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海岸に立つ女 第696話・12.19

「あれは!」いつもいつもの時刻に、近くの海岸でウォーキングをしていた義則は、いつも見慣れぬ光景に驚く。「え、まさか?」海岸の先、波打ち際にいつもいない人影が見える。さて女性だろうか?年齢などはちょう水面のすぐ上に太陽が照り付けているため、影のように真っ暗に見えるために分からない。ただ完全に足の先は海についているように見えた。
「そのまま海の中に。自殺か?」義則は足を止める。「自殺なら止めないと。でも待てよ。本当に自殺なのだろうか」
 義則はすぐに止めるのをためらった。もし間違っていたら恥ずかしいから。「あのまま水の中に入っていけば、自殺に間違いない。そうなるかしばらく見届けよう」

 そう考えた義則は、ポケットからスマホを取り出した。もし女性が入水したら、止めに入るつもり。と同時に110番通報しようというのだ。「俺ひとりで対応できないとまずいから通報。だけどこの時点ではまだ早い」
 義則はスマホ片手に、女性のこの後の行動を注目することにした。

 だが、5分、10分が経過しても一向に変わらない。女性らしき人は動かない。入水するわけでも無ければ、どこか別のこと露に移動する気配もなく、同じところに立ったまま。
「一体どっちだ。でもわかるな。入水なんて正常な思考回路を持っていれば思いとどまるだろう。だけど、そうしないといけない何かがあるのだろうか? こうなった以上放置はできない。もうちょっと眺めてみよう」

結局義則は、もうしばらく様子を見ることにした。

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 それから15分くらいが経過。やはり女性の姿はかわらずたったまま。義則は時計を見た。最初に見てから30分。全く動かない。そして最初は上にあった太陽が、徐々に沈み今ではほとんどが水没。かすかに残っている太陽の頭も、もう沈もうとしていた。
「これ以上待つと夜になるな。よし間違ってもいい。女性の様子を見に行こう」
 義則はそう決めると、海岸を女性の立っている方に向かって歩く。この海岸は非常に幅が広い。義則がいつもウォーキングしているところは、多少の問題はあれど舗装された道。しかしすぐ先の海岸は白砂が有名なところとあって簡単に前には進まない。「だから好きじゃないんだよな」足の先が砂の中にのめりこむような状況でゆっくりと海岸に向かう。
 結局10分近くかかってようやく女性のすぐ近くまで来た。そらはすでに真っ暗。うっすらとシルエットだけが見える。義則は大きく深呼吸してさらに女性に近づいた。「なんと話しかけよう。やっぱり『そこで何をしているんでしょうか』かな」

 あと1メートルのところまで近づいたとき、突然のことに義則は思わず体がビクつく。女性が突然目の前で真横に倒れた。「ちょっと、え!」慌てながらも女性に近づいたが、その直後に全身に鳥肌が立つ。
「死んでいる」と思ったが、数秒後に分かった。「人形か」そう、誰かが何らかの理由で、女性のマネキン人形を持ってきて、案山子のようにして海岸に建てていたらしい。それをシルエットだけで義則が女性が立っていると勘違いしたのだ。

 義則はその倒れた人形を見ながら思わず苦笑い。そして、頭の中で次のことが浮かんだ。「もしかしてこれってドッキリで、どこかで密かに動画取られているとか?」義則はそう感じながらも大人しく帰った。さてそれは真実かどうか、最後まで分からずじまいだ。


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シリーズ 日々掌編短編小説 696/1000

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