うどん調査の後からの帰り方 第887話・6.29
「ちと飲みすぎたかな。う、頭が痛い」昨夜立ち飲み屋で長居して飲み続けていた豊島は、頭を抱えながら辛そうにベッドを置きあがった。
「ちょっとの一杯が、あああ!ま、ちょっと頭が痛いだけで、この程度なら大丈夫だろう」そのまま豊島は朝一番にシャワーに入る。少しぬるめの温度にしたシャワーを浴び、少し気分がすっきりした豊島は、そのまま出かける準備をした。
ここは香川県の高松市。高松駅から徒歩5分のところにあるビジネスホテルだ。豊島は東京に本社があるチェーン居酒屋のメニューの企画担当。新メニューに讃岐うどんを入れようと本場の讃岐うどんの調査・試食のために高松まで出張で来ている。調査のため市内の讃岐うどんの店を数軒回ると夕方になっていた。ところが豊島はそのまま帰らない。実はどうせ遠方に出張するならと翌日、有給を1日挟み込んでいたのだ。
「今日中に帰れば、明日の出社に間に合うな。しかし、昨日はうどん三昧だったなぁ。いい加減飽きた。さて今日はどこ行こう」
出張で来たこともあり1日有給を取ったとはいえ、どんな予定にするか全く決めていない。仕事が終わっておなかはうどんで満腹だから、そのまま立ち飲み屋へ向かう。そこで飲んだくれていたのだから計画も何もなかった。
午前9時前に起きた豊島は、ホテルの朝食の時間も終了直前。朝食時間は9時30分までで、10時がチェックアウトだ。それでも食べながら決めようと、豊島はさっそくスマホとにらめっこをする。
「まてよ、帰りはどうしよう」豊島は行き先を決める前にいわゆるタイムリミットを定めた。つまりこの時間を過ぎると、そのまま東京にもどる交通機関に乗るというわけ。ちなみに行きは羽田空港を7時過ぎの飛行機に乗って、高松に向かったので午前中には高松についていた。
「帰りも飛行機なら、ほう20時台。いろいろあって18時30分がタイムリミットかな」だが、豊島はあまり飛行機が好きではない。出張の場合はそんなこと言ってられないから乗り込むが、できればそのほかの手段で帰ってみてもという気持ちになる。
「岡山まで行って新幹線ならっと」豊島は朝食をよそに調べ始める。すると豊島の目が輝いた。「何と19時高松駅発なら、その日のうちに東京に帰れるぞ」高松市内から空港に向かう時間や空港に着いてからの手続きを考えると、鉄道利用の方が楽な気がした。「夜の瀬戸大橋を渡るのも悪くないな」と、思わず口元が緩む。
ところが、スマホ操作中に、豊島の視界に偶然入ってきたキーワードにさらに目を輝かす。「サンライズ瀬戸、夜行列車!」ここで豊島は考えた。別に今日中に東京に帰らずとも次の日の朝に戻っても良いのだと。豊島のオフィスの出社時間は9時。東京駅からなら1時間以内で行ける場所にある。
「サンライズ瀬戸は、お、あった。21時26分高松発で、翌日の7時8分東京着か、ふんふん。これならもう一度居酒屋で飲めるな」豊島はこの後高松駅に行ってチケットを買うことに決めた。
さて、朝食がまだ残っている。豊島は慌てて口に含んでいく。だが慌てて食べてしまったのか、のどに詰まらせる。「う、ぐぅうう!」うなるような声を出しながら、胸の前を手で何度か叩く。そのまま横に置いてあったオレンジジュースを一気飲み。「あ、ふぁあ」豊島はどうにか詰まったものを胃の中に流し込み一安心。ここで外を見ると、気になるものが通過していった。「あれは、夜行バス。そうか夜行バスがあるな。何時ごろなんだろう」気になった豊島はすぐに調べる。「ほう丸亀発で高松経由、21時くらいに出て7時過ぎに都内に行けるか。だったらやっぱ寝台列車かなあ」
豊島はほぼ帰る方法を決めると、さっと朝食を食べ終える。時刻は午前9時30分で、ちょうど朝食の終了時間であった。「さてと荷物をまとめてチェックアウトだ!」
心の中でつぶやいた豊島は部屋に戻るためにエレベータに乗り込む。エレベーターが豊島の宿泊した部屋のある階に到着するとドアが開いた。ちょうど入れ替わりで若い男女がチェックアウトのためにエレベータに入ったが、豊島はその時の会話を聞き逃さない。
「じゃあ今から徳島にいくの?」「ああ、九州からくるオーシャン東九フェリーに乗って18時間かけて帰るよ」「うわぁ、それすごくいい!」
というやり取りの後、ドアは閉まりエレベーターは1階に降りて行った。
「フェリー、おお!」豊島は目を見開き、部屋に戻ると一気に出発の準備をする。その後またしてもスマホで時刻を調べるが、残念ながら徳島港を11時20分に出航するので、すでに10時前の時点で鉄道でもバスでも、もう間にあわない。たとえ間に合ったとしても、それでは高松の観光なんで全く出来そうもないのだ。
「やっぱダメか」豊島はうなだれた。何しろ公共交通の中で一番好きなのが船。「もっと早くわかっていれば、もっと早起きできたのに」豊島は部屋の中で思わず顔をしかめた。
「決めた、よしこうしよう!」だが、あれから1分後、思わず声に出した豊島は無謀な手を思いつく。それは調査が一日で出来なかったということにして今日も引き続き調査。今日の予定だったの有休を一日ずらそうと言うのだ。
「こうすれば明日の朝までに徳島に行き、フェリーに乗って18時間かけて東京に戻る。いいなあ、やっぱり船の旅がいちばんだよ!」
ここで、豊島は大きく深呼吸をすると会社に電話を入れる。果たして会社がそれを認めるかどうか、全くわからない。とりあえず呼び出し音が鳴ると豊島は大きく深呼吸をした。
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