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エキスポの夢

「ああ、これは感動した。この写真また見れてよかったわ。あのときじいちゃんへの夢を果たすって言ったしな」
 大樹は一枚の写真を眺めていた。今年の2月、生死にかかわる交通事故に遭遇したが無事に退院。自室で静養していたときに、見つけた写真は昨年秋に大阪に行ったときのもの。万博記念公園にある太陽の塔であった。

 そして大樹は、昨年の11月に大阪に行ったときを思い出す。

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「じいちゃんは、1970年の万博に行ったんだよね」「ああ、信じられんかもしれんが、ここに多くのパビリオンがあったんじゃ。ここに来たのはあのとき以来か。森のような緑ばかりでずいぶん変わってしまったが、この塔だけは相変わらずじゃな」
 ここは大阪の北部にある万博記念公園。かつての会場は、緑多い広大な公園になっていた。ただ太陽の塔だけは、当時のままその場に鎮座している。

 大樹が祖父の茂ら家族と大阪に来た目的。それは大樹から見て大叔母に当たる人が他界し、葬儀に出席するためであった。
 葬儀などの一連の儀式は無事に終わる。そして帰る前に、大樹は以前から気になっていた場所に立ち寄りたいと考えていた。
 それが万博公園。芸術家の岡本太郎が作ったという、太陽の塔を生で見たかったのだ。

 そして他の家族と別れ、実際に半世紀前の万国博覧会に行ったという祖父・茂を伴ってこの地に来た。

「どうじゃ大樹。念願の太陽の塔は」「うん、思っていたのより迫力がある。岡本太郎という人はやっぱりすごいと思う。あの真ん中の顔の曲線具合がなんとも」大樹は目の前にそびえる塔をじっくりと眺めた。

「ほう、そう思うか。ワシはなんとなくあの顔をみたら、ふてぶてしく見えるんじゃが、何らかの意味があるんじゃろうな」
 茂の言葉に太陽の塔はもちろん反応しない。だがそのお腹部分の顔から左右に伸びる手のような存在。それが、ふたりがいる位置からは。脇の付け根部分から遠くに伸びるように見えた。正面よりもはるかに立体的で迫力がある。
 ありえないが、あまり怒らせてしまって、あの白いコンクリート製のアームの伸ばした先を下げ、こっちめがけて動いたら、ひとたまりもない。

「ねえ、先に隣にある『EXPO’70パビリオン』に行って見ない」「大樹それなんじゃ」
「昔のパビリオンだった鉄鋼館の後にできた、1970年当時の万国博覧会の資料があるんだって。すぐ近くにあるよ」と、大樹は嬉しそうにスマホを茂に見せる。
「なるほど、それで見たいんじゃな」

 茂は時計を見る。「ああ、まだ帰るまで十分時間があるな。いいじゃろう。50年前の若き日の記憶を思い出してみるか」

 こうしてふたりは一旦太陽の塔を後にした。

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「じいちゃん、やっぱりすごかったよ。EXPO’70パビリオンを見てよかった」「ああ、懐かしかったな。ワシがまだ大樹くらいの年のころだったからのう。こっちまで若返ったようじゃ」

 ふたりは、再度太陽の塔目指して緑の公園内を歩いていく。

「でも、やっぱりこの博覧会は別格だったんだろうなあ」大樹が口を開いた。「ほう、そう思うか」
「僕の記憶ではあいまいだけど、愛知博に行った思い出がうっすらと残ってる。あれと比べても規模とか違う気がするんだ」

「大樹は2005年の愛知博を覚えておるのか。そうお前がまだ小学生に行ってなかったときじゃが、お前の父さんと母さんと4人で行ったな。お前の父さん、どこで覚えたか知らんが、ヨーロッパのビールがおいしいとか言っておった。ヨーロッパのパビリオンでは、各国のビールばっかり飲んでたわ」
「と・父さん、万博に酒飲む目的で行ってたの!」目を見開いた大樹に、茂は嬉しそうに口を緩める。

「でも、そんな父さんが子供のときに、行ったのが筑波博じゃな。ありゃ1985年だった。今こそ銀縁メガネかけて偉そうにしておるがのう、あの頃は本当にかわいい子供でな。科学が楽しめるパビリオンの乗り物で、嬉しそうにはしゃいで喜んでおったわ」「うふっ、くっ」
 大樹はいつも厳格な父の子ども時代の話を聞いていると、思わず笑い出しそうになった。

「じ、じいちゃんすごい。日本の万博全部行ってるんだ」
 ここで茂は首を横に振り「いやいや、ワシも行ってないのがふたつあるぞ。1975年に沖縄で行われたのと、1990年に大阪で行われた花の博覧会には行っておらん」

「え! 大阪って1990年にも万博があったの」
 驚きの大樹に茂は小さく頷く。

「じゃあ大阪3回目! それって世界でも珍しくない」
「確かに大阪での開催が多いが、それを言ったらパリなんぞ最初のころは5・6回やってたんじゃないかのう。まあ江戸時代じゃが。確か幕末に日本が初めて出展」
「それ知ってる。渋沢栄一が幕府の派遣団としてパリの万博に行った話」「そ、そう。さすがじゃ大樹。まあ現役の学生じゃからな。ハッハハハハ!」茂は声に出して笑った。

「2025年に大阪でまたやるって、東京がオリンピック2回やろうとしてるし。同じところで同じイベントやるって面白いね」
「そうか、あと4・5年先か。じゃが、さてワシが生きておるかが問題じゃな」と茂は目線を遠くに置いて腕を組む。
「じいちゃん。また変なこと言って! そのころには僕が社会人になってじいちゃんを案内するよ。そのときは、僕が大阪までの交通費や宿泊代を全部出す。それが僕の夢なんだ。じいちゃんに長生きしてほしいから!」大樹はやや大きい声を出した。

 ここで茂は真顔になり立ち止まる。
「あれ、どうしたの?」 茂は思わずポケットからハンカチを取り、目頭を押さえた。
「だ、大樹、本当にええ孫じゃのう。3世代で引き継がれる万博かぁ」鼻水交じりの声で嬉しそうにつぶやく。

「じいちゃん......」 
 慌てた大樹は、ふと視線から太陽の塔が見えた。まだ少し離れているが一番上の金色の顔ははっきり見える。これは気のせいに違いない。でもその顔がどことなく優しそう。あたかも大樹の夢が叶うことを願っているように見える。
 
そして大樹は黙ったまましばらくの時間が流れた。

「そしたら太陽の塔の中に入ろうかのう」落ち着いた茂は歩き出す。
「うん」と、大樹は元気良く頷いた。こうしてふたりは2018年から再度内部が公開された、太陽の塔の入り口に向かうのである。


こちらの企画に参加してみました。

 タグの企画は当初万博の事かと思い、万博をモチーフにしたエピソードを書いてしまいました。企画内容をよく見ると、どうやら夢を語ってつなぐような趣旨なので、この場で夢というか目標を書いてみましょう。

 以前にも書いたとおり、私は現在noteで短編小説をほぼ毎日書いています。

 そして1000本書くのが夢。つまり千夜一夜物語を作るのが今の目標です。今回のが453本目なので、1000本到達まであと547本とまだ半分にも到達していません。したがってまだまだ夢物語ですが、これは自分自身の戦いとして続けていくことになるでしょう。ただその場合、noteでスキを押してもらえることがモチベーションとなり継続できると考えます。ということで引き続きお願いできれば幸いです。

 もし毎日のペースでいけたなら来年の秋に1000本に到達。そのころにはみんなの夢でもある、あの567への苦しみが無くなっていると良いですね。


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シリーズ 日々掌編短編小説 453/1000

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