わたしの野菜づくり　第1084話・1.20

「だとしたらこれも運命」俺はそう考え、最悪の事象に対してもあっさりと受け入れた。俺はこういうのが考えが好きである。世の中思い通りにいかないとき、確かに辛いがそれを運命と受け入れることで気持ちが楽になった。
　今日もひとつの思い通りにいかないことを運命としてあっさりと受け入れる。それは周囲の人間から見たら大したことが無いからそれでよかったのだろう。

　だがいちどそうはいかないときがあった。あの時はさすがにこの運命に対して大いに悩むことが発生してしまう。「こ、これは！」俺は目の前に気味の悪い動くものを見てしまったあの時だ。

　俺は野菜を作っている。野菜と言っても農家のような職業ではなく、趣味の延長戦つまり家庭菜園だ。
　あるとき、何を思ったのか園芸売り場に立ち寄り菜っ葉の種を買った。スーパーで売っている完成品を買えば手早いのだが、あのときふと考えた「一度種の段階から育ててみよう」そんな衝動にかられた。
「こんなゴマのようなものを土に植えて、水をやるとやがて緑の芽が出て、それが育って花開くか」となどと思って、園芸コーナーで種を買う。さっそくそれを撒いた。そのあと水をやる。すべては種のパッケージの裏に書いた通りの事をしただけであった。

　こうしてしばらくすると俺は感動してしまう。土の上から芽が出てきたのを確認したのだ。「へえ、本当に出てきたなあ」当たり前の事であるが、初めて野菜作りに挑戦したから、そんなひとつひとつの事に感動する。
　こうして目が出いると小さな葉が誕生し、さらに伸びていった。気が付けば、十分な大きさに育っている。だがまだ食べ物にするには、遥かに遠い。

　そんなある日、いつものように苗を見ていた時のことだ。葉の裏に何か動くようなものが見えた。「なんだろう」と思ってみたときに、俺はそれが虫であることに気づいたが、その見た目に衝撃を受ける。とにかく気味が悪い。不気味なのだ。「うわぁあ、これはちょっと」結局俺はそのまま何もしなかった。これが大きな失敗につながる。

　数日後に苗を見ると、その恐れていたことが起こった。「葉が無い」つまりその虫が全部食べてしまったようだ。せめて虫を駆除すればこのようなことは無っただろう。だが虫そのものを恐れて何もできなかったことで、野菜作りに失敗したことは事実だ。
　いつもなら「これも運命」として片づけられる。だがこのときは違った。「あの時に、逃げなければ」と、俺は自らを責めてしまったのだ。

　その日は久しぶりに落ち込んだ。害虫駆除の重要性、そのために農薬というものが使用されるということは知っている。その一方で、その農薬を使わないという選択肢で農家をしている人が一定数いるのも事実。だがそれはいかにリスキーなことであるのかを今回目の当たりに見たのだ。
「虫はそんなに早く食べつくすのか...…」俺の受けたダメージは2・3日は引きづったのかもしれない。

　だが俺はここでは諦めなかった。「今度こそ」と思い、一週間後再び園芸売り場を目指した。この前の品種とは季節がずれているから別のにしようと思いながら。
「虫に食われにくい野菜は無いかな」俺はここでひとつ賢くなった。虫が好物とする野菜に挑戦したので、あっという間に虫にやられたのだ。だったら虫に食われにくい野菜で挑戦すれば勝機があるのではと踏む。

「おお、あるな」俺はネットを駆使して調べた。するとやはりある。「ほう、しそやバジル、うん、それから青ネギ、ほうれん草にベビーリーフか。それからスプラウトキャベツ、白菜、ルッコラと結構あるじゃないか」

　それを知ったとき俺は自信を持てた。この中から選ぼうと。さらに俺は虫の予防対策と、虫の駆除方法についても学んだ。「あらかじめこれを調べておかなかったのが間違いだったなあ」俺はそう思った。だが同時に「失敗は成功の母」という言葉を思い出す。
　このとき俺はいつもの俺、つまり運命を受け入れるということを思い出した。たとえ野菜作りに失敗したとしてもその結果、こういう対策を考えるようになる。つまり失敗したのも運命ではないかと。

　こうしてリベンジとばかりに園芸売り場にきた。そして初心者でも育てやすい虫のつきにくいものを選んだ。また不測の時代に備えて虫を駆除できるツールも入手する。「今度は負けぬ。俺は必ずこのゴマのような種から成長した野菜を食べるんだ」

　そう誓いながらレジに向かった。こうして新たに種をまく。まだ撒いたところなので、今回はどういう結末を迎えるのかわからない。だけど成功すれば御の字だ。たとえ失敗したとしても次の対策を考える。なぜならばこれが運命だと信じているから。

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