見出し画像

ピュアな創作心 #第二回絵から小説  第759話・2.21

「陽太君のおじさんて、今海外で働いているの?」石見真央は同じ1丁目に立っている団地で、仲の良い横田陽太に話しかけた。
「うん、叔父さんは半年前に、東南アジアに行ったんだ。でも俺の父ちゃんは、ずっと日本。ずっとこの街にいるけどな」ここは団地が10棟くらい並んでいた真ん中に公園がある。その公園には砂場があり、ふたりはいつもここで遊んでいた。

「そうなんだ。私のパパは、ママが難しいことば。えっと『たんしんふにん』というのになっているんだって。来年まで家に戻ってこないの」と、少し寂しそうな声を出す真央。陽太は黙々と目の前の砂場で山を作っている。

 ちょうど桜の花見のシーズンが終わり、公園に立つ数本の桜の花びらはどんどんと散っていた。砂場の近くには桜の木が3本並んでいるためか、いつも砂場に桜の花びらがたまり、ピンク色に染まる。陽太と真央は砂場で最初に山を作った。そのあと、ピンクの花びらを茶色い砂の山の上に下から載せていく。つまりピンクの山を作ろうとしていた。

「でも僕は、叔父さんみたいに、大人になったら海外で働きたいんだ」陽太はそうつぶやく。「ふーん、そうなんだ。でも私はこの街にずっと居たいなあ、ここ好きだし」対照的な真央の反応。陽太はそれをきっちり聞きながら、黙々と花びらを山の上に載せていった。
「僕は、こういう自分で考えた山とか、頭の中で思いついた絵とか書くような仕事がしたいな。それを日本だけでなく、海外の人に売って、いつか有名になるんだ」陽太はひとつ、またひとつとピンクの花びらを山の上に載せながら、夢を語る。

「うわぁ、なんかすごいね。陽太君ピンクのお山を作って海外で働くんだ!」真央は陽太のことがすごくかっこよく感じた。
「そうだ、真央ちゃんのお姉ちゃんは夢とかあるの?」「え、葵姉ちゃんのこと?」真央には年の離れた高校生の姉がいる。真央はしばらく顔を上げて空を見上げながら考えるそぶりを示したが、やがて「わかんない」とだけつぶやく。「夢とかないの?」陽太は繰り返し質問をする。
「うん、お姉ちゃんって、何も考えていないみたいで、いつもママに怒られているの」「そうか、夢とか何も考えていないんだ。僕らからしたらもう十分大人なのにな」
 陽太は真央と会話のキャッチボールを続けているが、手は決して止めない。ひたすら桜の花びらを山に振りかけるようにして染めていく。

「あ、もう桜の花びらないなあ。もう少しなのに」「私取ってくる!」真央はそう言うと、別の桜の木まで走って行く。
 すぐに真央は両手いっぱいにしたピンクの花びらを陽太の前に持ってきた。「おお、真央ちゃんありがとう!」嬉しそうな陽太は、真央の持ってきたピンクの花びらを、つぎつぎと山の上、まだピンクに染まっていないところに置いていく。その横にいた真央は、また走って、別の木の下からピンクの花を両手いっぱいに集めてきた。

「ありがとう、もうこれで多分できそうだ」陽太は元気に立ち上がり、最後の仕上げにかかる。下から積み上げていったピンクの山肌は、わずかに最後の部分を残していて、山頂付近がチョコレートのような色をしていた。ここからは真央も一緒に手伝う。こうしてついに山の先頭の部分までピンクに染まり、陽太の作品は見事に完成した。

画像1

「あの、真央ちゃん聞いてくれる」完成した山を前に、座り込んだ陽太の表情が突然真顔になった。「陽太君、急にどうしたの?」「あの、僕、来週引越しすることになったんだ」「ええ!」突然のことに思わず眼を見開く真央。
「そんな、陽太君と別れたくない!」真央は急にうつむき、目が悲しそうになる。
「ごめん、でもこれ僕が決めることではなく、父ちゃんと母ちゃんが決めたことだから」と、陽太も少し空しそうな表情をした。

「陽太君、どこに行っちゃうの。ねえ、まさか海外に!東南アジアに行っちゃうの?」真央の必死な表情に陽太は首を横に振る。「違うよ」「じゃあどこよ。日本でも北海道とか沖縄みたいに遠いところ?」
 またしても首を横に振る陽太。「違う、父ちゃんがローンというので、3丁目に新しい家を買ったんだ。この前一度見に行ったけど。2階建ての家なんて初めてで」と言って頭の後ろを利き手で撫でるようにかく。
「3丁目?それってこの1丁目から歩いて10分くらいのところね。それだったら途中にある2丁目公園で遊べるよ」「だね!」と笑う陽太。

 ここで真央は、気持ちの中で、寂しさと悲しさが入り混じったことを少し後悔した。



再びこちらの企画に参加してみました。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 759/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#眠れない夜に
#第二回絵から小説
#ピュアな創作心
#団地
#砂遊び
#とは


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?