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赤い星! 第839話・5.12

「ちょっと!何よ、何てことしてくれたの!!」私は突然体が震えると、パニックになり目の前の親友に怒りをぶつけた。「ど、どうしたの急に、なんでそんなに怒っているの?」
 親友は、なぜ私がこんなにパニックになって怒っているのか全く理解できない。「だから私になぜあの赤い星を見せようとしたの?私に何の恨みがあって!」私は完全に狼狽した。なぜならば見てはいけないもの、赤い星を見てしまったから。

 だが親友はそれでも理解できない。「なんで、赤い星ってあんなに赤く輝くって、珍しいよ。せっかく見つけたから教えてあげただけなのに、そんなに怒るなんて...…」
 目の前の親友とは小学生のころから一緒に遊ぶ仲間。大きな喧嘩もなくいつも楽しくやっている間柄なのに、突然の私の怒りに親友は次の言葉が出ない。ただ恐れた表情をして目を白黒させている。私のあまりもの怒りに、どう対応していいかわからないのだ。

「あなた、私が何でこんなに焦っているのか本当にわからないのね!」私は少しだけ冷静になった。それでも息切れのようなものが起こる。脈拍数が高まっているのか、耳の奥から心臓の鼓動が聞こえだす。そりゃそうだろう。今の私にとってこのときが最も恐れていた直後だから。
「わ、わからない。でも、あの、私がやったことで、すごい傷つけたのなら謝る。だけどなんでそんなに怒っているのか、教えてほしいの。ごめん、私無知だから...…」

 悲しそうな親友。目元が光っているようにも見える。その表情を見て私もようやく完全に冷静に慣れたようだ。親友のそばに来て肩をやさしくなでる。「ごめん、急に怒って。謝るのは私の方かも。知らなかったらそうよね。うん」
 私が優しくしたことで、親友も少し悲しそうな表情から笑顔が戻る。

「じゃあ、聞いてくれる。私がなぜあの星を見たことでパニックになったのかをね」私は再び赤い星を見た。一度見てしまった以上、もう手遅れだと思ったから、もう一度ゆっくりと見れたのだ。確かに親友が言うように月が赤く染まっていて珍しい光景。
 こうしてパニックが落ち着き冷静さを保った今、自らもその時に向けて覚悟を決めるしかないと私は思った。

「私の家では代々の言い伝えがあるの」「言い伝え?」親友は興味深そうな表情をする。私の家はこの町でも、もっとも古くから続く名家。聞けば400年以上続く庄屋だったそうで、その当時は特権階級だったとも聞いている。 
 もちろん今はごく普通の家庭だが、広い土地と古民家が残っているところは確かに違う。

「言い伝え、赤い星との?」親友の問いに私はうなづく。
「私の家では、代々赤い星を見てしまうと、見た人の寿命があと1日って言われているの。つまり私は先ほど見てしまったから、その言い伝えが正しければ明日中に死ぬかもしれないのよ」
 力なく答えた私。親友は、ようやく私が発狂気味にパニックになった理由を理解した。「ごめん、そんな言い伝えあること知らなかったから...…」

 親友も静かに謝ってくれる。だけどそのあと急に元気な声で「私はたぶんそれは迷信だと思う!」
「メイシン?」私が驚いた表情をすると。親友は小さくうなづき、話を続けた。
「昔はいろんな不思議な自然現象、神とか仏を信じていたときには、そういう考え方はあったと思うわ。だけど今の時代そんなのは迷信よ。じゃあ聞くけど、赤い星を見たらどうして死ぬの?その根拠は?医学的な何かが作用するのとかあるの?」

「そ、それは...…」私は小さな子供の時に、まだ生きていたおじいちゃんから聞いた話をおぼろげに覚えていただけ。
その時に「赤い星が出て来るまでに早く寝なさい」と言われただけで、赤い星を見て死ぬ理由までは聞いていなかった。
「大丈夫よ。でも念のため用心はしたら。何かあったらすぐにメッセージ頂戴ね」「う、うん」こうして親友と笑顔で別れ、家に帰る。

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 こうして私が赤い星を見てから1日が経過した。
「あれ、私生きていた?」結局私は死なずに元気そのもの。2日たっても3日たっても何も変わらない。「あの言い伝えってやっぱり嘘だったの?」
 私はこんなことで真剣にパニックになったことを後悔。もちろん親友には謝りのメッセージを送ると。「やっぱり、大丈夫だと信じてたけど」と喜んでくれた。

 私は会社から帰ってきた父親に聞いみる。すると父親は一瞬驚いたが、すぐに口元が緩み、「お前そんな迷信を今まで本気で信じていたのか!赤い星ならこれで何度も見ているぞ。火星とかアンタレスとか」と、望遠鏡の前で一笑に付された。



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