族のため、30日から3日までは本家で過ごすことになっていた。総勢25名ほどが集まるが、それでも本家は母屋と離れを含めて十分なスペースがある。というより普段は離れで住んでいる本家の家族。母屋は旅館として使っていて、年末年始だけは貸し切りとして親族一同が集まって連泊するのだ。

　またこの時期に過ごすスケジュールも決まっていて、30日の午前中にみんなが集まり、最初に餅をつく。無事に餅がつけたらそのあとは遅めの昼食だが、ここからはすでに宴会状況。これが年越を経て3日まで続くのだ。
　基本は宴会をして過ごすが、途中元日だけは初詣に行く。行くところも決まっていて、それが全員揃うからまさしく団体行動。
　そのため参拝の為の行列はできるわ、終わってから食事をするにも数が多いから普通外では食事をしない。だから母屋に戻ってまた宴会。この繰り返しである。

　さて、その宴会が始まる前の餅つきがようやく始まった。昔ながらの臼と杵で餅をつくという。物心ついたときからの風習だから疑問は挟めない。もう、やるということそのものが目的化しているから。

　蒸されたもち米が、臼の中に入った。臼の窪みには白い湯気が立ち込める。その湯気の陰から少しずつ蒸されたもち米が姿を現した。さっそく、杵を持つ。中の良いいとこは、ついた餅に対して合いの手を入れてくれる。

「いくぞ！」掛け声ひとつ杵を振り下ろす。油断すると杵の先が重たいためにすぐに落下しそうになるが、振り下ろすときには勢いをつける。杵がもち米の上に落下すると、軽く着地の音がペタリとなった。すぐに引き上げる。すると合いの手が慌ただしく動き出す。この後再び杵を振り下ろした。
　振り下ろされた杵はまたもち米に着地。あとはこの繰り返しである。

　いつからかは覚えていないが、いつもこのいとことは餅つきコンビになっている。他の親戚に言わせると最もリズムが良いのだという。だから餅つきの中でほとんど餅をついているのはこのふたり。
　後半になってようやく解放され、他の親族や小さな子供たちがチャレンジするという塩梅だ。

　餅つきが始まって、どのくらいが経過したか、「そろそろ交代」の声でようやく解放される。最初は勢いが良いが段々と手がつかれてきて、最後の方はペースが悪くなってしまう。どうやらそれが交代のタイミングだと親戚たちは思っているらしい。
「ふう、疲れた」思わず腕を触る。年に一度の良い運動がこれで終わった。

　目の前では他の親族が交代で餅をついている。それを前にこんなことを言うのもアレだが、餅つきに関しては自分たちがいちばん旨いと自負しているのだ。
「やっぱりみんな下手だな」相方のいとこが横に座った。「当たり前だ」思わず本音が出る。
「だよな」いとこは白い歯を見せると、缶ビールのふたを開けた。プルトップの隙間から炭酸が抜ける音がする。そのまま飲む。「うまい、やっぱり労働の後の一杯だ」そのあと本当の旨そうに喉仏を動かしながらビールの炭酸水を流し込んでいく。
「そうか、でも先に飲むのも好きだな」ここだけは、いとことは考えが違うようだ。少しお酒が入った方がなんとなく力が入る気がするから。

「さて、もう少ししたら餅ができるな」いとこにうなづく。「例年通り今日の昼ご飯は餅だ。年末年始のおうちごはんの始まりだな」そう言って二本目のビールを飲み始める。もう後は飲んだくれて夜まで進むのだろう。

「あ、飲んでるのか、どうしようか？」先ほどのリーダー格のいとこがやってきた。「どうしたの」
「うん、もうひとつもち米を蒸したの残ってんだ。みんな疲れちまって、悪いがもう一度やってもらえるか」
　リーダー格のいとこは困った表情をしている。瞬時にいとこと顔をあわせた。別に事前に打ち合わせもしていないが、もう結論は決まっている。「わかったよ」の一声で、ビールを横にもう一度餅をつくふたりなのだ。

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