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パーキングエリアで褒めること?

「北海道がこんなに広いとは、また眠くなってきたわ。ウファア」と欠伸をする海野沙羅は、瞼(まぶた)を強引に開けて、高速道路を走行している車のハンドルを握っている。
「おい大丈夫か。できたら代わってやりたいが、俺ペーパードライバーだからな」助手席では夫の勝男が、心配そうにときおり転席を見ながら車窓を眺めている。

「いいわよ、あなたに運転させたらとんでもないことになるの知っているから。それにしても今日は釧路からもう200キロ以上走っているのよね」
「釧路空港との往復チケットが、取れなかったんだから仕方がないよ」とここで、沙羅の機嫌が悪くなる。
「行くと決めときに、なんでもう少し早く何で予約しないのかな。おかげでこんな長時間のドライブよ」「仕方ないだろう。取れなかったんだから」
「もう、ちょっと運転する人の身にもなってよ。それだけが最悪! 最後に事故らないかブルーになっちゃう。それ以外は本当に良かったのに」
「わかった。俺が悪い。謝る。怒らないでくれ」といって勝男は、時計をみる。
「沙羅大丈夫だ。今からなら余裕で新千歳からのフライトには間に合いそうだ。ここからは安全運転で行こう」沙羅は横で小さくうなづいた。

「でも、楽しかったわ。釧路と阿寒湖2泊3日の旅」
「そうだな。今回はゆったりとさせてもらったよ」
「それにしても、旅館で幻の魚と言われていたイトウが食べられるなんて思わなかったわ」
「そう、日本最大の淡水魚で釧路湿原とカニもいるそうだな。あと昔のアイヌの人は、皮が硬いから衣服や履物につかっていたとか、小鹿を食べた伝説があると聞いたな。ん?」
「何?」
「いや蘊蓄(うんちく)を語りすぎたかなと思って」
「いいわよ。少しでも話しかけてくれると、気が紛れて眠たくならないから、あっ」「どうした今度は?」勝男は沙羅の機嫌が悪くなっていないか少し警戒する。
「ちょっと次のパーキングエリアで休憩していい。ほんとやばそうだから」

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 車は2キロ先にあったパーキングエリアに吸い込まれた。
「私ちょっと運転席で目をつぶって休憩する」
「おう、わかった」と言って勝男は車を出ていきトイレに入る。
 その際にソフトクリームの看板を見つけたが、そのときは気にせずトイレを済ませた。戻ってくると沙羅がシートを後ろに倒して目をつぶっている。勝男は邪魔をしてはいけないとばかりに、黙ってスマホを眺めて何か打ち込みはじめた。

 10分後に沙羅が目を開けると「よしすっきりした。トイレ行ってくるね」と車を出た。勝男は待っていたが、ふと車窓から見えるソフトクリームの売店が気になってしまう。
「おお、ソフトクリームかあ。北海道のは牛乳がたっぷりでおいしいに違いない。冷たいから運転の目覚ましにもなるかもな。よし、ちょっと買って行こう。なあに2・3分なら大丈夫だろう」といって、鍵もかけずに車を出て行ってしまった。

 入れ替わりにトイレから戻ってきた沙羅。
「あれ、どこ行ったの。あ、ソフトクリーム屋の前にいる! もう車の鍵かけてないのに、なんて危機管理のない奴だ。その上スマホ放置しているし」沙羅は半ば呆れながら、勝男のスマホを見る。「何か書いているわ、え・何?一体。誰にメッセージ?」
 とそこに、勝男がソフトクリームを両手に持って戻ってきた。「開けてくれ、ソフトクリーム買ってきたよ。これ濃厚だって」沙羅は軽く舌打ちしてドアを開ける。
「あのね、車の鍵かかっていないのに。車上荒らしにあったらどうするの」「大丈夫だってほんの2・3分」
「もう、それより何これ!」と言って勝男のスマホに入力していた内容を問いただす。

「ああ、それよく見てごらん。ある人の作品が素晴らしいから、それを書いたものだよ」
「素晴らしい人。どういうこと」と言って沙羅はスマホの画面を見る。

 misaさん素晴らしい点は、あらゆる記事に正の空気、明るさにみなぎっている点です。SNSで最近問題になっているものは、相手を傷つける負の空気。noteでそれは少ないです。でもたまに暗い記事を書く人がいて、負の空気に満ちている。それは見ているほうが辛い。
 でもこの人の記事を何本か見たらわかりますが、タイトルからして明るく「正の空気」。その上つぶやき記事も明るい。だから見ていると、こちらまでもが明るい気持ちになるので、本当に素晴らしいです。

「すごいベタ褒めじゃん。この人そんなにすごいの」
「ああ、やっぱり明るい記事を書いていると、が見ているほうもいい気分だ。プラス思考なんだろうな。今度アドレス教えるからじっくり見たらいい」と言ってスマホをポケットにしまう。
「さっきもそうだが、俺たちはどうも悪いことをよく考えてしまだろ。確かに俺のミスで飛行機のチケットは取れなかった。それは謝る。でもそれがなければ、行きも帰りもこんな大きな北海道を実感できなかった。そう思わないか」
と言い終えると、勝男はソフトクリームを大きな口を開けて食べる。

「た、確かにそうね。本州と比べてスケールが大きいというか。今回は本当に存分にドライブさせてもらったというか。そう考えると素晴らしい体験。あなたの言う通り、良い方向に考えるわ」

「あ、ほら君のためのソフトクリームだ。これ食べてから出よう」「あ、ありがとう」と言って勝男からソフトクリームを受け取る沙羅。さっそくてソフトクリームを口にする。

「さて、新千歳空港まであとわずか。最後にもう一走りだな」先にソフトクリームを食べ終えた勝男がつぶやく。
「キャー!」「ど・どうした」
「最悪!ソフトクリームがスカートに!!」勝男が見ると、ソフトクリームの白い塊の一部が、沙羅の緑のスカートの上に乗っかっていた。

「だから、明るくいこうって。例えばそれはだな。新しいのを買いなさいってことだと思えばいいじゃないか」勝男は沙羅のスカートの上に乗ったソフトクリームをティッシュで丁寧にふき取る。
「え、新しいスカートの買ってくれるの?」
「え?あ、ああわかった。でも今月は出費が大きいから来月買ってやるよ」という勝男の言葉に、口を緩めて大声を出す沙羅。
「やった!急に元気が出てきた。よし空港まで一直線!」というと、沙羅はソフトクリームを一気に平らげ、すぐにアクセルに足をかける。そして軽快に車はパーキングエリアを離れていくのだった。


こちらの企画に参加してみました。
※引用が企画参加分、前後の小話はおまけですが、なぜかそっちのほうが文章量が多いですね(笑)

 misaさんのプロフィールを見ると北海道の人です。奇しくも先週北海道にリアルな旅を敢行しましたものですから、より親近感を感じてしまいました。そこで企画に参加させていただいた次第です。


第2弾 販売開始しました!

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シリーズ 日々掌編短編小説 282

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