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画伯と酒を飲む? 第952話・9.3

「ええ!おまえ、そんな才能があったのか、びっくりしたよ」友達が遊びに来た。僕の部屋に来て、完成したばかりの絵を見て驚いている。
「え、あ、まあ」まさかの友達の反応で、僕は思わず照れるしかない。

「これは、え?油絵だよな。へえ」なおも驚いている友達。僕はこの友達にあまり褒められたことが無いだけに、まさかこんなところで褒められることになるとは!僕の方がびっくりだ。

「で、でもこれってさ」僕が言おうとするが、友達は僕のことを気にせず、作品をスマホで撮影する。するといきなりSNSで拡散してしまった。
「え、そんな!」僕は友達のとっさの行動に、次の言葉が思い浮かばない。

「いいんだよ。こんな絵描いたんじゃもうさあ。ちょっとすごいよ。おお、さっそくみんなから『イイネ』とかついてるよ。おまえやったなあ」
 友達はまるで自分事のように喜ぶと、僕の肩を軽くたたいた。

「もっと他に描いてないのか」友達は、いきなり僕の部屋を勝手にのぞき出した。「ち、ちょっと待ってくれ、勝手に見るなよ」
「おお!お前なんでこんなところに!」友達は勝手に僕の部屋から別の絵を見つけてきた。「こういうものは、額に飾っておくんだよ。まあ、お前、絵の才能がないと思っているからこんなことしてんだけど、これ本当に凄いんだぜ。おお、どうだ、この反応だよ!」
 そういって友達は僕にスマホを見せる。確かに評判は良さそうだ。

「え、いや、そのお......」「よし、お前、今から画伯と呼ぶわ。俺はマネージャーやるからさ。早速だが今から今後について会議と行こうじゃないか」「え、が、画伯って!」僕が戸惑っているのに、気づいていないのだろうか?友達は勝手に物事を次々と進めだした。
「ようし、画伯、まずは前祝だ」と、なぜか友達は酒を持ってきている。いや本当は、僕の家で飲もうと思って、友達は遊びに来たようだけど、なぜか違う方向に進んでしまった。

「わ、わかった。飲もう。飲むよ。でもこの部屋じゃなくて」
「わかってますよ、画伯!大切な作品を汚したらダメですからね」そういうと友達は立ち上がり、「隣の部屋にするか?」と勝手に決める。
「いや、あ、まあいいけど」僕は友達マイペースぶりに少し不快になった。けどこの友達はいつもこの調子。不快にはなるけど、彼の悪気のない性格が好きなのか不思議と許せるのだ。

「カンパーイ」と隣の部屋で飲みだすと、友達はまた語りだす。「画伯、さっそくだが」「あの、画伯はちょっと」僕が否定するが、友達は首を横に振り。「いや、画伯、そうでないとダメ、あんな素晴らしい絵を描くのに違うも何もない。これからこの絵をどんどん売り出さないといけないから、画伯には自覚を持ってもらわないと」
「いや、だからそのお」
「さ、画伯飲みましょう。今日は作品のことを忘れて未来について語りましょうよ」
 マイペースな友達は、僕にどんどん酒を注ぐ。僕は正直弱っていたが、友達が楽しそうだし、僕も酒が好きだからもうどうでもよくなってきた。

「画伯、まずはネットで売りだしましょう。それから、コンテストに出るべきです。あの絵なら入選はおろか必ず特選が取れます!」と、顔を赤くしながら上機嫌に友達は持論を語る。その間も友達と僕はひたすら飲む。

「僕は、ですね。ヒッ、画伯の絵を、見出してですね ヒッ!」友達は、いつも以上に勢いよく飲んだためか、すでに酔いが相当回っているようだ。「も、もう、今日は」僕は友達を止めようとするが友達は、また語る。

「画伯!やりましょう。僕はマネージャーとして、ネットの販売のことやコンテストの応募、それら一切をやります。画伯あなたはこれまで通り、絵を描いてください」
「え、いや、その、あああ」友達は僕まで酔わそうとしているのか、語りながらまた酒を注ぐ。これは一歩間違えれば何らかのハラスメントではと思いつつ、僕も酒が好きだから注がれると、ついついと嬉しくなってしまう。
「ああ、おいしい、でも、もう終わりに」気が付けば酒が空になっていた。 

 友達は顔が赤い。「夢、夢ですよ、画伯、ヒッ、本当は近くの居酒屋で、夢の続きをと思いましたが、僕はもう酔いました。では、画伯、自由に好きな絵を描いてください。僕は必ず画伯を有名にします。じゃあヒッ!」
 そう言ってふらつきながら立ち上がると、ひとりで玄関の方に。僕も後を追いかけるようについていくと、友達はそのままドアから外に出て行った。

「あ、あ、千鳥足だけど、ええ、大丈夫かな」僕は心配になったが、友達はどんだけ酔っても、ちゃんと帰ることも知っている。
「記憶が飛ぶほどでもないようだし、ま。いいか」
 僕は友達の姿が見えなくなったので、ドアを閉めた。だけど閉めてからしばらくすると思い出す。
「ああ、どうしよう。僕のこと絵の天才のようなこと言ってたけど......」そう言って部屋に戻る。そこには絵が散らかるように散乱していた。そのうちの絵をひとつ取り出すと僕はつぶやく。「これ、塗り絵なんだけど......」


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