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未来から来た人? 第958話・9.9

「ふう、このままだと、あの立場かなぁ」と頭の中でつぶやいた私は、終活の最中である。リクルートスーツ姿で日々会社に応募し面接をするが、なかなかうまくいかず内定がもらえない。
 今日も午前中一件面接を終えたが、あまり期待できなさそう。私は午後になり、少し遅い目のお昼を調達しにコンビニに入った。コンビニの店員を見ながら、このまま就職先が見つからないとコンビニ店員のアルバイトしかないのかと思いながら小さくため息をつく。

 とりあえず、近くの公園でお昼を食べようとおにぎりを2個買い、コンビニを出た。

 時刻は午後1時、すでに近くのオフィスのお昼休みが終わったからであろうか?公園には人影が無くベンチは空いている。今日は午後4時からもう1件の面接があった。とはいえすでに10社くらい応募して見事にすべて撃沈しているため、始める前から期待できない。
 私は空いているベンチに腰掛ける。ベンチの後ろには大きな木が立っていた。木の上からは枝からの青葉が生い茂り、まだ残る厳しい日差しを遮ってくれている。おかげでときおり流れる風が心地よい。

 私はおにぎりと同時に買っていたペットボトルのお茶を飲む。なかなかうまくいかないものの、お昼のひとときだけは心が和むのだ。
 ここで私がおにぎりを口にしようとしたとき、「あ、あのう」と私の後ろで声がする。私は当初気にせずにおにぎりを一口食べたが、「す、すみません!」と先ほどより大きな声を出す。
 私は「誰だろうと」思わず振り返ると、木の陰からあまり見たことのないファッションに身を包んだ同世代の女性がいた。

「はい、私に何か?」すると相手の女性は意外なことを言い出す。「あ、やっぱり、私のご先祖様だ!」
「はあ?」私はそのいでたちも含め変な女性に絡まれたと不快になる。ところがその女性は「山田ひかりさん、ですよね」という。
「私の名前を何故?」私は思わず目を見開く。その直後に襲って来る強烈な鳥肌。その女性に恐怖心を覚える。

「や、やっぱりそうですね。ご先祖様初めまして、私は300年未来の西暦2322年から来たYHといいます」
「わ、わい、えいち、さん?」私は当初は怖かったが、YHと名乗る女性の笑顔は、とても可愛らしいし、私を慕っているように感じた。そのため少しずつ気持ちにゆとりが出てくる。
「どうせ、夕方まで暇だし」と思い、子孫を名乗る謎の女性の相手をすることにした。

「あのう、300年未来って?タイムマシーンで来たの?」あり得ないと思いつつ、その女性YHに話を合わせてみる。YHは首を横に振り。「違います。マシーンなんてそんな古くさい。あ!」ここでYHは慌てて口の前に手を置き言葉を止めた。そのしぐさがとても可愛らしい。
「ああ、そうなんだ。マシーンってあなたの住む未来の世界からしたら古いことなのね」私はYHが可愛らしいから、どんどん話に乗ってあげた。
「あ、はい。私の時代はこのベルトでタイムトラベルができるんです」とYHが、自ら付けているベルトを指さす。「へえ、そんなベルトで時間旅行ができるんだぁ」私は思わず口元が緩む。

「本当は、西暦2200年より過去に行くのは良くないとされているのですが」「え、なんで?」私が聞き返す。
「たぶん、ご先祖様は、私が本当に未来から来たなんて信じてないですよね」「え、え、いや、そんなこと!」私は思っていることとは違うことを口走る。

「いいんです。西暦2200年にタイムトラベルの技術ができたから、それより過去の日とは信じてくれないんです。だからその時代に未来の人間が姿を見せると、その社会に混乱が起こると言われ規制がかかろうとしているんですよ。あと10日ほどで2200年より過去への渡航禁止令が公布されるるので、その前にぎりぎりのタイミングで来ちゃいました」
 と、視線を落としながら照れくさそうに語るYH。

「そうなんだ」このころから私は、本当にこのYHという女性が未来から来たような気がしてきた。「でも、なんで私に会いに来てくれたの?」私は、主そろくなり次々と質問してみる。
「それは、1か月ほど前に私の家系を確認したときです」
「そんな未来でも家系ってあるの?」
「もちろんです!この時代よりもはるか過去、紀元前後2000年位前からの家系がどの家にもあり、みんなご先祖様がどういう人かということを確認しあっています」
 YHは力強く語る。先ほどのような照れた表情ではなく、私の表情を見ながら。

「それで、私のことを知ったのね」「はい、それも私の家系で21世紀初頭から後半にかけて生きていた山田ひかりさんというご先祖様は、最も素晴らしい経歴を残した人だとわかったのです」

「ええ!」私は次の言葉が出ない。300年も未来の人に歴代の中で最も素晴らしい経歴を残しているといわれるのだから。
「本当に?」我に戻った私が聞き返すと、「はい、ご先祖様のおかげで、私の家は上流階級の仲間入りができて、その繁栄は300年たった今でも続いています。すべてはひかりさんのおかげなのですよ。だから一度どんな方かお会いしたかったのです!」
 ますます語気を強めるYH、このころになると私は、目の前の女性が本当に300年未来から来たのだと信じ切っていた。

「そう、わざわざ遠くからありがとう」「とんでもないです。お会いしてやっぱり素晴らしい方だとわかりました」YHは可愛らしい笑顔で一礼する。
「だったら、教えて未来の人。私この後どんな人生が待っているの?」そんなに凄い経歴を残すのなら、知りたくなるのは当然のこと。だがYHは途端に表情が硬くなる。

「そ、それは、ごめんなさい。具体的なことを言ってしまうと、私は警察に捕まり、終身刑以上がまぬがれません。これは2200年以降の過去に行った時でもなのですが、過去の人に未来の具体的なことを語るのは、それにより時代が変わる可能性が高いので、最も犯してはいけない大罪なのです。ご先祖様ごめんなさい」
 YHはそういうと、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。

 私は白い歯を見せて笑顔になり、「わかりました。それならこれからの私の人生がどうなるか楽しみにするわ」と答えてあげると、YHは安どの表情を浮かべる。
「あ、ではそろそろ未来に帰ります。過去への滞在時間が15分以内と決められていますので」

「そう、もっと話をしたかったのに残念ね」私はつまらないと思ったが、ふと思いつく。「あ、そうだ、これあげる」私は、まだ手を付けていないコンビニのおにぎり1個をYHに手渡した。
「あなたにとって偉大な存在と言われている私からのプレゼント。これはあなたの時代から300年前の食べ物よ」
「そんな、いいんですね。ありがとう。宝にします!」YHは嬉しそうに手に取ると、ズボンのポケットのようなところに入れる。その位置は一瞬膨らんだがすぐに収まった。

「ありがとう、未来の人。私もあなたに会えて嬉かったわ」と私が声をかけると、YHは満面の笑顔になり、「私もです。ではご先祖様失礼します」と一言。その瞬間YHの姿はいなくなり、大木の姿だけとなった。

「あ、消えちゃったわ。本当に未来の人かわからないけど、私は信じようかな」私は食べかけていたおにぎりを最後まで食べると。もう一度ベンチに座りなおす。
 ちょうど、公園の遠くから犬の散歩をしている人が現れた。YHとの怪しい会話を聞かれずによかったと胸をなでおろす。
「ふーん、私が歴代で最も偉大な人か......」未来人を名乗る人にそういわれたことで、この後控えている面接が断然楽しみになったのは言うまでもない。


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