サンドイッチを作った男の意外なレシピ
2020年11月3日の深夜零時。突然不特定多数のユーザーに、メッセージの通知があった。それにはあるリンクが張られていて「Hello こんにちわ」とその下に書いているだけである。多くの人はこれは何らかの詐欺がスパムに違いないとスルーした。しかし圧倒的な数を一斉に送ったためが、ごく一部の人はそのリンクをクリックする。
そうするとnoteの画面が出てきて、それに貼り付けられた動画がスタートした。どこかの部屋が映し出され、そこにいるのは白人の老紳士。
----
「日本人の諸君こんにちわ。私の名前はジョン・モンタギューである」白人で、見た目はずいぶん老いぼれているように見えるが、モンタギューと名乗る男は、ハリのある堂々とした日本語を語りだした。
「私は 1718年11月3日生まれである。今日は302歳の誕生日だ。ああわかっている『そんなのあり得ねぇ』って言っているだろう。そう歴史の記録では、私は 1792年4月30日に死んだことになっている。だが私はその直前にあるものを見つけたのでこうして生きている。それは不老不死の薬だ」
モンダギューはそういうと横に置いていたコップの水を呑んだ。
「驚いているな。当然だろう。不老不死など普通はあり得ないから。
だが私は歴史上で死ぬ1週間前、自らの体力に限界があると悟った。だから最期になるかもしれないと、自宅近くの散歩に出かけたのだ。
まあ歩いていける距離だな。で近くの雑木林である袋を見つけた。興味があったので自宅に持ち帰ると、不老不死の薬とある。そしてこう書いてあった。
『これを呑めば不老不死になるが、10年のうち起きていられるのは1年で、あと9年は眠ることになる』とな。
そして家族に、本当のことを言った。そして私が眠った後は埋葬せず山の中に置くように伝えた。
そして薬を飲んで半日で昏睡。それこそが私が亡くなったとされる日だ。そして次に目覚めたのは1800年の1月である。最初は十年ではなかった。その理由はいまだにわからない。ただ目覚めて1年間起きて活動したが、12月31日の夜になると急に昏睡状態になり、次目覚めたのが1810年の1月1日である。以降はこのサイクルで、2020年まで生きてきたというわけだ。『信じられない』という声はわかる。だが事実なのだ!」と大声を出す。そしてまた水を呑んだ。
「この状況で私はいろんな国を学ぶことになる。せっかく得た不老不死。だけど10年のうちに1年しか活動できないから、やることも限られているんだよな。でも頑張ると成果が出るものだ、結果的に世界中の言語を学べた。で、私は日本が気に入った国のひとつだ。なぜかって、1852年11月3日に明治天皇が生まれて、それがきっかけで今日は文化の日と言う国民の祝日になったという。
私が生まれたのと同じ日がこの国の祝日と聞いて嬉しかったよ。だから今では親日派だ」
モンダギューは、ここまで言うとゆっくりと立ち上がった。
「さて、歴史上で私が何と言われていると思う。それはサンドウィッチ伯爵だ。これは現代まで続くイギリスの爵位のひとつ。私は4代目であった。現在ではたしか11代目で、私の子孫にあたる男が担当している。ちなみにサンドウィッチとは、本来ケント州にある地名だ。
だが、この名前を世界的に有名にしたのは何を隠そうこの私。なぜならばパンにおかずを挟んだ「サンドイッチ」という食べ物を私が考案したからだ。じゃあなぜ私がこの食べ物を考案したのか、それはこれだ」
とそこまで語るとモンダギューは前かがみみなり、テーブルの引き出しから何かを探している。そしてすぐにそれを出した。
「これはトランプ。そう私は賭けごとが好きでね。いろんなところでギャンブルをやったものさ。まあカードやマージャンで賭け事をしたことがある人はわかっていると思うが、やり出したら食事をしている暇がない。
一度始めたら明け方まで続けるものだからね。賭け事は真剣勝負。中には食事をすることを気にせずに集中する輩もいたが、何分私は腹が減ると、どうもそれが気になったものだ。と言ったとて『食事をしたい』と、中座なんて許されない。だから考案したのさ。カードで賭けをしながらできる食事方法ね。それが今でいうサンドイッチってわけさ」
----
ここでモンダギューは歩き始めた。画面は誰かが撮影しているのか?彼の後を追う。そして彼が向かった先は同じ部屋の奥にあるキッチンだ。
「さて、せっかくだから名付け親直伝のサンドイッチを作ってみよう。ん?ほう、そんなもの言われなくても作れるって?
わかってるよ。あんなものさっきも言った通り、賭けの邪魔にならないように適当に食べ物挟んだだけだからな。
だから今回はちょっとひねったサンドウィッチを紹介しよう。それはタイの味を利用したものだ。え?なんでてめえがタイって。そりゃあれだ。不老不死になってから世界中に行っているんでね。実は前回2010年の1年間はタイに行ってたのだよ。
我が大英帝国や宿敵フランスの支配からうまく独立を保った国だから、気になっていたわけさ。それに海軍大臣を担当したことがあるからね。しかしあの国暑いねえ。実際に行って分かったよ。季節がないだけでなくて雨ばっかり降る時期があって大変だなありゃ。
ああ、そりゃどうでもいい。1年間せっかくだからタイの料理を勉強した。でサンドイッチに応用できないかって考えたわけだ。最後は日本に来て9年間眠ったが、今年は感染症?ウイルス、で大騒ぎになって自由に海外も行けないね。まあこんなこと、10年後に目覚める次回になりゃあ、笑い話だろうけどな。ハハッハハ!」
モンタギューはここでキッチンの中心に移動した。そこには食パンなど材料らしきものがおいてある。
「よし、前置きが長くなったな。ではタイ風のサンドイッチを作ってみよう」
こうしてモンタギューは、手を動かしながらレシピを紹介した。
今回は、ガパオライスのガパオと、カオマンガイで使う茹で鶏を挟んだサンドイッチを紹介しよう。
まず食パンだが、軽く炙ったほうが良い。なぜならホットサンドくらいまで温めておくと、バターが溶けやすくて塗りやすいだろう。
それでバターを塗ったパンの上に、ガパオライスの肉を塗り込む。この肉はあとで鶏肉を使うから豚肉のほうがよさそうだ。ガパオの味付けについては今回省略しよう。何ならこちらを使いたまえ。
まあコツとしては、挟んだときの食感を考慮すると肉は限りなく細かくしたほうが良いな。で、ガパオ肉を塗り込み。手に入れば本当のガパオ(トゥルシー)も挟んだほうが本格的だ。それをカリカリに揚げてもよいな。
で、その上にスライスしたキュウリを挟み、食パンを乗せる。次に茹でた鶏肉をスライスしたものを乗せるんだ。本当のカオマンガイはこの茹でた鶏に、特製の辛いたれをつけて食べるが、ガパオがしっかり味がついているから余計なことをする必要はない。
あとはお好みでトマトスライスなどを挟めばよいだろう。それからはもう知っているね。しっかり押さえつけてスパッとカットすれば、タイ式サンドウィッチの完成さ。あ、もしガパオライスのサンドイッチにこだわるなら、鶏肉の代わりに目玉焼きを挟んでみても面白いだろう。まあ工夫次第ってことさ。
----
語りながら、モンタギューはその場で実現して見せた。
「ふう、我ながらなかなかの出来だな。さて試食しよう」そういうと出来上がったばかりのタイ式サンドを、皿にもりつけてそれを手に歩き出した。同じ部屋の中のようだが、そこはソファー席のようだ。そこにサンドウィッチの皿を置き、自らも腰かけた。
「さて、せっかくだから味見してみるよ」と言って、モンタギューは右手でサンドウィッチを手にする。そして大きな口を開ける。
「サンドイッチを口に含んだ瞬間、彼の目元が垂れ下がった。少しうなづくように前かがみになって少し顔をあげる。今度はゆっくりと味の余韻に浸るかのように左右に顔を動かす。陶酔した表情は見ているほうも食欲を掻き立てる。
「Great. Delicious!」と大声で叫び、左手の親指を出す。そして
「ぜひお試しあれ、ではまた」という言葉をもって、画面はフェードアウトするように真っ暗になり、そのまま終了するのだった。
※こちらの企画のアイデアを利用してみました。
内容は自由だが、投稿者が300歳以上であることが条件。上限はないので数万歳、数億歳でもOK。
なお、年齢は自称でいい。身分証明書の提出は不要。
先週はこちらが人気でした。ありがとうございます。
(奇しくも同じアイデアからの作品)
ーーーーーーーーーーーーーーーー
シリーズ 日々掌編短編小説 287
#小説 #掌編 #短編 #短編小説 #掌編小説 #ショートショート #300歳からのnote #11月3日 #文化の日 #サンドイッチ #ジョンモンタギュー #タイ #ガパオ #我が家の秘伝レシピ