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想定と現実のデート 第1042話・12.5

「現実世界は、制限が無くて良かった!」無意識につぶやいた言葉。すべてがうまくいったために思わず出た歓喜の言葉だ。
 だがそれを見知らぬ誰かに聞かれてしまったようだが、その聞いた本人からしたら非常に不快だったようだ。
「何が制限無しだ!」と、こちらに向かって大声で叫ぶ。「関わってはいけない」と思いそれを無視したが、相手はそれでは飽き足らずさらに「制限だらけだ!制限だらけだ!」その人はそのあと何度も張り裂けるような声を出し続ける...…

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「終わったのか」出演者やスタッフを紹介するエンドロールが流れる。映画を鑑賞していた江藤は不思議な余韻に浸っていたが、その横にいた英国人パートナーのジェーンは首をかしげる。「エドワード、これ、よくわからない」
「うーん、そうかもな。日本の映画は小難しい内容が多いからな」江藤も余韻に浸りつつ、いったい何を訴えたい内容だったのかよくわかっていない。だからジェーンの言っていることも理解できる。

「まあ、会社の同僚からもらったチケットだ。ジェーン文句を言うな」江藤は席を立つとジェーンも後に続いた。
「世間はクリスマスモードだなあ」午後の明るいうちに映画館で映画鑑賞したふたり、外に出るとすでに真っ暗になっている。代わりにイルミネーションの明かりがまばゆく輝いていた。

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「という予定で行こうかなあと思っているんだ。だからあのあたりで、評判の良い店探してくれないか」
 江藤はメッセージをジェーンに送る。普通にエリアを言えばいいものをなぜか、当日のデートで想定される情景描写まで書いてしまった。
だがそれを見たジェーンは不満そうに返信。「難しい映画?そんなものは見たくない!」と返信が来た。

「いや。だから」江藤は説明する。会社の同僚とは言っているが、実は取引先からもらったものである。江藤は取引先からもらった映画を見ておかないと、世間話とか今後のやり取りに支障をきたすと考えた。そこで江藤がジェーンと映画を見れて内容を理解しようというわけである。
 だからどんな映画なのかわかっていないが、タイトルからして難しい内容のような気がしてならない。

「せめてタイトルを教えてよ。どんな映画なのか事前に調べたい」とジェーンからの返信。「わかったよ」そう言って江藤は映画のタイトルをジェーンに送った。「そのあと美味しいもの食べよう。じゃあ明日な」

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「エドワード、この映画予告とか見たけど面白そう!」デートの当日、待ち合わせ場所で合流したジェーンは自慢の金髪をなびかせながら開口一番、そんなことを言う。
「え?そうなのか、まあジェーンが面白いというならいいだろう」
 こうしてふたりは映画館に向かう、まだ明るい午後のひととき、そのまま映画館に吸い込まれ、作品を鑑賞した。

「エドワード!」突然聞こえたジェーンの声。「え、あ、あれ?」江藤が気づくとエンドロールが流れている。「映画終わったわよ。エドワード大いびきかいてたけど」
「あ、寝てたか......」江藤は前半部分は見ていた。ジェーンは面白いと言っていた映画であったが、序盤は単調な内容で、きれいな風景が出てくるが、登場人物は、単調な語りが続きいまいちインパクトが弱い。そのためか日々の疲れが出たのだろうか?江藤はそのまま眠っていたようだ。
「ありゃりゃ、で、どうだったんだ?」

 江藤がジェーンに映画の感想を聞くと、ジェーンは立ち上がり、「面白かったよ。最初の画像はビューティフルだったけど、会話が暗くて『ナニコレ』って思ったけど、途中からどんどんエキサイティングになって、最後はいい感じだった。最後の『制限だらけだ!』と主人公に向かって叫ぶ、親父の表情が何とも良かった!」
 
 今の話ではやはりいまいちわからないが、とりあえずジェーンが「面白かった」というのだから良いのだろう。江藤は「詳しくは後で教えてね」とだけ言うと立ち上がる。ジェーンはすでに立ち上がって、出口に向かって歩き出した。

 外に出ると予想通り空は暗くなっている。だがイルミネーションはそこにはない。「あれ?あったと思ったんだけど」江藤は首をかしげる。
「エドワード、それは隣のストリートよ」とジェーンのつぶやき。「あ、そっか、ああ、思い出した」江藤は昨年もこの時期にストリートを歩いたことを思い出す。
「イルミネーションの通りにいいお店見つけたわ。そこに行きましょう Let's go!」とジェーンの掛け声と同時に、手をつないだふたりは目の前の角を左に曲がる。

「最初の想定通りとはちょっと違うけど、ま、いいか。美味しいもの食べよう」と心の中で江藤はつぶやいた。

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