ロック　第867話・6.9

「急げ！戻ろう（Nhanh lên! Tôi phải quay lại）」ここはとあるベトナムの町の中。グエン・ヴィン・ロック（Nguyễn Vin Rock）は、仕事が終わり時刻を確認すると、慌てて自分のバイクのエンジンを吹かした。そのまま街中を走っている。今大急ぎで家に戻る最中。なぜロックが急いで家に向かって居るのには訳がある。あと30分後に、大好きなテレビ番組があるからだ。そのテレビ番組は音楽番組で、ロックの好きなロックバンドが登場するというのがその理由。
　町中に木々が植えられているとはいえ、ここは熱帯地域だ。晴れた日からの日差しが非常に強く照り付ける。ロックは慣れているとはいえ、暑いものは暑い。スクーターで走っている間は涼しいが、止まるとすぐに暑さが肌を伝って入ってくる。それでもこのときのロックは、テレビが見たくて仕方がないのか、暑いことを忘れていた。

　テレビ番組が始まる時刻まであと15分。「何度か時間通りに間に合った（Tôi đã quản lý để đến kịp thời.）」ロックはバイクのエンジンを止める。もちろんバイクはロックし、今度は家の鍵を取り出してロックを解除。そのまま家に入る。
　かえって来て早々、ロックはテレビをつける。あわただしくチャンネルを合わせると、まだ始まっていなかった。
「暑い！（nóng！）」とここでようやく体の温感が伝わったようだ。慌てて冷房装置のスイッチを押す。次にのどが渇く。まだ昼間ではあるが、今から明日の夜までロックは休みである。
「ビールを飲もう。（Hãy uống bia.）」ロックは冷蔵庫を開けてみた。ところがビールが冷えていない。ロックは顔を一瞬しかめたが、横にはあらかじめストックしてある瓶ビールのケースがある。そのうちの何本かを冷蔵庫に入れた。

　とはいえ、ビールを飲みたくて仕方がないロック。ここで冷凍庫をみると、ロックアイスの袋があった。「これで飲もう（Hãy uống với cái này）」と独り言をつぶやいたロックは、ロックアイスをグラスの中に入れ、その上から冷えていないビールを注ぐ。これは冷蔵庫がなかった頃の、ビールの主要な飲み方。今でもこの飲み方をやっている人は多いが、ロック自身は久しぶりにやる。
「うん、うまい。この飲み方もいいな」ロックアイスが入ったビールは薄まるが、急速にビールの温度は冷えていく。暑さでのどが渇いた体にとっては、その方が体にしみた。いまだ暑さはあるものの、体の中は一瞬冷える。やがて飲み続けることによって、ビールに含まれるアルコールにより体の中は火照ってくることになるが......。

　気が付いたら待ちかねていた音楽番組が始まっていた。ところが、ロックが好きなロックバンドは番組の後半に歌うようだ。それだけならまだいい。ここでロックが思わず舌打ちしたのは、ロックの嫌いな歌手も出ていたこと。こともあろうに、その歌手が今から歌うのだ。
「嫌いだ！（Tôi ghét nó!）」ロックは思わずチャンネルを変えようとしたが思いとどまった。変えてしまったらお目当てのロック歌手を見逃すかもしれない。それで暑い中、急いで帰ってきた意味がまったくなくなってしまう。

　そこでロックは、音を消した。これなら嫌いな歌手の歌声を聞かずに済む。その歌手が歌い終わるまで、ロックはスマホを取り出しネットを見ることにした。国際的なニュースをしている。見ると「USS Rock」と言う者が出てきた。さらに調べると、この「ロック」とは昔のアメリカの潜水艦のようだ。ロックはあまり興味がなく、別のページを探すと今度は日本の情報が出てきた。「六区」の文字と浅草・浅草寺の雷門が出てきた。その次に出てきたのは浅草ロック座の情報だ。こんなことをして時間つぶし手をしていたロックであったが、突然スマホの画面が固まりロックしてしまう。
「困った！（gặp vấn đề！）」と思わず声を出すロック。何度か触っても反応しない。やむなく再起動。このときは無事にスマホのロックが解除されたので、ホッと胸をなでおろした。思わずビールを飲む。ビールを飲み干し残ったのはロックアイスの氷のみ。

　ロックはそのまま立ち上がり、2本目のビールを取りに行く。取りに行ったときに、ふとテレビ画面が視線に入ったが、そのときに衝撃のあまり目が見開いた。なぜならばスマホで遊んでしまったばっかりに、今テレビ画面を見ると、肝心のテレビ番組で見る予定であったロック歌手の演奏が今終わったところだったからだ。

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