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私の学び直し 第1033話・11.25

「知っていると思ってたの。ごめんなさい。本当にごめんなさい」と、女は何度も謝るとそのまま出て行った。
「知らないものは知らねんだ!」僕は一方的に謝った女が、静かに立ち去った後も、なんとなく不快感が収まらない。

 だがその不快は、相手への怒りから自らへの怒りに変わりつつあった。
僕は知らないことに対して逆切れしたことを反省。「知らないことを、ただ知らないといえばよかったんだ」
 余計なプライドがそれを阻止したようで、僕は自分自身に嫌悪感が襲ってくる。と言っても今さらどうすることもできない。恐らくあの女はもう二度と僕の前に姿を見せないだろう。

「過ぎたものは仕方がないな」嫌悪感から2・3時間後、ようやく僕は落ち着きを取り戻す。「同じ失敗を二度としないように」僕は色々考えてみたが、やはり基本的な知識不足が招いたことが事実である。
「学校では遊んでばかりで、適当に過ごしていたツケが今頃回ってきたようだ」僕はそう結論付けた。といっても、このままではまた別の相手に対して同じような過ちを起こすかもしれない。

「学びなおそう」僕はそう思った。今からでも学びなおせば、また人生が開けてくるに違いない。そう考えたら僕は気持ちを転換し、学びなおすことにした。「しかし、何を学びなおせばよいのだろう。知識?」
 確かに知識がないからあのような失態を起こした。知識を詰め込めばよいかもしれない。だけど学生の時代のように暗記をするのもどうかと思うし、変に知識だけがたまっても、いわゆる「マウント取り」のようになってしまっては元も子もない。

「もっとそういうのではないんだ。学びなおす方法はないのか?」僕は腕を組んで考えた。そこで僕はある結論が頭に浮かんだ。学びなおすといっても、まずは何を学びなおすべきか考えなければならないと。
「すべてを学びなおすことはできない。何にしようか?」
 僕は再び腕を組む。まず思いついたのは、これからの人生に役立つことを学ぼうということである。「いったい今の僕にとって何を学べば人生の役に立つのだろう」

 最初に浮かんだのは語学、英語をはじめ外国語を学べば役に立ちそうな気がした。だが気がしただけで冷静に考えてそれはやめようと思う。なぜならば海外に行く予定もないし、現在の僕の置かれた状況では、外国語を学ぶことがとても役立つとは思えない。

「もっと実践的なこと、数学とか物理学とかではなくて、うん?経済に強くなる。それはありかもしれないな」こうして僕は次に経済を学ぼうと思った。だがこれも考えていくうちに、正しいかどうかわからない。
「経済と言っても経済の何を学べばよいのだろう。株とかFX、仮装通貨...…」僕の中で経済という言葉からは、次のようなキーワードしか思いつかない。後で気づいたが経済と投資が混乱していたようだ。
「ダメだ、それらの事はやらない主義。やらないことを学んで何の役に立つんだ!」僕は思わず声を荒げる。

 また僕はスタートラインに戻った。いったい何を学びなおそう。語学でも経済でもない。
「まさか文学。いやそれはない。だったら、絵画とか?いやいやそれって学びなおすのではなく最初から学ぶ分野だろう。絵心もないし無理無理」

 こうして考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えるということを繰り返す。「ああ、難しい、僕はいったい何を学びなおせばいいんだ」
 僕は頭を抱えた。これで何度目何だろう。頭を抱えながらまた落ち込みかける。なぜならば普通何かを学んでしばらくしてから壁にぶつかるというもの。その壁相手に悩むのなら一歩か二歩か知らないが確実に前進している。だが、僕はそれ以前の問題、スタートラインにすら立っていないのだ。

「こまった。もうすぐ日が暮れるよ」僕は外が暗くなっていることを感じた。今日僕は学びなおすことを決めた。
 それは明日から始めようと思っている。だが何を学びなおすのか決まっていない。このままでは明日も同じように、何を学びなおすのかを探すことから始めなければならないのだ。

 僕は焦った。別に仕事の納期とか友達との約束時間に間に合わないわけでもない。ただ何を学びなおす。それを決めたかっただけなのに。時計は刻一刻と過ぎていく。このままだと日付を越えるのは時間の問題。

「うん、まてよ」僕はギリギリになってある結論が浮かんだ。
「そうか、それなら一応半歩か0.1歩か知らないけど、少しは前進するな」
 僕が浮かんだ学ぶテーマ。それはそのテーマをどうするかを頭の中で整理することを学ぶということだ。こうやって頭の中を制止していけば、必ず僕が学び直すのに最適なテーマが見つかるに違いない。今すぐに見つからなくてもこれを繰り返すことだ。それこそが僕の学び直しの第一歩ではないかと。
「そうしよう。もうこんな時間か、今日はこのあたりでもう寝よう」こうして僕はようやく頭を抱えることから解放されて、ベッドに向かう。

 こうして僕は、長い時間をかけて学びなおすことにした。まずは何を学ぶか、それを決めるところからだけど。

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