見出し画像

異国のミステリーハウス 第778話・3.12

「異国のミステリーハウスね。うーん」木島優花は、太田健太とのデート。今日は久しぶりにあるテーマパークに来ていた。普段こういうところでのデートはしないふたりなのだが「たまにはいいか」と、ふたりが同時に提案するから即決まった。

 絶叫マシーンやいろんな乗り物で、午前中から楽しんだふたり。午後にどこに行こうとなったとき、健太が見つけたのが「異国のミステリーハウス」という名前のアトラクション。
「どうせ、お化け屋敷のようなもんだろ。優花、暇つぶしに入ってみようか」だが優花はあまり乗り気ではない。「どうかなあ、うーん」と極端に嫌そうでもないが、どうも乗り気がしない。だが健太は明らかに入る気満々。
「優花、これ追加料金もいらないぞ。行こうか」というと、優花の同意も得ぬまま勝手に入り口に入っていく。
「ち、ちょっと待って太田君!」優花もあわてて後を追うが、すでに健太が先に中に入ってしまった。

「ちょっと、もう」優花もあわてて中に入る。中は真っ黒。だけどかろうじて通路があるのが見える。「ゆっくりと歩かないと危ないわ」優花はゆっくりと歩いていくと、遠くに扉が見える。どうやらそれを開けて先に進むらしい。
 ところが健太は相当な速足でいったのか?優花が入った時にはすでに扉の先に行ったようでここでは姿が見えない。「なんでこんな暗くて足場の悪いところに急ぐわけ!」優花は不機嫌な表情のままドアの前に来たので、そのままドアを開ける。

「あれ?何これ」今まで暗闇ばっかりだったのにこの部屋は違う。一面に不思議な立体感のある文様が浮かんで見える。白からオレンジ、紫が複雑に絡み合ったような色合いで、文様自体が葉のようにも見え、不思議な形をしていた。よく見ると人の目にも見えなくはない。
「そうか、ここからが、本番ね。ずいぶんリアリティが高いというか、ちょっと気味悪いわ」優花はひとりで出口を目指した。周りに誰もいないことを良いことにスマホで一枚こっそり撮影。
 この後、先に進もうとしたが、ここであることに気づいた。通路がどこにあるのかわからない。下を見るとそこも同じような文様。「え、これって?」優花が上を見てもやはりおんなじ文様なのだ。

「き、気味が悪いわ、やっぱり出よう」と優花は引き返そうとするが、驚いたことに来た道のドアが見えない。つまり優花の位置からすべての方向がこの文様に覆われているのだ。
「ち、ちょっと!なにこれ、気持ち悪い!」優花はこの文様を見れば見るほど、どんどん気分が悪くなる。だけど周りに誰もおらず、助ける人がいない。「ひ、非常ドアとかないのかしら」優花は探すが文様しか見えず見当たらないのだ。「と、とにかく前に行くしかないわ!出口はあるはず」
 優花はこの不気味な文様空間を、薄目を開けてゆっくりと進む。薄めなので文様がはっきり見えず、少しはまし。ただときおり目が開いてしまうと、文様の目のような視線が合ってしまい、全身に鳥肌が立つ。

「も、もう、こういう時に、なんで太田君行っちゃうの! ねえ、ちょっとひどいわね!」優花は健太への悪口をこぼしながら先に進む。一向に変わらない不気味な空間。異国どころか異世界に迷い込んだかのような雰囲気、このそれほど有名でもないテーマパークにこんなに不気味で恐怖をあおるアトラクションがあるとは...…。優花はその恐怖心を健太への愚痴という形で防御している。
 あれから結構前に歩いたはずであった。でも一向に何も変わらない。前に進んで次の部屋に向かっているはずなのに、その次の部屋への扉が見えない。歩いているのに、まるで同じところに、ずっと留まっているかのよう。

「走るしかない!」優花は思いっきり走ってみた。走ったが結局何も変わらず。そもそも移動しているかどうかすら認識できない。「ちょっと、ええ、助けて!」
 優花は恐怖のあまり、ついに発狂寸前の状況。ムンクの叫びの絵のように両耳を手で押さえてありったけの声を出す。「きゃ-あああ。ダレカアアー!」


「おい!優花、大声出して何している!」健太の声が聞こえ、ようやく恐怖から解放される優花、全身に電気が走る。「あ、ああ、太田君。助かった。もう先に行くから怖かったわ!」
「怖かったって。こんな子供だましのミステリーハウスに入ってか?もう時間の無駄だったよ」

「子供だましって、このリアリティな文様が嫌くて。え、あれ?」優花は見ると、文様はどこにもない。そこは古い洋館の部屋になっていて、薄汚いつくりになっており、蜘蛛の巣やドクロなどが置いているが、見た目からして全然怖くない。

「これ、小学生低学年以下向けのお化け屋敷だったみたいだぜ」健太のあきれ声。
「え、でも入ったら真っ暗で、ドアを開けたら、薄気味悪い文様だけの部屋で上も下も...…」
「何言っているんだ。こんな見た目からして作り物ってわかる洋館。まったく入り口から多少は暗かったが、全然見えるし、ドアを開けたメインの部屋がこれだよ。大体なんだよ文様って!」
 健太の表情は呆れたというものを通り越して、優花に対する冷たい視線ををむける始末。

「いったい何があったのかわからないけど。ずいぶん待っても出てこないし、入り口にもいないから、もう一回入ったよ。そしたらひとりで耳を押さえて震えているし、ついには大声出して。もうこっちが恥ずかしいわ。早く出るぞ」健太はそう言って先に前に行く。優花は慌てて健太に飛びつくようについていき、健太の腕を握る。
「お、おい!ま、それはいいか」優花に頼られているのが分かったのか、ようやく健太の口元が緩み笑顔になった。

 健太の手を離さないように握ったままの優花は、もう一度あたりを見る。やはり先ほどのような文様はない。「いったい...…」優花は最後までわからない。結局そのままミステリーの館を出たら先ほどと同じにぎやかなテーマパーク。子供の歓声が聞こえる。

「あれ作り物ではなくて本当に異世界だったとか??」外に出てからも優花はそう考えたが、そんなことを言ったところで健太を始め誰も信じてもらえそうにもない。「うん、もしかして」このとき優花はポケットからスマホを取り出した。するとスマホの画像の中に...…。





https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 778/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#不思議体験
#テーマパーク
#ミステリーハウス
#健太と優花
#眠れない夜に


この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?