ホログラムでコンタクト 第864話・6.6

「レーダーに反応したのはどうやら未確認の艦船です。船長どうしますか?」ここは大型宇宙調査船の中である。宇宙空間において長く存在の有無がわからなかった、地球外生命体が初めて発見されてから数十年が経過。
 特にここ数十年のうちには、単なる生命体ではなく知的レベルの高い生命体とのコンタクトをとる機会が増えた。いわゆる宇宙人・エイリアンである。

「とりあえず呼びかけてみよう」300人の宇宙調査隊を率いる調査隊の隊長でもあった船長の命により、通信隊が未確認艦船に対して呼び掛けた。これは今までの生命体共通の暗号で、たいていの相手であればこれで何らかの反応がある。
「反応がありました。向こうも友好的な挨拶をしてきます」「そうか」船長は、一言つぶやくと、自らの椅子に座りなおす。背中をもたれさせながら頭の中では喜んでいた。
「新しい生命体とのコンタクトか。相手が友好的ならなおさらだ」

 以降、先方との通信を続けていくと、やがて先方は自らの船に招待するという。「そうか、それは、船長として私が挨拶せねばなるまいな」「船長!」ここで大きく元気な声をかけたのは、3人いる副船長のうちのひとり。最も若く、今回の調査船で初めて副船長になった。
「船長、そのお役目ぜひ私めに」「うん、そうか君が同行するのか、よかろう。何事も経験だ。一緒に御挨拶に行こう。では準備をせよ」

 こうして、船長と若き副船長を加えた総勢10名の隊員は、先方から招待を受け、相手の艦船内に向かうことになった。
 すでにその艦船は肉眼でも見えるほど近い場所に来ている。「船長!この距離なら小型シャトルですぐですね」
 だが船長は首を横に振り、「小型シャトル?そんなものは必要ないよ」「では、転送するのですか。自分は、いえ大丈夫です」
 転送装置は10年前に開発されたが、まだ実践としての使用経験が浅く、若き副船長には経験がない。だが船長には経験があった。そのためか副船長の不安に満ちたやや挙動不審とも思える表情を見ながら余裕の笑みを見せる。
「転送装置の経験がないのか。まあ慣れればあれほど楽なものはないよ。だが、今日は違う。新しい試みだ」「新しい試み?」船長は大きくうなづくと。「すでに秘密裏に準備をしていたが、ここで試せるとは思わなかったな。今からゆっくりと説明しよう、さ、こちらの準備室へ」
 副船長は内容を詳しく知らされないまま、船長や他の隊員とともに準備室に入った。

 船長たちが相手の船に向かう準備を始めてからは、筆頭副船長が、船長代行として現場を仕切っている。「船長代行、船長一行が相手の艦船に移動しました」
「よし、ディスプレイパネルを」「はい!」筆頭副船長により大画面ディスプレイの画像が映し出された。そこは相手の船の内部。そこには船長や若き副船長たちがいる。だがどうも様子がおかしい。
「これが.....」「そう、ホログラムだ。うまくいったようだな」船長代行は思わず口元が緩む。実は船長たちは相手の船に乗っていなかった。代わりにホログラムが相手の船に乗っており、船長たちの実体は先ほどの準備室の中にいる。準備室から特別な光線を浴びると、船長たちの情報が即時読み込まれ、その情報をもとにホログラムを作成。

 そのホログラムが実体の代わりに、先方の艦船に転送され、そこでやり取りを行うのだ。実体は準備室にいるので、万一のことがあっても大丈夫と言う。「まあ、万一の時の安全対策だからな。何も起こらないと思うが」船長代行は、ディスプレイでの船長たちと相手の船長たちとのやり取りをリラックスした表情で眺めていた。相手も同じ人型で、紳士的な様子である。

 船長代行はそれを見て安心していたが、ここで突然のトラブルが発生した。ディスプレイが突然中断。と同時に「船長!相手の船が突然消えました。ワープをした模様」との報告が即座に入る。「何、船長たちを乗せたままワープだと?拉致か!」船長代行は立ち上がると、準備室に向かった。

「ウオオオオ!」「な、何を」「やめろ!平和的に話そう」準備室の中では船長たちが大声を出して、あわただしい声を張り上げる。
 船長たちが準備室の電源を入れている限り、ホログラムは消えずに相手のやり取りが続く。ワープをしたようだが、まだ船長たちの意識ではホログラムとつながっているようだ。
「準備室の電源を落とせ」ほどなく電源が落ちる。これまでのあわただしい声がそこでピタリと無くなった。

「船長!」船長代行が準備室を開けると、船長や若い副船長たちが乗っていたが、みんな焦燥した表情をしている。
「船長!お怪我は」ようやく意識がはっきりしたのか、船長が船長代行を見ると「ほ、ホログラムは、せ、正解だった」と息を切らしながら答えた。

 休憩ののち船長や若き副船長らからの報告を聞く。当初は友好的だった相手であるが、あるタイミングで突然豹変し、その場で拉致されてしまった。ひとりずつ檻のようなものを入れられ、何やら良くわからないがきつい拷問を受けてしまう。
 実際に受けたのはホログラムであったが、実体の意識がホログラムにあったために、船長たちは精神的なダメージを受ける。準備室の電源が落とされると、その意識が実体の場所に戻ったため、ダメージは一瞬にして収まった。要するにホログラムで意識が向こうに行っている間は、夢を見ていたようなもの。

「ふう、油断をしたな。拉致をするような野蛮な連中だったようだ。よし、報告も兼ねていったん母星に戻るぞ」まだ精神的なダメージを引きずっているのか、表情が硬い船長。同行した若き副船長以下、ホログラムで先鋒に向かった他の隊員たちも同じである。

ーーーーーーー

 船長たちは母星・地球に戻った後、遭遇した相手の正体がわかった。それは早い段階から地球人とコンタクトを取り友好関係を築いているX星人からの報告によれば、彼らは「宇宙のならず者」と呼ばれているという。
 その理由として自分たちの知見を高めるために、異星人を片っ端から拉致して実験や研究材料にしていたらしい。

 そのならず者星は、X星同様にすでに友好関係を築いているY星と戦争となった。地球人よりはるかに高度な文明を持つY星人を、ならず者星が拉致したとかで、それを口実としてY星は攻撃を開始。ならず者星は敗れ去り、Y星に占領されたとのこと。
「ホログラムでなかったら今頃......」報告を聞いた若き副船長は、ほっと胸をなでおろすのだった。


https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C
------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 864/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#不思議体験
#宇宙SF
#ホログラム
#宇宙人

この記事が参加している募集

スキしてみて

宇宙SF

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?