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10分間のお昼寝 第851話・5.24

「ふぁああ眠い。10分だけね」昼食を食べた後、今日も無性に眠くなった私は。そのまま静かに目をつぶる。いつもの習慣で、食後にいつも10分ほど眠るのが日課。眠ると言ってもベッドに横になって寝息かイビキをかくような本格的になるのではなく、ソファーにもたれて目をつぶる程度である。それでも10分後に目を開けると見事に睡魔が吹き飛び、そのまま冴えた頭で午後が迎えられるのだ。

 いつもならこの10分間は、静かなひと時が続く。だがこの日は違った。左の耳元からとつぜん音が聞こえる。
「なに、10分間の邪魔をする奴は!」私は目を閉じたまま耳元からの音を手で払いのけようとした。音の雰囲気からして、おそらく虫が飛んでいるものだと思ったからだが、いくら手を振りほどいても音が消えることがない。

「もう、しつこいわね」ついに私は起き上がって耳元を見る。だが虫はいない。しかし相変わらず音がする。「ええい!」私は音のする方に手を思いっきり何度も振り回すが、音は消えない。むしろ音が大きくなった気がする。
「もう仕方がないわね」私は立ちあがるとその場から離れた。離れたが、音が聞こえたまま。「ど、どういう事?」私は小走りに離れていく。だが音は一向に消えないのだ。同じような音がずっとする。立ち止まろうが別の方向に歩いても、変わらない。

「これもしかして......」私は気づいた。今聞こえている音は、外からではなく自分の体から聞こえているのではと思ったのだ。「耳鳴りだっけ。急になんなのもう」
 私はせっかくの昼寝を耳鳴りに邪魔されたと思い、自分自身で腹立たしくなった。と言っても対策の取りようがない。目をつぶろうが開けようが同じように音が聞こえる。
「い、いィィィーーー!」私は苛立ちのあまり、奇声とも思えるようなな高い声を出す。ところが自分の声を出したのが幸いしたのか、ここで見事に音が消えた。「よかった」と思ったのもつかの間、またしても音が聞こえた。
「まただ!」だがさっきとは違う。さっきまでは左から聞こえていた音が、今度は右から聞こえてきた。
「え、なにこれ?」私はもう一度手で右耳のあたりを動かしたが、やはり左のとき同様に一向に音が聞こえない。「もう、いい加減にしてよ!」私はもう一度声を荒げた。左の時はそれで消えたから。
 それは正解だったようで、今回も右の音が消えた。「よし消えた」だけど私はまた「左から聞こえやしないか?」と警戒したが、それはない。

「もう少し時間あるかな」私はもう一度目をつぶった。ところがまたしても異変が起こる。今度は音がしないが、体が後ろに引っ張られているような気がした。「こ、今度は何?」気が付けばどんどん前の風景が遠くなっている。私はよくわからないが後ろに引っ張られているようだ。
「ち、ちょっと何!」私は後ろを見ようとしたが首が全く動かない。金縛りのようになっている。「ええ?」私は焦った。

 金縛りというか何かに縛られているように感じる。そうこうしているうちに、後ろに進むその速度がますます早くなってきた。「ちょ、ちょちょっとお!」また大きな声を出す。耳鳴りの時のように、大声を出せばこの事象が収まるのではと期待したが、今度は違ったようだ。
 大声を出しても全く事象が変わらない。後ろに引っ張られるだけでなく、顔が動かないのが余計に困った。

「そうだ深呼吸だ」私は以前、金縛りの対策でそういう話を思い出す。大きく鼻で息を吸い込み、胸いっぱいに空気を取り込んだ。そのまま今度はゆっくりと息を吐いた。すると全身から鳥肌のようなものが立ったかと思うと、縛られた状況から見事に解放される。
「やった、成功したわ」私は自由に動く首を後ろに向けた。だが、その時突然バランスを崩し、体がひっくり返ってしまう。直後にサイレンのようなけたたましい連続音。


「あ!」私は気づいた。サイレンのような音はスマホからのアラームだ。そして私はソファーからからひっくり返って床に倒れていた。アラームは10分後に起きるためにセットしたもの。非常に長い時間不思議な現象を感じたが、本当に10分間だけの夢だったのだろうか?

「それにしても気味の悪い夢」 
 まだ鮮明に記憶に残っている気味悪いイメージ。だけどそんなこと言ってられなかった。なぜならば今の私は仕事のお昼休み中。弁当を食べた後、休憩室のソファーで、10分間目をつぶって昼寝するのが昼休みの楽しみなのだ。だからアラームをセットして昼寝をしている。私は時計を見た。あと3分で午後の就業時間が始まる。
「仕事に戻れば、悪夢の事、忘れるかな」プラス思考の私はひとりで笑顔になり、そのまま休憩室を後にするのだった。


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