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雪の中に突入 第756話・2.18

「間違いないようだな。では今から作戦Xを開始する」隊長の命令により、山田ら隊員一同は身構えた。
 ここはある戦いの最中。山田のいる特殊部隊は、敵方領内奥深くに侵入していた。敵方は冬には雪が降り積もる地域。雪深い中を慎重に歩いた部隊は、目の前のひときわ大きいが、明らかに形に違和感のある雪の塊のすぐ近くにいた。

「諸君、事前の調査の通り、雪から細長く伸びた長い木があの中に敵方の秘密基地がある明らかな証拠。あれは木に見えるがレーダーに他ならない」
 山田を含めた特殊部隊総勢20名は、固唾をのみ隊長の話を聞きいる。「だがあのレーダーは戦闘機や戦車など大型の金属にのみ反応することが、わが軍の解析により判明。つまり我々のような歩兵部隊には反応しない」
「隊長それは本当ですか?」隊員のひとりが質問をした。「鈴木、それはこの場所が敵軍の奥地、我々がここまで来るのに3日かかったことがその証明。つまり敵はまさか歩兵の特殊部隊が侵入するとは思っていないのだ」

「では、作戦Xはどのように」これは別の隊員。「佐藤、今から説明しよう。あの雪の塊をよく見ろ。明らかに雪の間に隙間のようなものが見える。あそこから侵入する。そして指示通り、小型爆弾をセット。位置は説明した通りだ。敵の基地内に入るのは危険だが、いわゆる通用口のようなところにセットせよ。さすれば、基地の外がいくら固い金属でおおわれようとも内部から爆破させれば意外と脆いもの。いいな。セットしたらすぐに戻ってこい。では作戦開始」

 隊長の命により、特殊部隊は慎重に基地があると思われる雪の塊に向かって歩いていく。
「あ、山田!お前はここに残れ」山田は隊長から意外なことを言われて唖然となる。「お前は、この後の任務。つまり隊員が爆弾をセットして戻れば、すぐにここを後にしなくてはならない。その際お前が先頭になり、退却の道案内の準備をせよ」

「そ、それは、今までの道を」「いや、同じ道は危険だ。敵方に悟られてはまずい」「わ、わかりました」
 山田はかえって難題を言われたような気がした。別のルートを探せという。山田はしかがなく手に持っていたタブレットで最適な退却ルートを探し始めた。

ーーーーーーーー

「隊長!戻ってまいりました」次々と戻ってくる隊員たち。「よし、あとは」「鈴木だけです」と佐藤。「よし鈴木が戻ってくれば、すぐに退却しよう」
 ところが鈴木は一向になっても戻ってこない。30分が経過した。「うーんまずい、あと5分待とう。出なければ我々が危険だ。5分後に撤退する。
「て、敵が攻めてきました!」「何、まさか鈴木がつかまって!」特殊部隊は手に武器を持つ。「とりあえず相手をかく乱し、その隙に逃げる。急げ!」このとき山田は、事前に退却ルートを調べておいたのが幸いした。敵方との戦闘が始まる直前、ひとりそのルートで退却。

 3日間走り、どうにか単独で敵領地内から脱出し、自軍の陣地にたどり着いた。翌日、自軍の陣地で特殊部隊のその後を聞かされる。隊長以下全滅したという。だが、幸いにもセットした爆弾はすべて撤去されなかったらしく、残された一部の爆弾により見事に基地を破壊。これでこの地区の敵方の戦闘能力が一気に低下し、自軍はここぞとばかりに一気に攻勢をかけこの戦いに勝利し広い領地を占領する。

 だがひとり生き残った山田は、正直なところ複雑だった。そのまま自軍の部隊とともに進軍し、作戦Xで破壊された基地の前に来た。あの丸まっていた雪の塊は木っ端みじんに破壊され、破片のように散らばっている。木のように見るレーダーも雪の上に横たわっていた。
「お、鈴木!無事だったのか」このとき山田は驚いた。敵に捕まって真っ先に処刑されたと思われていた鈴木が無事だったのだ。
「山田、お前も健在か。良かった」ふたりは再会を喜び合う。「実はな、あの部隊の中にひとりだけ、敵のスパイがいたんだ」「スパイ?」「佐藤だ」「まさか......」
「俺は敵方に突入したとき、佐藤の動きがおかしいと思った。そこで基地に侵入をあきらめ様子を見るために隠れていた。そしたら敵の部隊が、出てきて、まっすぐに我が部隊に向かって進軍。たしか100人くらいいたはずだ。とても勝てないと思ったが、そのとき、逆に基地が手薄ではと思って俺が手に持っていた爆弾を仕掛けた。他の部隊の爆弾は佐藤の指示により取り除かれたようだが、俺の爆弾には気づかなかったらしい。しかしあの爆弾の威力はすごかったぜ」

「佐藤は?」「おそらくそのまま基地内に入っていたから死んだだろう」
 鈴木は嬉しそうに武勇伝を語る。けど山田はやっぱり複雑。「早く戦いが終わって平和になったらな」と密かにつぶやくのだった。

 

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