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青春 第880話・6.22

「ねえ、拓海くん、このままずっと一緒にいてね」高校生の今治美羽は、同じ年の幼馴染で交際している違う高校に通っている尾道拓海につぶやいた。 
 目の前にはビーチがある。その中にコンクリートでできた波止場のようなところがあった。そこで元気に水着姿で遊びまわっている男の子たち。雰囲気からしてふたりよりは年下、中学生くらいに見えた。
「どうした美羽、急にそんなこと言い出して。ずっといるに決まっているじゃないか」

 だが美羽は心配そうに水平線の方角遠くに視線を移したまま。「だって、まもなく七夕でしょう。あんなふたりみたいに、年に一度しか会えないとかになったら嫌だなあって」
 心配そうな美羽。潮風で髪がなびいている。だがその横で拓海は思わず声に出して笑う。「ハハハハ!何をいっているのかと思ったらそんなことかよ」「え?」「だってあんな伝説なんて嘘だろう。まったく興味ねえよ」と拓海は一蹴した。

 美羽は、少し自分の世界に入っていたから、あまりにも拓海があっけなく話を壊してしまったことに一瞬むかついたが、すぐに機嫌が戻る。拓海は美羽の方を見ながら、「でも、そういう伝説とかを信じるとかって、美羽は青春を謳歌しているんだろうなぁ」
「青春?」美羽は拓海の方を振り向く。「青春ねぇ、でもさ、拓海君、青春ってなんだろうう。私、親とか先生は、私を見てみんな青春、青春がいいとかいうけど、私いまいちわかってないのよね。だいたい青春てどういう意味なのかしら?」

 拓海は一瞬考えるそぶりをするが、諦めたのかポケットからスマホを取り出した。わからないとすぐに調べる拓海。しばらくスマホの上で指を動かしていたが、とつぜん「なんじゃこりゃ!」と声を上げる。「え、どうしたの?」

「青春とは、元は春を表す言葉。二千数百年前の古代中国における陰陽五行思想では、春には青または緑が当てられる。だって」
「古代中国?」美羽も顔をしかめて首を傾げた。
「夏が朱で朱夏(しゅか)、秋が白で白秋(はくしゅう)、冬が玄で「玄冬(げんとう)」という季節の意味があるんだってさ」拓海はさらに調べた内容を美羽に伝える。美羽も不思議そうに聞きながら視線は遠くに向けつつ頭の中で何のことだか考えた。
 今日は夏のような日差しのためか、水平線の向こうには入道雲が浮かび始めている。

「お、これが怪しいぞ、陰陽五行思想において、「春」は15歳から29歳を表す。そうか春には若者の意味があるのか」「ああぁ、そうだ!若い者を『青二才』とかいう!」ここで拓海と美羽はお互い笑顔で顔を合わせた。なんとなく青春と若者が一致した。

「だけどさ、29歳でも青春って、本当かよ。ずいぶん年上のような気がするだが」「うん、だってそれってほとんど30でしょう。もうおじさん、おばさんよね」
 お互い目を合わせながら笑顔になるふたりは、さらに会話が弾んでいく。「そしたら朱夏がおじさん、おばさんで、白秋がお年寄りってこと」「そうなるな、そしたら玄冬なんて多分、死にかけの」「あ、拓海君、ちょっと声が大きい!」美羽が制止する。
 それもそのはずである、拓海の背中、10メートルくらいのところに、白髪で、しわくちゃのの老人が杖を突いてゆっくりと歩いているのを美羽が見てしまった。幸いにも耳が遠いのかふたりの言葉は聞こえていないようだ。そのままふたりの事を紀伊せずに歩いていく。もしかしたら心の中で「このふたり青春しているな」とでも思っていたかもしれないが......。

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「暑いなあ、夏休み待ち遠しいよ」梅雨に入ったばかりなのに、今日は日差しが強い。中学生たちは楽しそうに水に入っているが、拓海も美羽も水着など持って来ていない。潮風がときおり吹いてくると多少は涼しく感じるが、そうでないときには肌が熱くなってきており、どんどん汗がにじみ出た。「日陰に行こうか」たまらなく立ちあ上がる拓海。美羽もすぐに立ち上がった。
「あれ、見て、アイスクリーム売っているんじゃない!」
 美羽が指さした方向、拓海が見ると、確かにアイスクリームを売っているお店が見える。
「岡山の桃を使ったシャーベットか。それがいいかなあ」と拓海はさっそく店に向かって歩き出す。「私は何でもいいけどうーん......」その後を追いかける美羽は財布を見るが、あまりお金を持って来ていないようだ。
「あ、美羽、今日は奢ってやるよ。好きなの頼んだら。」「本当に!やったあ」と、美羽は満面の笑みを浮かべる。
 それを見た拓海も思わずうれしくなり口元が緩むのだった。


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