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習慣にしていること 第1133話・3.19

「さてと」ここで目をつぶる。5秒ほど無心になった。そして目を開ける。その直後に働いた直感で行き先を決めるのだ。だが目を開けると現実を前に次の言葉が浮かばない。
「そうか」直後に小さくため息をつく。周囲は金網に囲まれており、上も同様に金網の中である。つまり外に出ることが許されないという現実を直視しなければならなかった。それは事実上の軟禁状態である。

「なぜだ!」思わず声を荒げた。荒げたところでこの金網の外に出ることができない。ただ幸いなことに金網には電流を通すような過激な仕掛けはないし、また鋭利なものが張り巡らされていないので、金網自体に触れても問題はなかった。だからいつものように現実を直視すると、無意識に外に最も近い境界線に位置する金網をつかむ。金網の先に手のような前足の一部が外に出る。それだけがいつもの楽しみであった。

 こうして今回も前足で金網をつかんだ。「外の世界は...…」それはいつも思うことである。生まれたときから金網の中で育った記憶しかない。もちろん最初は親といたのであろうだが、記憶があいまいで、はっきりと残っているもっとも過去の記憶上では親の影がない。ただわかっていることは、常にこの金網に囲まれた世界でのみ生きているということだけである。

「外からは不特定多数で、様々な生命体が様子をうかがっているというのに」次にわかっていることは、いわゆる「見世物」であるという事実だ。
 眠りから覚めて起き上がり、ある程度の時間になれば、外から不特定多数の生命体がこちらの様子をうかがってくる。そのほとんどはホモサピエンス、いわゆる人であるが、彼らは興味深そうに金網の中をのぞいているのだ。その多くはこちらを見るなりにうれしそうな表情をし、中には歓声を上げるものがいる。最近は小さな箱のようなものをこちらに向けることが多い。その箱には丸い穴のようなものがある。
 当初はその穴から何かが飛び出てきて、こちらを攻撃するのではと警戒した。だが、どうやらそうではないようだ。瞬時に音が聞こえることがあるが、かといってこちらに何かが飛んでくるわけではない。

 ただごく前に強力な閃光を発することがある。「これこそが攻撃か!」と即座に反応して逃げた。だがそれも違うようだ。とはいえ閃光が発されると、目へのダメージがある。一度だけそのダメージをもろに喰らったことがあった。暫く目の前に不思議な模様が常に浮かびあがるので、本当に慌てたものだ。その模様の正体は敵かと思ったがそうではない。次に病気を伺った。実際に視力が大いに低下したことがある。だがしばらくするとそのことを完全に忘れてしまうくらいなんともないのだ。

「いったいこいつらは何をしているのだろう」正直わからなかった。ただ生まれながらこの金網の中に幽閉されている現実と、攻撃をしてこずに笑顔になるという事実、間違いなく「見世物」なのだろう。

 そうだもうひとつ「見世物」である可能性の高い証拠があった。その根拠を思い出そうとする。そのときだ!金網からホモサピエンスが一体入ってきた。だがこのホモサピエンスは定期的に金網の中に入ってくるが、友好的な存在である。何よりもこのホモサピエンスは体調のことを気にしてくれるし、何よりも餌を支給してくれるのだ。

「そうか、もうその時間だったな」金網にかけていた前足を外すと、そのホモサピエンスのほうに向かった。彼はいつも通り餌を持ってきている。好意的にその餌を渡してもらえると、いつも空腹であることを思い出す。無心になって食らいつく。味の良しあしを言える立場ではないが、まあ、まずくはない。気が付けば腹は満たされ、そのあとはほぼ必ず睡魔が襲ってくるのだ。

「金網に幽閉されている空間にいて、見世物でもあるが」そうなのである。自由に外に出られないことと、定期的に見世物にされるという二点については正直微妙な気持ちではあった。だが、その二点だけを我慢すれば、このように友好的なホモサピエンスが餌を持ってくるので、飢えることはない。

「もう、眠い、ここにいておとなしくしていれば、生涯安全が保障されている。ふぁああ!」腹を満たされれば急速に襲ってくる睡魔。いつも横たわる場所は決まっているので、そこに向かう。そのまま横たわると目が閉じていく...…。

 こうしてしばらくの間眠り、また目覚めれば金網に閉じ込められることに対して「外の世界」を見たくなるのかもしれない。習慣にしていることというわけでもないが、同じことの繰り返しがなおも続くようだ。

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