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七夕 第879話・6.21

「多分見えるかな」私、真理恵は郊外でコスモスファームという農家を飛んでいる。彼一郎は大学で哲学を研究していて、教授の道を目指しているの。2・3年続いた例の疫病のせいで大幅に予定は狂ったけど、お互いの仕事が落ち着いた来年の初めのころに、結婚しようという話になっている。
 私たち共通の趣味は、天体観測。ここは郊外だし、家の裏にある畑は夜は暗闇になる。だから星が良く見えるわ。また望遠鏡もあるから、その気になれば惑星やさらに遠い星を見られる。天気の良い日はいつも早い食事のあとは天体観測。

「今日は下弦(半月)で、7月7日の七夕当日は、同じ半月の上弦だから条件は、ほぼ同じ」彼はそうつぶやきながら望遠鏡を調整している。今日は彼が休みの日だからと、昼間は近所の夏祭りを見ていた。暗くなって天体観測が始まったの。ちなみに今日は夏至だから暗くなるのが本当に遅かったわ。
「確か東の空よね」「ああ、予定より半月違うが大丈夫だろう」
「予定より半月違うって......」これは私はあまり聞きたくない言葉。毎年七夕の夜は大雨にでもならない限り、天体観測をして彦星(アルタイル)と織姫星(ベガ)を見る。そして愛を確かめ合う日だった。

 だけど今年は、彼が大学の都合で家にいない。私はひとりで七夕を過ごさなくてはならなかった。だけどそれではあまりにも可哀そうだからと彼は、条件の近い、約半月前の今夜に一足早い七夕をすることになった。でも私は、七夕当日でないことがどうしても嫌だったの。その言葉に思わず顔を伏せる。
「おい、仕方ないだろ。これは3年ぶりにみんなが集まって開かれる学会なんだ。去年、一昨年とオンラインでは会っているが、やっぱりリアルに会うのとは違うよ。だからこうして」

「わかってる、わかってるけど......」私はついに大声を出した。わかってはいるけど、どうしても自分自身が納得できないだけ。納得できない自分自身への怒りが声になって表れただけだった。
 彼は黙ったまま望遠鏡を見る。私はしばらく顔を伏せていたが、ようやく気持ちの整理ができて夜空を見た。
「例年ならあのあたりね」私がいつも星空が見えている方を見る。彼は望遠鏡から目を離した。そして私と同じ夜空を見る。「ああ、あれだろうな。白色の強い光の星、こと座のベガだと思う」
「ベガは織女星ね。わし座のアルタイルはえっと」「斜め右下だから、あれだな」彼はすぐに見つける。それもそのはず、彼は私と出会う前から天体観測が趣味。私が彼の影響で天体観測のすばらしさに目覚めたほどだから。

「ということは、はくちょう座のデネブがあれだ。見事に夏の三角形が見えるぞ」彼は思わず大声を出す。私も彼に見つけ方を教えてもらっているから見つけられた。
「綺麗ね。でもデネブはともかく、七夕のふたつの星は年に一度だけ会えるのか」私は星を見ながらつぶやいた一言。それを聞いた彼は声に出して笑う。「ハッハハハ!本当は恒星同士に会う会わないもない話だが、1年に1度でも会えるだけましかな最近思うな。2年ほど前なんてもっと大変だった。いつ終わるかわからない雰囲気で、ネットがあるから連絡が取れるとはいえ、リアルだと1年どころか、いったい何年後に会えるのかみんな心配だったものだ」
「その話ってまさか!」「あ、ああごめん、もう、やめておこう」彼は私が学会出席の話を、嫌っていることを知っているから慌てて口をつぐんだ。

「そうだ、面白いことを思い出したぞ」突然彼は部屋に戻っていった。「どうしたの?」私が部屋に戻った彼を呼ぶと。「ちょっと待ってくれ」としか言わない。
「私のこと、気を使っているのかな。もうこんな美しい星空、七夕様が見られたからいいのに」「すると彼は部屋の奥から大きなたらいを持ってくる。たらいには水が入っていた。その時私はすぐに何をするのかわかってしまう。だけど黙っていることにする。

「こうやってたらいを置く、どうだ星が見えるだろう。こうしてけて水をかき混ぜると、星どうした近づくという。昔の人はこうやって彦星と織姫星を近づけたそうだ」
 彼は得意げに語る。だが私は思わず吹いてしまった。「プッフ!、そそれ、去年も一昨年も七夕のときに行っていたじゃないの!」

「あ、だったか。ごめん、そうだろうな。ハハハハハア!」彼は笑ってごまかした。私も一緒になって笑う。
「まるで、青春時代だな」「え?」「こんなに楽しく笑うのって、出会った頃みたい。ちょうど青春の真っただ中のころだったてね」

「そんなに、楽しく笑ってなかったかなあ」私が不思議そうな表情をすると彼は突然顔色を変えて全否定!手を横に大きく振る。「い、いや、そういうつもりじゃないんだ。いつも青春のように楽しくやれたらな」ってさ。
「わかってるわ。これからもよろしくね」私は彼の右手を両手で握りしめた。


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シリーズ 日々掌編短編小説 879/1000

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