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2022年のわたしと仕事 第1066話・12.31

「わかったよ」の声が響いた。だが目の前に置いてある、予約注文で届いたばかりのお節料理のパッケージを。西岡信二は黙々と開ていく。
 ここは信二のパートナーで、フィリピン人ニコール・サントスが店長をしているクラフトビールのお店。店は29日から年末年始の休みに入ったが、今日31日は、店内を貸し切り仲間同士でカウントダウンのパーティをすることになった。

 届いたおせちは、新年を迎えてからみんなで食べようと用意したものだが、待ちきれないのか信二が開けてしまったのだ。
「あ、シンジ、開けちゃったの!まだ2022年なのに」ニコールは呆れた表情をしている。
「もうすぐ、来るんだからいいて!もう休みで正月モード。フライング気味のおせちを食べたっていいんだよ」
 信二は、持論を展開すると、完全に蓋を開けておせちの中身を見る。予約注文したおせちなので、どこにでもありきたりなおかずが並んでいるだけだが、それでも早くもそこだけが2023年になったかのようだ。

「あ、お待ちしていました」とニコールの声。信二が今にでもおせちのフライングをしようとしているところに現れたのが、坂田洋平と鶴岡春香のふたり。このふたりも同棲中だが、いよいよ来年の春に結婚することが決まった。
「お、もう開けているのか?」呆れた洋平の声。洋平と信二は大学時代からの親友である。今回洋平の呼びかけに応じてニコールの店でカウントダウンをしようというのだ。
「そうだあいつは来ないのかな」信二はそういうと立ち上がって冷蔵庫に向かう。今日は自己申告で冷蔵庫のビールが自由に飲める。精算等の事務的なことは2023年に入ってからニコールがするらしい。
「あいつ?システムのことか」洋平も信二の後を追うように冷蔵庫に向かった。
「システム...…」ニコールが反応する。「ああ、試水のこと。試水輝夢(しすいてむ)だから略してシステムと呼んでいるんだ。あいつとも最近会っていないな」信二はお目当てのビールを片手に席に着く。

「今日は夜勤とか言ってたから、明け方ならなどと言ってたからな。初詣で合流だろうな」洋平も信二に続いてボトルを左手に持っている。
 気が付けば春香もニコールも席についた。目の前にはおせち料理がある。
「2022年お疲れさまでした!」の掛け声とともにグラスの音が店内に響いた。各々の好きなビールを飲む。
 そんな中、信二はいち早くおせち料理に手を付けた。

ーーーーーーー

「ねえ1年の最終日だから『2022年のわたしと仕事』というテーマで話さない」春香の提案だ。みんなが同意する間もなく春香が語りだす。
「私は相変わらずコールセンターの仕事をした一年だったけど、あのときのきせ、あ!」春香は足元に激痛が走る。それは洋平が力強く蹴ったもの。
 ここだけの話だが、宝くじの高額当選を当ててマイホームを購入するなど劇的に生活が変わったふたり。だがこのことはだれにも公言しておらず、信二たちにも言ってなかった。家を買ったのも遺産が入ったとごまかしたほどだ。

「あれ、どうしたんだ?」怪訝そうな表情をする信二。春香は「いや、何でもない」と言って足をさすりながらコップに入ったビールを一気飲み。
「ま、いいか、俺の今年の仕事は相変わらずだったが、仕事は増えつつあるかな」温泉ライターとして働いている信二が仕事について5分ほど語った。
「俺は家は買ったがいつのまにかメダカの養殖場になったな」次は洋平の番だ。「最近は小さな貝を水槽に入れておくと全部ごみを取ってくれてずいぶん助かるよ」

 親方に修行し、事実上独立している洋平はいつのまにかメダカの養殖販売業をしている。宝くじ高額当選という陰の力はあったものの。それをさらに増やさんとばかりビジネスは確実に進んでいるという。そんなことを熱く語る洋平を見ながら、信二はちょっと差がついた気がした。

「あと、アタシ?」ニコールは自分のしゃべる番を待っていたようだ。
「別に、ここで店長していることはみんな知ってるしな」と信二はそっけなく返答するとビールを飲む。
「でも、クリスマスの時に大きなことがあって、来年はハッピーかな」とニコールが嬉しそう。
「へえ、ハッピーなことってなに?」春香がニコールに問いかける。「そ、そうだな。実は」ここでなぜか信二が軽く咳払いをして口を開く。直後に洋平と春香は喜んだ。それは今年のクリスマスに信二がニコールにプロポーズしたこと。それをニコールが受けたので来年は結婚が決まったのだ。
「すごい!来年はみんな夫婦ね」春香の声が踊っている。
「ああ、だがまだいつにするか決めていないしな」信二は気恥ずかしくなったのか、立ち上がって次のビールを取りに行った。

 こうして4人はさらに話が盛り上がり、やがてカウントダウンを迎える。だが、すでにそのときには随分と飲んでいて、酔っぱらった状況だ。またおせち料理もほとんど残っていないのだった。

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