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マンガ感想文 第1003話・10.24

「このオチじゃあねえ、ダメだってもう」Aは心の中でつぶやくと、小さくため息をついた。これはとあるマンガについての感想。Aはこれまでのマンガのストーリーを追いかけながら、感想を考えていたが、マンガの途中にストーリーとは無関係なオチがところどころに付いているためか、これがAにとっては気に食わぬ。

「このマンガは、ギャグマンガではなかったはずだが」とAは感想を紙に書きながらつぶやく。
「でもさ、シリアスな展開の中でもギャグっぽい会話が入ったって、良くないか」Aのつぶやきを聞いて現れたのはBだ。「だけど、これじゃあ全体の流れを壊しそうだけどな!」Aは非常にご立腹、目が鋭くBをにらんでいる。
「まあまあ、そんなに怒るなよ」Bはなだめるが、Aはさらに怒りがこみ上げる。「このマンガの作者がダメなんだよ絶対に。俺マジでこの作者ムカつく!」

「お、おまえ、内容はともかく作者にケチ付けるのか。それは行っちゃいかんって」Bは必死になだめる。
「だってだよ、最初の主人公だったのが途中から出てきたキャラクターに主役の座が奪われているじゃないか。いったいどういうことだよ。ふざけんな!」
 Aは、ますます苛立っている。Aは作者に対して苛立っているのに、Bに対して怒りをぶつけた。Bは自分が責められているわけではないとはいえ、一方的に罵倒の言葉を聞くのはつらいもの。

「あらら、Aさん何を怒ってらっしゃるの?」ふたりの間に現れたのはC。「ちっ、お前か、おめえの顔なんか見たくねえよ」
「Cさん、あっちに行った方がいい。今。A本気でキレているから」慌ててふたりの間に入ったB。だがAはBをはねのける。
「おい、ここではっきりしようじゃないか。このマンガって絶対におかしいんだ!」

 Aの怒りにCも一瞬後ずさりする。「Aさん、そんなに本気なって...... 今、マンガの感想書いていたんでしょ」「ああ、そうだ。マンガだ。って、お前、よりによってこのマンガ馬鹿にしてんのか!」
「なに、しているわけないでしょう。私はこの作者の方が頑張っているから。馬鹿になんかできないわ。クライマックスに向けてどんどん楽しくなる。私は作者の方がどんなストーリー展開してくれるのか、いつも楽しみにしているの」
 Cは女性である。男性作家が繰り広げる物語がよほど気に入っているのか、マンガの感想を話すときはいつも目を輝かせていた。恐らく本気でこのマンガの事が好きなようだ。

「納得できねえな。ギャグマンガみたいなのが入りすぎているし、だいたい最初の主役が何でわき役になってんだ!」
 相変わらず怒りまくっているA。だがCはようやくAが起こっている理由がわかった。 
「なるほど、そういうことね。だったら作者に直接訴えたらどう。本来の主役がわき役になっているのおかしいって」
「Cさん、ちょっと」Cが意外なことを言い出したのでBが窘める。だがCはBのことを完全に無視していた。
「それがいいわよ。確かにあなたの言う通り、最初の主人公が途中からわき役になっているのは、みんな不思議に思っているわ」
 CがAの気持ちと同調したことで、Aの怒りが少しずつ収まっている。「お、おまえ、まさかお前が、そんなことを言うとは」
「あら、そうでしょう。私は作者の方が意図的に本来の主役を隠すようなストーリー展開をしていると、密かにみているの。これも私の勘だからどうかわからないけど、恐らくそろそろ本来の主役が、本来のポジションに戻るのかなって思っているわ」

「おい、Cマジか、マジでそんなこと」AはCがあまりにもきっぱりとマンガの今後のストーリーを予測するのに驚いている。それどころか主役交代に対して、もっとも反対しそうな筈のCがそんなことを言うことで、Aの怒りは完全に収まった。
「そうか、じゃあ主役交代、本来の主役がまた主役になるんだな」「それは私ではなく作者さんに問い合わせてみたら」
「おう、そうするよ。Cありがとう。それじゃ俺、行ってくるよ」最後の方はAがこみ上げる笑いをこらえているかのように嬉しそう。そのまま立ち去った。

「ちょっと、あんなこと言っていいんですか?」Aが立ち去った後、BがCに話しかけてくる。「え、うん、でもそれがいいと思うわ。やっぱり今の主役は荷が重いと思う。そろそろ交代して、今の主役はわき役として支える立場になった方がいい。私はその方が楽」そう言って、Cも微笑んだ。

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「あれ?」「兄ちゃんどうしたの?」ひとつ年上の兄が首をかしげている。
「おい、このマンガ、先週までとはストーリーがおかしくなっていないか。何で主役のCがわき役みたいになっていて、逆にAが主人公になっているんだ!」兄の持っているマンガを見た弟、兄からマンガのストーリーを見せてもらう。しばらく読む弟は何度もうなづく。
「兄ちゃん、それは本当の主人公はAだからじゃない?」弟が持論を語る。「だってAは最初から出ていたし、Cは途中から登場したのにいきなり主役っぽかったけど、実は本当の主役はAというオチかもしれない。そろそろ物語の終盤だし」弟はこうしてマンガの感想を兄に伝える。

 弟は昔から勘が鋭い。それを聞いた兄は首をかしげながらも「そうか、お前の言う通りかもな」と一応納得する。
 だが弟は実際には漫画の登場キャラクターだったAが、Cの同意を得て作者に駆けより、主役の座をCから奪い取ったという裏の事実までは知らなかった。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1003/1000

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