ビジネス書が好き 第1130話・3.14
「さて、今日はどうしようか」朝食が終わった。いつもならあわただしく出かける必要があるが、今日は休みである。そもそも起きた時間からして、いつもよりも1時間以上遅い。さてこの後の予定を考えた。「どこかに出かけるのも手だ」
外を見ると天気が良い。これを見て即出かけることにしたので、その準備をする。「お、これは」その途中で無造作に置いた本を見つけた。これはいわゆるビジネス書である。「3日前に衝動買いした本、まだ読んでなかったなぁ」ここでお出かけをやめて読書をしようかと思ったが、視線は窓の外に向けられていた。雲がないのか外は明るく輝いてはいるが、地表を見ても影がないほど晴れているではないか。
「もったいない！だったらどこか外で読書しよう」そう思ったので、ビジネス書を手に玄関に向かった。
外に出るとやはりそうだ。空はとにかく青い。そして雲がなくただ太陽のところだけは白っぽく、強力な光が向かっているのがわかる。
「凝視できないもんな」そうつぶやきながら視線を太陽からそらす。そのまま歩く。「どこ行こうか」何も予定を決めていないから歩きながら考える。ただ今日はビジネス書を持っているから、この本が読めるようなところに行こうと思った。
「ビジネス書だからビジネスマン」この時そんなことが頭に浮かんだ。ビジネスといってもピンキリだが、このときイメージしたのは都会でビルが立ち並ぶようなところで、スーツを着て動き回るビジネスマンの姿。実はそんなビジネスマンにひそかな憧れがある。ビジネス書を買ったのもその裏返しといえるのだろう。
気が付いたら駅の前にいた。ここからビジネス街つまり都会の真ん中に向かって電車に乗ろうというわけだ。駅から終点でもあるビジネス街の中心までは電車で片道40分くらいだろうか？「そっか、電車の中ででも」いきなり読書するのには、またとない場所に来ていることに気づく。
ほどなく電車が入ってきた。通勤時間帯を過ぎた電車の中は空いている。もちろん座席にも吸われた。座席に座ると、列車の発車のドアが閉まるよりも先にビジネス書を目の前に置く。「世界経済の動向かあ」タイトルを見た後、目次をめくった。どうやら前半ではアメリカや中国といった世界の大国の経済の状況が書かれていて、後半では日本がそれにどう対抗したらよいのかみたいなことが書かれているようだ。
いつの間にか電車は動き出した。線路の継ぎ目になれば聞こえるガタゴト音を聞きながら本のページをめくる。だが読み始めてはみたものの、なかなか前に読み進めない。これは少し専門的に書かれている本のようで、完全には理解できないでいた。やたらと専門用語が多い。おそらくマーケティング用語というもののようだが、マーケティングとは無縁の世界にいる者には意味がわからず荷が重い。「これ、どういう意味だ？」仕方なくスマホを手に本の中に出てくる専門用語を検索して意味を理解しながら読み進んだ。
気が付けば電車は終点に到着した。「さて、これからどうしようか」とりあえず5章のうち1章のほとんどは読んだ。意味はわかるようなわからないようなまま、いつも乗り降りする駅とは比べ物にならないほど大きな終点の駅、普段の生活圏とは無縁のところだから新鮮だ。思わず周囲を見渡してから淡々と改札を出る。
「高層ビルが見えるカフェとかないかな」と思って歩いてみる。普段は偶然に見つけて入るか、口コミが高いようなカフェに入るが、今日はまったく別の目的で選ぶ。「ビルが見える」という条件付きで見つけようとすると意外に見つからないもの。こうなってくるとビジネス書を読むのが目的なのか、ビジネスマンが活躍しているようなビルを眺めに来ているのか訳がわからなくなっていた。おそらくビジネス書を片手にビジネスマンの活躍する場を眺めながら自分の世界に入りたいだけなのだろう。でも今日は休日である。何をしようと自由なのだ。
しばらく歩いていると広場のようなところがある。周りはビルで囲まれた広場で、少しだけ気が植えられているが、その隙間からビルを見渡せる場所。今日のシチュエーションには最適である。広場の真ん中に小さな池があった。いかにも噴水が出そうだが、噴水は出ていない。「今日は天気がいいし、外で読もうか」そう思ってベンチを探すとさすがにベンチは多く開いている。おそらく昼休みになれば、ここで弁当を広げるビジネスマンも多くいそうだ。
「さてと」空いているベンチに腰掛けると、さっそく先ほどの本の続きを読む。
「確かここからだ」しっかりと栞（しおり）を挟んでいるから続きがどこなのかがわかる。こうして第1章の終盤から読み始めた。読み始めたがしばらくすると「あれ、まただ」と思った。相変わらず登場する難解な専門用語の登場だ。結局電車の時同様に、スマホを片手に用語の意味を調べてから、ビジネス書を読み進めるのだった。
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