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追いつめられた先 第649話・11.2

「ちょっと、道に迷ったわ」恵美は腕時計を見る。取引先に向かう途中、どこかで道を間違えたようだ。「えっとここはどこ?」スマホを見ようとしたが、どこかで忘れているのかいつものところに見当たらない。「え、どうしよう。ええ? どこで落とした? というより時間もあまりないし」
 追いつめられた恵美は、来た道に戻るしかないと思った。180度方向転換し来た道を戻る。しばらく歩く、しかし途中から見たことのない風景、道が分からなくなった。「あれ、確かこの辺りは見てない」恵美は記憶を呼び起こそうとするがうまくいかない。 
「でもここは本当に来ていない。あ、ああそこで曲がるのかも」心当たりのある交差点をさっき過ぎていた。そこに戻ろうと度180度回転して戻る。そして歩く。「あれ、確かこのあたりだと」なぜか先ほどの交差点が出てこない。ところが気が付けば、また知らない風景の前を歩いているではないか。

「え、わからない。どうなっているの?」恵美はそれほど歩いていないのに歩いで戻っても違う風景になっている。全く知らない道だが、これは記憶が飛んでわからなくなった道かもしれないと思った。「これって。まさか若年性の認知症、え、まさか」恵美は焦る。まだ20歳代それが本当ならシャレにならない。というよりこの状況を打破しなければならないのだ。
 恵美は時計を見る。もうあと10分後が約束の時刻。「もし、私が認知症だったとして、それならば」追いつめられた恵美は何かをひらめくと、自信をもって前に進む。「つまり最初の道で合っていたのかもしれない。もうそう信じるしかないわ。今なら間に合う」
 何か吹っ切れたかのようにそうつぶやくと、ひたすら前進する。もう見慣れない風景だが気にしない。このまままっすぐ行けば取引先のオフィスがあるような気がしてならないのだ。
「あと、5分。急げ」恵美は走り出した。ヒールのかかとから鳴り響く音が速度を増してい聞こえている。でも気にせずに走った。全く知らない道と風景の前をひたすら......。

「あ、ああ」時計を見ると遂に時間が来た。思わず走るをの止める恵美。少し息切れが激しい。
「どうしよう。今日はなんて日なの」恵美は途方に暮れる。それは時間が間に合わなかったからではない。ふと見ると真っ暗の暗闇にいたからだ。
「え、ちょっと。これ、う、嘘よね」完全に追い詰められた恵美は足が震える。両手をかざすように挙げて、ゆっくりと歩く。何も見えないからどうなっているのか見当がつかない。「手が見えているから目がということはないわ。でもトンネルここ」恵美は必死に走ったためか知らぬ間にトンネルの中に入ったと思った。両手を前に突出し、どこが壁なのか確認しながらゆっくりと歩く。もはや見えないから方向感覚はない。でもゆっくりと足を前に突き出す。
「後のことはどうでもいいわ。とりあえずここを抜け出そう」追いつめられた恵美だが、もう開きの治った。慎重に足を進めていく。ところが「あ!」

 足が突然穴に吸い込まれた。抵抗する間もなく恵美は落下。

ーーーーーー
「あ、あああ」恵美が気づけば見たことのある天井。数秒後に夢だとわかった。「び、びっくりした。そうよ。今日は休みだったのに何で、悪夢ね」

 恵美は、ベッドから起きて時計を見た。「もうお昼前か、まあいいわ」と思ったが直後に顔色が変わる。「あ! 今日はあこがれの人との初デートの日。あちゃーあ寝坊した。えっと約束の時間まであと2時間。まだ頑張れば!」こうして、夢から覚めても追いつめられた恵美は、慌ててベッドから起きだすと、身支度をととのえるのだった。






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