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killing comment ~東海4県ミステリーツアーの始まり~

 出張から戻ってきた俺がが家に戻ると、妻が薄暗い部屋で家事もせずにパソコンの前で何かをしている。「おい、一体何をしているんだ!」「killing commentを探しているの」

「キーリングコメント?殺害コメントのことを、まだやっているのか?いい加減にしないか。あの出来事はコメントが原因ではないって何度も言っているだろう」俺は妻がこのようなことを2年近くも続けていることにいら立った。

「いいえ、つじつまが合いません。2年前のあのときまで何の問題もなかった元気な娘が、突然自殺するなんて!直前まで悩んでいる節もなかったし調べても何も出てこないのよ。絶対にネットのコメントが原因で殺されたの」
「証拠もないのに」「だから、証拠を探しているのよ!」

「16歳の娘を突然失った悲しみは、俺だって同じだ。事件前日の日曜日に娘の吹奏楽コンクールが小田原で行われる。その後3人で小田原城を見て帰った」
「ええ、そうよ。あの子のコントラバスの演奏。物心ついた時から習わせた成果が見事だったわ。うまくいけば音大、プロの道も夢じゃなかったのに!」妻はそういって声を荒げる。

「小田原に行くのだったらと、その前日の土曜日3人で箱根湯本温泉の旅館に宿泊して楽しいひとときを過ごした。だがまさかあれが親子最後の旅行になるとはな」
「だからよ、なんであの子がこんな目に!」妻の目には涙が浮かぶ。

「俺だってわからない。翌日になって起きないと思ったら、首をつっていた。全く意味が分からないじゃないか!」妻に続いて、俺もここで声を荒げててしまう。

「だから、ネットなのよ。あの子何かのコメントに殺されたの絶対。最近でもネットの書き込み、コメントが原因で自殺したと思われる人の話題があるでしょ。有名人とか」
「だから、有名人と娘を一緒にするな。別にあいつはインフルエンサーのように多くのフォロワーを持っていたわけでもない。それに有名人とかは誹謗中傷だったのでは?」

「ええ、でも、あの子の場合は誹謗中傷ではありません。そんな目に合うはずがないから。それに、一般的なそれだって表向きに過ぎないわ。
 あの中に必ず、実際に殺害するコメントが潜んでいるにちがいない。私は、あの日から毎日いろんな人のコメントを目を皿のようにして調査しているの」
 妻はあの日から別人のように変わってしまった。健康的だった顔の表情がどんどん悪くなり、目に隈ができるのが日常茶飯事。病院に連れて行こうにも頑として拒否する。

「だから、気にし過ぎだよ、でそういうのが見つかったのか」「残念ながらまだよ。でも必ず見つけ出す。そうしないとあの子が成仏しない。そうそう、サブミリナル効果ってあるでしょ。あれが怪しいの」妻はもう俺の意見を聞く耳を持っていない。自分の信じた道をただ進むのみ。

「ああ、知っている。あれはたしか映像の中に人の目ではわからないほど短い時間に、確か広告とかのメッセージを入れておいて、頭の中に直接働きかけて影響を及ぼすってやつだろ」
「それ、だから数多くのネット上のやり取りの中にそういうキラーコメントが潜んでいるはず。あの子は運悪くその何かのターゲットにされた。だから殺されたのよ」

「でもそれを見つけてどうするんだ」「それは、いいのよ。見つけてから考える」

「仮にそんなものがあったとしてもだ。お前それを冷静にひとりで、対処できるのか?下手したらミイラ取りがミイラになるぞ」この一言で妻は一瞬固まった。「で、でも、やっぱり納得できない。なんであの子が!」妻は大粒の涙をこぼして泣き続ける。

「だから、もう忘れてくれないか。あれからずっとパソコンの前にいて最近ではろくに食事もとってないだろう。俺の出張中にちゃんと食べたのか?」「食べる?そんな余裕ないわ。とにかく娘の仇を取りたいの、私がお腹を痛めてあそこまで成長させた子なのよ。種だけ提供したあなたに、この苦しみがわかるわけないのよ!」

 この妻のセリフに俺はついに怒りが頂点に達する。「そんなわけないだろ!もう勝手にしろ。俺は疲れたから寝るぞ」
 ついに俺は爆発した。当然である。突然のトラブルが発生したため、1週間かけて東海地方にある4県にまたがって、拠点を巡回する出張。細心の注意払って現地の顧客に気を使い続けた一週間なのだ。

 だが1週間家を空けたのも失敗。家は収拾がつかなくなっている。そして俺が疲労困憊のためにこのとき妻を放置して、自室で横になったのはさらなる失敗であったのだ。

 あのときすでに妻は理性を完全に失った。だから俺が彼女からパソコンを強制的に取り上げるべき。だがそれができなかった。娘を亡くした辛さは俺だってある。


 翌朝、パソコンの部屋に戻ると、妻は椅子からひっくり返り、白目を剥いてそのまま倒れていた。呼吸をしておらず、絶命しているようである。そして妻はやせ細り、廃人のようになっていた。「み、ミイラ取りがミイラに!」

 俺は暫くうなだれて嘆き悲しんだ。その後、妻のパソコンを見る。妻が書き込んでいる記録を見つけた。だがいったい何の誰に対してコメントしているのかはわからない。

「あ、えちょっと何よ!」
「何でこんなこと。ちょっと待ってよ私が何をした?え!!」
「だから、私が何をしたぐあっていうの?あなたに私の何がわかるぎゃ!」
「ぎーグギ、シねー キエロ オウ ウざイ@」
「dp::でおs!!!っだwtらw」

 延々と何か書き込みをつづけた。しかし途中からは適当にしか打たれていない意味不明なキーワードの羅列。そして最後に打ったコメントがこれであった。

「ぎあみし げいさど たいうま」

 俺は動揺しつつも119番と110番通報する。救急車と同時に刑事も来ていろいろ調べ、当然俺も疑われた。だがその疑いはとりあえず晴れる。
 警察から聞いた話では、妻が死んだのが俺の発見した3時間前だとわかった。その時間がちょうど最後の意味不明な12文字のコメントを打ち終えた数秒後。そしてその前の打ち込みから30分以上たっている。
 彼女は何かのコメントで殺された。そのことを伝えようと必死に最後に残したのだろうか? 今となっては何もわからない。


 そして真っ暗になった。


ーーーーーーー


「なかなか興味深いな これは何度見ても面白い」映像を見終えた八雲は満足げな表情を浮かべる。
「先生、何を見てらっしゃたのですか」表向きは助手で、実は恋人の出口が八雲の後ろから来た。「おう、出口さん。killing commentじゃよ」

「え、またあの動画!いったいあれ何度見ているのですか?」
「いや、最後に残したコメントだよ。あのコメントの正体を探ったんじゃ」と真剣な表情の八雲。出口は笑いかけるのを抑える。
「う、先生、すごい執念ですね。でも、いくらフィクションの映像作品だとしても、人が死ぬのとか私は苦手です」

「ハハハッハ、出口さんははダメだな。こういう推理を解いてこそだというのに。で今見て大体わかったぞ」
「え、12文字のキーワードの秘密がですか?」

 出口が目を大きく開いて驚くと、得意げに語る八雲。「そうじゃ、『ぎあみし げいさど たいうま』の最初の4文字はある都道府県の頭文字じゃ」

「都道府県のですか?一体どこですか」
「うむ、登場人物が東海4県の出張とある。東海の4県から類推するとじゃな。岐阜 愛知 三重 静岡の頭文字となる」「ああ、確かに」出口は大きくうなづきながら手を叩く。

「最後の八文字は、これらの県のキーワードと対比したスポットがあると踏んだ。前半の部分で『小田原城』『箱根湯本温泉』と言うキーワードがでている。そこでこれはそれぞれの県にある城と温泉の頭文字を取ったと踏んだ。それで調べると見事に一致したんだよ」

岐阜(ぎ)  下呂温泉(げ) 高山城(た)
愛知(あ)  犬山温泉(い) 犬山城(い)
三重(み)  榊原温泉(さ) 上野城(う)
静岡(し)  土肥温泉(ど) 丸山城(ま)

「なんと!流石先生。よくわかりましたね」「ハハハハ。まあこれを見つけるのにこっちが目に隈ができるほどだったが、気になったら眠れんもんで、1晩かかったわ。で今再確認したっていうことじゃな、フ、ファァアア」八雲は、からくりがわかって安心したのか、大きなあくびをした。

「で、先生この後」出口の表情が真顔になる。「決まっておる。この8か所を回るぞ、すぐと言うわけにはいかないが、おいおいとな」

「まあ、素敵ですわ。もちろん私も同行」と今度は表情が緩む。
「当然じゃ出口さん!東海4県にある8つのミステリースポットを回ろう。そうすれば何か答えが見えるはず」

 このふたり、また旅行に行けるとばかりにお互いが笑顔になるのだった。




 こちらの企画をもとに独自に創作しました。

東海4県にゆかりのある人の企画。住んでいませんが、4県の訪問履歴があって、それなりに思い入れがあることで創作を決意。無謀なことをやってしまったと思いつつ、やっぱりやってしまったのでした。


こちらもよろしくお願いします。

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シリーズ 日々掌編短編小説 311

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