見出し画像

視線の先に何があるの? 第850話・5.23

「この人は何を見ているのだろう?」道を歩いていたら、突然両手を顎に当てながらじっと斜め上の向を見つめる人がいた。その人の視線の先、そこには何が見えるだろう? 視線を向けている人は、口を真一文字にしたまま微動だにせず黙って見ている。

 一瞬声をかけようとしたが、それはやめようと思った。知らない人ということもあったけど、それ以上にはっきりとした理由はわからない。ただこの人に今話しかけて、視線を邪魔するのは得策ではないことだけは確実だ。

「何があるのか自分で確かめるしかないな」そう思い、その人が向いている視線の先を見てみる。今日は天気が良くて青空が広がっていた。太陽も光り輝いているが、さすがに視線の先にはない。この時間はちょうど後方から照り付けていることになる。

「青空、雲すらもないのに......」この人がなぜ黙ってその方向に視線を向けているのかわからない。なぜならば雲がない青空だけの快晴。雲があれば様々な形をした雲を見つめることはあるだろう。ソフトクリームのような、あるいは綿菓子のようなぼんやりと浮かんだ冷えた水蒸気の塊......。

 風によって微妙に移動し、またその時々の気象変化により様々な形を見せてくれる雲。いろんな形を見せるので、頭の中で想像してみたくなることがある。だから雲が広がっていればずっと眺めてみたくなるもの。それは実際にやったことがあるし、想像力が無限に働くだから好き。

 だけど、いくら眺めてもこの日はそんな雲がどこにもない。「薄いのがあるのかな?」もしかしたら気づいていないだけかもと思い、じっくりと空を見た。だけどいくら見ても空には雲がひとつもない。「飛行機雲?」一瞬細い白い筋のようなものが見えたような気がしたが、改めて確認したら結局それは錯覚のようで違った。

「では、この人は何を見ているのかなぁ」と疑問に思いつつ同じようにもういちど視線を向けた。青い空をこんなにじっくりと眺めたことは今までになかった。だからだろうか?今まで全く気づかないこと、眺めているとそれが見えてきた気がする。

 当たり前のように空は青いが、その青い空はどこまでも続いている。もちろんその先には宇宙空間が広がっているが、そこまで考えなくても青空を見れば見るほどその深さに気づいてきた。説明のできない奥の深さ一体どこまで深いのか。見ていたらまるで目が空に吸い寄せられてしまうような錯覚が起こる。でも怖くはない。ただただ心地よい。眺めているだけなのに......。

 いったいどのくらい眺めていたのかわからない。ふと視線を元に戻すと、先ほどまで同じ方向に視線を置いていた人はもういない。「そんなに長く見つめていたっけ」時計を見ると、少なくとも10分程度は青空を見ていたようだ。

 こうしてそこで眺めている人が、結局何を見ていたのかわからずじまいだった。「ということは、あの人も同じように空を眺めて青空の奥深さに魅せられて目が釘付けになっていたのかなあ」と、勝手に想像する。と同時に、この場所を後にした。


https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C
------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 850/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#視線の先
#青空
#ポエムのような小説
#眠れない夜に


この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

#眠れない夜に

69,099件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?