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クリスマスイブ 第1060話・12.24

「おかげで、見事にスッキリしたな」予定が無事に終わった。こうして、明日はゆっくりとクリスマスイブを過ごせる。何しろ今年は付き合って半年の彼女と初めてのクリスマスだ。
 どうすごそうかと、1か月も前から悩んでいた。何せ非正規の契約社員なので、収入はそれほど良くはない。だからあまり高いレストランに行くとかは無理。彼女もそのことは理解している。

「さてどうしたものか」と考えていたら、彼女から連絡が来た。それを見ると、行きたいところがあるという。そのためにはクリスマスイブは夜を待たずに会おうとなった。どうしてよいか迷っていたところで、彼女からのリクエスト。彼女が喜べばよいのだし、断る理由もなかった。こうしてクリスマスイブの予定は決まる。

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 クリスマスイブの当日、彼女と待ち合わせると早い目の夕食に行きたいという。冬至直後だから午後5時を過ぎるとすっかり暗くなるが、彼女はそれよりも1時間早くから会いたいと言い出した。そういえば当日の食事は午前中に済ませて、お昼ご飯は抜いてほしいという。
「そういうことだったのか」すぐに納得したが午後4時ごろに空いているお店は限られている。「ご飯はおまけだから」と彼女。通し営業しているファミリーレストランでご飯を食べることにした。

 明るいうちに店に入ったこともあり、食事を終えた午後5時半、すでに外は真っ暗になっている。クリスマスイブの夜のデート、昨年も一昨年も彼女はクリスマスにいなかった。もちろん今の彼女が初めてではないが、これまで付き合った相手は、なぜかクリスマス前の晩秋のころには去ってしまったのだ。

 そんなこともあり、内心嬉しくて仕方がないイブの夜。彼女も嬉しそうに手をつないでくれた。「今からどこに行くんだい」さりげなく聞くと、「うん、あと1時間くらいあるから」と、彼女はイルミネーションを見ながら楽しんでいる。「まあいいか」と、それ以上推測することはやめて、同じようにイルミネーションの明かりを見た。
「やっぱり今年は違う」つくづくそう思う。昨年までならイルミネーションを見るときも余計な存在が気になったもの。
 それは男女のカップルである。ふたりだけの世界に入っているというのだろうか?お互い笑顔で回りが見えていないふたりの様子を見ると、全く知らない相手なのに、どことなく嫉妬の念に駆られたのだ。

 それが今年は違う。目の前に彼女がいていい感じでクリスマスイブを迎えた。同じようにイルミネーションを見ていてももう他のカップルのことなど全く気にならない。ただ彼女の笑顔だけが見ていて癒される。そんなこともあって今年のイルミネーションもいつも以上に楽しめた。

「あ、そろそろね。行きましょう」時計を見た彼女が突然言い出したこと。「うん、で、どこ行くの?」ここで聞くと彼女は満面の笑顔を見せ、「もっともクリスマスイブを過ごすのに適したところよ」という。
一瞬「え、」と次の言葉が出なかった。まさかとは思ったが、今からホテルにでも行こうというのか?それはそれでも全く問題がない。
「だけど、そうだとすると緊張するなあ」クリスマスに彼女とのデートであれば、そんな シチュエーションも不思議ではない。だけどいざその可能性が高まったとき、思わず緊張が走った。心臓の鼓動が早まる気がする。「まさか、それにしてもなんて積極的なんだ」
 思わず彼女を見た。とてもそんなアクティブな雰囲気ではない。だがそれは、外見で判断してはいけないということかもしれないのだ。

 こうして彼女と手をつなぎながら向かっている。遠くに建物が見えてきた。ビルディングではなく特徴的な形をした建物は、おとぎの世界にありそうに見える。「なるほど、そういうホテルか、うん、だろうなあ」この時別の意味でほっとした。もし高級な星が数多くついていそうなホテルならどうしようか迷っただろう。そんなホテルを出す金もないし、まさか彼女に出してもらうなんてのは...…。

 やがて建物がどんどん近づいていく。「ずいぶん地味な建物だなあ」近づいていくにつれ不思議な気がした。この手のホテルならもっと派手な装飾をしていそうなもの。だが目の前の建物はイルミネーションのような光はあるが、少し控えめな気がする。
「外は暗くても仲が派手なのかな」そう思い建物の入り口に入った。

「あれ?」入った時に思った疑問。そこにはありそうなフロントや部屋を選べるような場所がない?「さ、ここに名前を書いて」彼女に言われるまま記帳をする。「こんなことするんだっけ」あまりこういうホテルの経験がないから、首をかしげながら名前を書く。

「さ、入るわ」彼女にそういわれ、奥のドアを開ける。「あ、あれ?」このときはじめて大きな勘違いをしていることに気づく。そこには大学の講堂のような多くの席があるが、真ん中には祭壇がある。そしてその上にあるのは十字架だ。
「ここって教会?」
「そうよ、私、クリスマスイブに教会に行ってみたかったの。いいでしょうこういう荘厳な中で、賛美歌を聞きながらイブの夜を過ごすって」
 と彼女に笑顔で言われる。一瞬苦笑いになりかけたが、それをぐっと抑えると、「そ、そうだね。さすが!それで夕食も早く取ったんだ」と笑顔で返した。
 


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シリーズ 日々掌編短編小説 1060/1000

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