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不思議な遊園地 第790話・3.24

「ちょっと、洋平さっきから道に迷っていない?」「大丈夫だ、これ舗装されている道じゃないか」鶴岡春香は運転をしているパートナー酒田洋平を心配した。
 ふたりはドライブデートの最中。昨年突然億万長者になり、そのことが原因で、いろんなことで非常に神経をすり減らしていた。年が明けて春の便りが届いた3月になってようやく落ち着く。
「今日は一日遊ぼうぜ」と、この日は、洋平の運転で久しぶりに何も考えないデートタイムとなった。

「ナビの調子が悪いけど、どうにかなるだろう」と洋平はナビを無視して道路の標識などを頼りに運転。だがそれが仇となったのか、いつの間にか山道に入ると、ついにどこを走っているのかわからなくなってしまう。
「そんなに焦るなよ。まだ午前中だぜ」時刻は午前11時35分。ふたりが出発したのが朝の7時なので、すでに5時間くらいは走っている。だがいままでは、ドライブをするとなれば、朝から暗くなるまで走るのが定番。ときには宿泊を兼ねるから、このくらいは大したことには感じないのだ。

「本当に大丈夫なの?なんとなく心配だわ」春香は昨年の一件以来、急に弱気になっている。それまでは洋平の方が心弱い時があり、春香が励ますことが多かったが、やはり急激に大金が入りいろんなことが続いたことで、少し春香のメンタルが不安定になっていたのだ。

 一方で洋平の方はと言えば、まったくマイペース。特に車の運転が好きだから、ハンドルを握りながら鼻歌を歌う始末。「山の緑がきれいじゃないか、そのうち町に戻れるよ」
「あれ?何かあるわ」春香が突然助手席から指さしたもの、緑の木々の間から洋風の建物が見える。「お、なんだろう?」洋平も目の前にある建物群が気になった。
しばらく走ると、運転席側が建物群の敷地内のようなところになっている。洋平が見ると洋風の建物のほかに、何か乗り物のようなものが見えた。「遊園地か」洋平はつぶやく。「遊園地?こんな山の中に」春香は首を傾げた。

 やがて正面入り口のようなところが見えると、道路を挟んだ反対側には駐車場がある。「ちょっと行ってみないか」というと、春香の返事を待たずに洋平は、車を無料の駐車場に止めた。

「車がほかに止まってないわ」春香は早くも不安そう。駐車場は100台以上止められるほど大きいが、ほかに車は止まっていない。駐車場の外は森のようにうっそうとした緑で覆われていた。
 洋平は全く気にせず正面の遊園地を眺める。中央ゲートのようなところには、王冠のようなものをかぶった不気味な人の顔になっていた。
「ねえ、あの顔って気持ち悪くないこれ」「あ、ああ確かに。あれは気持ち悪いな」ここにきて洋平も遊園地に不気味なものを感じ始める。
 チケット売り場のようなところがあるが、何も表示がない。そのうえ入り口ゲートも空いていて自由に入れるのだ。
「これ廃墟かもしれないな」洋平はこの目の前の遊園地は、すでに閉園した廃墟と見た。

「山の中の廃墟って、なんか怖い」春香は震えているが、洋平はそれ以上に好奇心のようなものを持つ。「入ってみないか?面白そうだよ」といって、春香の同意を得る前に中に入る。
「まだ、閉園してしてそんなに立っていないようだ」中に入った洋平は、建物や乗り物が全くさびておらず、すぐにでも稼働しそうに綺麗な姿に驚いた。

「でも誰もいない。ゴーストタウンみたい」春香は洋平の腕を握りながら、怖いもの見たさの表情であたりを見る。人の気配が全くなく、ふたり以外に誰もいない。空を見上げると雲ひとつない青空が広がっている。だからだろうか、風も全く吹いておらず、それがこの遊園地の時が、止まっているかのようになっているのだ。

「あそこがコースターで、メリーゴーランドか」洋平は歩きながら指をさす。「あれは観覧車かしら」と春香。いずれも営業していれば動的に動き出して、ファミリーの楽しそうな様子が見えるであろうアトラクション。だが全く動かない。まるで時が止まった世界にふたりが迷い込んだかのよう。もちろんふたりは普通に動けるし、遊園地が動かない以外に、何か奇妙なことが起きているわけでもない。

 結局30分ほど園内を歩き、敷地内をほぼ見終わる。「本当に閉園しているのか?定休日じゃないのだろうか」洋平は腕を組みながら考える。「で、でもさ、定休日でもこんな勝手に中に入れないわ。ねえ、そろそろここから出ない」
「そうだな。そろそろお昼にしないと」そういうとふたりは、そのまま遊園地を出た。そして車に乗り込む。「そうだ帰ってから遊園地を調べよう」洋平は遊園地を撮影した。

 車を動かすこと5分後には、山を下る道が続き、やがて街に出た。「あ、ここは」洋平は運転しながら、見慣れている風景になり、安どの表情。それは助手席の春香も同じ。「この街なら、やっぱりあそこいかない」春香は途端に元気な声を出した。

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「さてと」午後は普通にドライブを終え、夕方に家に戻った洋平と春香。洋平はさっそく昼前に見た遊園地の正体を確かめようとした。
「山でこの街に降りたから、このあたりの山の中のはずだ。あれ?」洋平は首を傾げた。先ほどの遊園地のありそうなところを見るが、遊園地がない。あるのは単なる山林のみ。「そんなバカな?遊園地がどこにもない」キーワードで検索も試してみたが、やはりそこには遊園地の痕跡はどこにもなかった。
「どうしたの?」「春香、遊園地がないんだ」「え、でも写真撮影」
「お、そうだ」洋平は写真を確認する。だが確認したが何も写っていない。写っていないというより、写した記録としての事実が残っていないのだ。
「え、どういうこと?」「わ、わからない。ち、ちょっと怖くなってきたぞ」「やめて!そんな。ねえ、やめて!」

 ふたりが途端に全身鳥肌に覆われてしまうのだった。 


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シリーズ 日々掌編短編小説 790/1000

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