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おだやかな眼差しの色グリニッシュイエローのひと色展 第815話・4.18

「さてここに合う色は何かしら?」私は小さな美術館の学芸員。特別展示室の前にいる。でもまだ新人で見習いだから、ほとんど雑用のような仕事が多い。次の特別展を前に、次回のテーマに合わせた壁の色をどうするかということになり、今回は美術館の学芸員全員が提案をすることになった。その中で、どれを選ぶのかを館長が決める。

 私は、特別展示室にいても全く思い浮かばないから、気晴らしに美術館の建物を出てみた。ちょうど太陽が沈みかけている時間帯。空は青から黄色っぽくなりつつある。「もうすぐ夕方か、はあ、明日の朝までに色を決めないと」
 私は今しばらく風景を眺めていたが、このとき思わず心の中で叫んだ「今の色!」黄色だけど少し別の色が混ざっているこの風景の今の色にピンときた。「この色、これがいいわ。この穏やかなまなざしの色。そうよ、これ特別展に合うわ。きっと」

 私はその場で目の前の風景をスマホで撮影をした。確認するとしっかりと画像からも色が出ている。

 この日美術館の仕事を終えた後、私は駅近くの画材売り場に来た。撮影した色に近い色がないか探し出す。「えっと」私は絵の具の前で何度か往復した。どれが近いのか何度見てもわからない。
「もうすぐ閉店です」とのアナウンス。蛍の光が流れ出してたので私は焦る。「あ、これかな?」私がようやく手にした色、それは「グリニッシュイエロー」だった。


 翌日の会議の席、先輩の学芸員から順番に色の提案をする。十人十色とは言うけれど、みんなそれぞれの色を提案する。「よかった。今のところ重なっていないわ」私の番を前に心の中でガッツポーズをした。そして私は立ちあがると「グリニッシュイエロー」を提案。

 こうしてすべての人の色が提案されると、館長は学芸員たちにそれぞれの色を決めた理由が聞いてくる。先輩たちはみんな特別展との関連性を理論的に説明しはじめた。でも私はそれができないから「直観で決めた」と、正直に言った。それは本当だから。全員が言い終わるとそれまで静かにうなづいいた館長が立ち上がり、こういった。

「今回の特別展のカラーだが、理論ではなく感性で選んでくれた、新人君のグリニッシュイエローが良いと思う。『穏やかなまなざし』は本特別展にも合致する」こうして私の提案が見事に特別展に採用された。その後に感じた館長の私へのまなざしが、グリニッシュイエローのようにおだやかに感じたのは言うまでもない。


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シリーズ 日々掌編短編小説 815/1000

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