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シミュレーション 第957話・9.8

「シミュレーションは万全か?」上司が僕のテーブルまで来てつげたひとことに、僕は途端に背筋が寒くなった。
 僕はあるプロジェクトを任されている。それは入社5年目となる僕にとって初めて任されたプロジェクト。このプロジェクトを無事に遂行し、成果を上げれば、出世コースに入れることがほぼ確実だ。

 僕は慎重にプロジェクトをスタートした。後輩4人とともにスタートしたが、なにぶん初めての体験。あくまでリーダーは俺であるが、バックには上司が付いていて、サポートをしてくれている。

 上司はプロジェクトの開始に先立ち、僕に「まずは、シミュレーションをやりなさい。それを見ながらの方が計画が進めやすい」と耳打ちした。それが今から1週間前の話。

 僕はその日から毎日シミュレーションをした。プロジェクトの成否にかかわるということもあり、何度もシミュレーションを繰り返す。

 シミュレーション繰り返すが、なかなか思った通りの成果が出ない。これが100パーセントにならないと、とても上司に報告できないと思い、何度も繰りかえす。繰り返すとやがて、シミュレーションの結果が改善していく。

 当初50%だったものが、60、70と増えていき、気が付いたら85%まで上昇していた。「よし、この調子だ」僕はこのまま頑張れば確実に100%になると確信する。

 ちなみにこれは2日前の話、上司からは「シミュレーションは1週間もあればできるだろう」と言われていたので、あと2日しかないと思ったが、85%まで上昇しているのだから2日あれば100%になると確信していた。

 だが、これが大きな間違いだとはそのときは気づかない。ここからが本当の試練が始まった。85%からなかなか結果が上昇しない。逆に83%と一時下がってしまったのだ。「ど、どういうこと」僕は焦る。ただひたすら焦った。しかし、何度やってもうまくいかない。焦りながらこの日は夕方となってしまう。
「焦るな、一晩寝たらうまくいくぞ」残業して苦悩している僕に、先に退社する上司に声を掛けられる。「あ、はい、大丈夫です。はい」と、僕は答えるだけにとどまった。

 あと1日、残業しても結果が出ず2時間で退社した僕は、この日に最後の望みを託す。「必ず残りの結果を上げて見せる」その心意気と、一晩眠ったことが午前中にいきなり開花する。この日最初のシミュレーションではいきなり89%になった。「よし、この調子!」僕は、一気に元気になる。午前中2回目は91%と、いよいよ9割の大台に乗った。
「その調子、その調子」僕は、昼食を採るのも忘れて3回目にチャレンジ。今度は95%まで上昇した。「あと5%、行ける、行けるぞ」僕は空腹でお腹が鳴るのを無視して、さらにシミュレーションを続けた。

「あ、あああああ」次は93%まで下落、一気に肩を落とす。それだけならまだいい。このとき昨日の嫌な予感が頭に浮かぶ。「昨日は下がってから上がらなかった」
 僕は、ここで席を立つ。一瞬周りが僕を見た。僕は気にせず大きく深呼吸。「昨日はこんなことをしている余裕すらなかった。そう、焦るな。この調子なら100%は行ける、行けるんだ!」

 こうしてシミュレーションを行うと、僕の勘は当たりついに97%の数字が出た。「よっしゃーあ!」僕は声に出しそうになったので、慌てて口を押さえながら、喜びをかみしめる。
 時間は夕方になっている。「次で決める、決めてやる」と、シミュレーションを開始。ここで99%を記録。
「あと、ひとつ、あとひとつ」そう頭の中で唱えながら、残業時間帯に再度シミュレーション。が、このとき僕の頭は真っ白に。なんと84%まで大幅にダウンした。

「ええ、ど、どうしよう。99%まで行ったのに」すでに残業時間帯。今日はあと一度しかチャンスはない。明日は上司から言われた約束の日。朝一番に声をかけられたらひとたまりもない。
「頼む、お願い、100%になって!」僕は神にもすがる思いで、この日最後のシミュレーションを行った。

 その結果は89%......。僕は肩を落としながら、帰路に就く。「今日昼食ってないんだ。コンビニで何喰おうかなあ」会社からの帰りだけが僕にとっての最近の楽しみ。行きはシミュレーションのことで頭がいっぱいだ。

ーーーーー

 こうして当日、調整が終わった直後に、上司にシミュレーションの事を聞かれ、目が白黒になる。「どうしよう99%までは行ったけど今は89%なんて言えないよ」僕は手が震える。
「どうした、手が震えているぞ」上司の声、僕は心臓が破れそうな気持になる。急激に動悸がしてきた。
「こうなったら、イチかバチかだ」僕はこの究極のピンチに、大勝負に出る。上司の前で再度シミュレーションをするという事。こうして僕は上司が見守る中シミュレーションを行った。

 それを見た上司、最初は厳しい表情を見ていたが、やがて口元が緩む。「おう、見事だ!100%だよ。よし、ここから次の段階だな」僕は最後の勝負に勝ったようだ。


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