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線路の上のチキン野郎? 第705話・12.28

 ここはとある駅のホーム。まもなく列車が来るからと、待機しつつ呆然とあたりを眺めていると、全身黒づくめの鳥がどこからともなく現れ、そして線路の上に立つ。そしておそらくカラスと思われる鳥は、こういうことを語っりだしているように聞こえた。
「うん、お前、何見ているんだ? ほう、俺の言っていることが理解できるようだな。俺は鳥の中でもずるがしこい烏(カラス)だ。大体鳥よりも何か足りないと思い込んだ大昔の愚かな連中が、俺様に横棒を一本少なく表現しやがった。舐めんじゃねえ。俺はな愚かどころか一般的な鳥よりも賢いんだぞ。特に都会では、早朝にゴミを漁るやつとして実証済みだぜ」

 カラスは何か粋がっているようだ。確かに他の鳥、鳩や雀あたりと比べると、カラスの印象は何か自をアピールしようとしている気がする。だけどそもそも烏という漢字で横棒が少ない意味は、奇しくも一昨日にある情報をきっかけに知っていた。
「鳥の目を意味する横棒が、烏の場合黒くて見えないかららしいぞ」と、心の中から、カラス相手につぶやいてみる。「もしかしたらカラスに通じるのでは」と、かすかな期待を持って。だがその期待は大きく裏切られた。テレパシーというのは本来はないのかもしれない。カラスはこっちの伝えたいことを全く理解せずまた語りだした。


「そうだ、俺様が何でこんなところにいるかって、わかるか。ここには定期的に列車が来る。だが俺様はそれを聞いて、ビビッて逃げるようなチキン野郎じゃあねえってことさ」
「カラスにチキン野郎?」少し頭が混乱したが、カラスからの言葉はなおも続く。「言っておくがな、チキンと言っても鶏ではないぞ。弱虫の臆病者というチキン野郎ではないってことさ。まあ見ておきな。まもなく列車が来るが、そのぎりぎりまで、この場所に居てやるからさ」
 
「カラスは目が良く頭が良いとは聞いていたが、本当だったのだろうか?」こんなこと伝えてきているということは、実はカラスが頭が良いというのは嘘ではないか、そんな気がしてきた。「もし本当に頭が良ければ、こんな愚かなことはしないはず。なぜならば、この駅で停車する列車ならば駅に来れば急速に速度を落として停車する。さすれば、カラスの言っているようにギリギリまで線路の上にとどまっていても問題がなく飛べるだろう。
 だがもし通過列車だったらどうなんだろう。高速で勢いよくホームを駆け抜け、待っている人たちにつむじ風のようなものを吹き付ける高速列車ならばどうするのだ。いくらカラスに立派な羽根があっても、直前ならば間に合わないのではないだろうか?「確かこの駅は優等列車は止まらなかったはずだが」

 しかし、同時になんで今ここに立っているという現実を思い出した。「ここにきているのは、間もなく停車する列車を待っているからだ。「まさかそこまで計算? いくら頭がいいからと言っても鳥類のカラスにそこまで読める力が」
 などと考えていると、気が付いたらホームから線路に立つカラスの姿がない。「あれ? 消えた」いつの間に飛び立ったのだろう。頭であれこれ考えている間、視力がカラスの姿を認識せず、脳からの神経細胞から映し出されるであろうイメージが浮かんでしまったのが、災いになったのかもしれない。

「なんだ、つまらないな」そう思っていると、まもなく列車到着のアナウンスが、ホームに流れてきた。列車は遠くから警笛をひとつ、挨拶代わりに鳴らすと軽快にホームに入ってくる。徐々に速度を落としてこっちに向かってきた。「あ!」その時思わず出しかけた声を止める。なんと、真下の死角から黒い影、先ほどのカラスが突然飛び出しそのまま遠くに向かっていた。列車までの距離はわずか数メートル。
「ハッハハ、言ったただろう。おいらはチキン野郎じゃねえぜ。じゃあ、またどこかでな。あばよ!」
 確かにそう言った気がした。カラスはそのまま勢いよく遠くに飛んで行く。そして列車がその視覚を遮るように入ってくる。やがて列車は止まった。
「でもあいつ、ハシブトガラスとハシボソガラスのどっちなんだろう」到着しドアが開いた列車に乗りながら、どうでもよい疑問が頭をよぎった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 705/1000

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