見出し画像

旅のフォトアルバム 第1110話・2.17

「来年はどこにしようか?」まだ二月なのに早くも来年の事が頭に浮かんだ。今は空港にいる。空港にいるが今から飛行機に乗ってどこかに出かけるのではなく、逆に飛行機に乗って戻ってきたのだ。
「もう空港から荷物宅配で全部送っちゃたしな」空港に到着してから荷物を引き取り、普通はそのまま家に帰る。だけどめったに空港には来ないからと、もう少し空港の空気を味わおうというわけだ。こうして空港ターミナル内にある展望デッキに来た。

「意外に展望デッキ来たことないかも」その通りである。いつもなら鉄道かバスを使って空港に来れば、そのまま搭乗手続きを開始。あとは空港のレストランや売店に立ち寄ることなくゲートに入る。そこで荷物のチェックやらいろいろ面倒な手続きととっとと終わらせると、後は搭乗時間まで待つ。たまに空港内の手続きが終わってから利用できる売店を使うこともある。またトイレに入ることもあるだろう。
 だが基本的に飛行機に乗って旅をするときには余計なことをしない。なぜならば空港で消費するなら飛行機に乗った後、旅先でお金を落とす方が良いと思っているからだ。

 だからいつも搭乗時刻までの間、ベンチに座り窓越しから飛行機を見ている。そこからももちろんいろんな飛行機が見えるので無意識に眺めていく。今から乗り込もうとしている飛行機が最も大きいが、そのほかにも「お先に失礼」とばかりに先を急ぐ飛行機の姿を見たり、その飛行機のお世話をしているような保守担当者の動きを見たりしている。こうして時間が来ればその行列に並び、飛行機に乗り込む。それだけが行きの空港のとのやり取り、帰りは荷物を取る手続きさえ終われば、そのまま空港を後に帰路に向かう。その後空港で一休みすることはほとんどない。

 今回もその予定であった。帰りの飛行機を乗るまでの間は...…。

 だが今回はしばらく間が開いてからの久しぶりの空の旅であった。だからいつもと心境が違ったのだろう。「一回空港から飛行機を見てみようか」ちょうど飛行機が滑走路に向かって最後の着陸態勢に入ったときにそう直感する。直後の衝撃で飛行機は無事に着陸した。

「ふう、おおー」展望デッキのドアを開けた瞬間に、思わず心中で叫ぶ。普段なら固いガラスに覆われていて、空港内のBGMか搭乗の案内のようなアナウンスしか聞こえない。なのにここは突然聞こえる飛行機から発せられる大きな音が響いている。また風も強い。当たり前だが室内は密閉されているから風など全く感じないのだ。
 
 ときおり突風を感じながらデッキの中央に来た。本当なら見送りに来る人が、ここから知人友人が搭乗しているであろう飛行機が勢いよく滑走路を走りぬき、そのまま大空高く飛んでいく。こうしていつしか雲の中に隠れていく様子を臨むのだろう。あと飛行機マニアがいるのかもしれない。

 ちょうど手前の飛行機が動き出した。ゆっくりとバックし、搭乗口の蛇腹の通路から機体を離していく。下を見れば誘導している様子も見える。そのまま飛行機は進路を変え、滑走路を目指してゆっくりと前進を開始した。

「ああやって動くのか」逆の立場、飛行機の中での一連の動きを思い出しながら外から見える飛行機の動きを比較する。確かにそうなのだろうけれど、こうも違うものかと何度も見ながら思ってしまう。

 やがて追いかけている飛行機は他の飛行機の後ろをついていく、その前を見ると3機ほどの飛行機が並んでいる。この飛行機は順次滑走路の前に立つと順番に大空目指していくのだ。「そうそうこれね」なんて頭で浮かべながら、先頭の飛行機が次々と滑走路を飛び出していく。こうしていよいよ追いかけていた機体の順番がやってきた。「いよいよだな」飛行機の期待はゆっくりと旋回するようにカーブを描き滑走路の前にやってきている。滑走路の前に来た飛行機は、まさしく陸上選手が走る直前のように緊張しているように見えて仕方がない。

 すると大きなジェット音が聞こえる。もちろんこれまでも順番に飛んでいくのだからその都度ジェット音が聞こえていたはずだ。だがこの飛行機の音は意識しているからだろうか?よりはっきりと聞こえる。そうするとゆっくりと動いたと思えば、今までにない速度を上げていく。圧倒的な速度で目の前を過ぎたかと思えば機体の先頭は斜め上を向く。こうしてそのまま飛び立っていく、車輪をゆっくりと機内に閉じていくと、まるで空に吸い込まれるように一気に上昇する。地球の引力をあざ笑うかのようなスムーズな上昇だ。普段乗っている時には当たり前のように感じる離陸の瞬間を、客観的に見ると、こうも違うのかと妙な感動を覚えた。

「別に知り合いも友達も乗っていないのにな」やがて空港の上を旋回しながら雲の中に隠れていこうとする飛行機を見て、思わず声に出して呟く。つぶやいたが、自らも含め空港から絶え間なく聞こえるジェットエンジンの音にかき消され、結果的に音として認識できなかった。

「さて、帰ろう」こうして展望デッキを後にする。その時スマホを見た。そう、先ほど追いかけていた飛行機の離陸の瞬間をスマホで抑えている。「これが今回の最後の一枚になる旅のフォトアルバムだな」と頭の中で考えながら。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A旅野そよかぜ

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 1110/1000
#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#旅のフォトアルバム
#空港デッキ


この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,694件

#旅のフォトアルバム

38,417件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?