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カレイが入ったカレーライス 第729話・1.22

「おい、なんだこれは、客を舐めているのか!」ある港町の食堂で、怒鳴るような声を出すひとりの男。「俺はカレーライスを注文したんだ。なのになぜ焼き魚が出るんだよ!」
 男の前にあるのは、皿の上にご飯が乗り、その上に焼いた魚・カレイが乗っている。

「申し訳ございません。じつはこれはですね。カレイという魚でして」慌てて店主が駆け寄った。
「そんなもんみりゃあわかるだろ!まさかヒラメなんて出ないだろう、おう!」客の怒りは全く収まらない。沸点どころか、もはや溶岩流のような熱を帯びだした。
「ですから、そのカレイのライスで、カレイライスなんです」店主が説明するや否や客は、持っていたスプーンを店主に投げつける。
「客を馬鹿にするな、ボケ!こんなふざけた店、辞めちまえ!帰る。こんなもんもってけ泥棒!」と、男は手に持っていた500円玉二枚を店主の顔めがけてぶつける。そしてそのまま怒り心頭で、何も食べずに店を出た。

「大丈夫?」店主の妻が慌てて近寄ってきた。店主は顔を手で撫でながら落ちた500円玉を拾い上げる。
「ああ、心配ない。しかし、あんなに怒るとはな」店主はため息をつく。「そりゃ普通カレーライスと言えば、あのカレーライスしか思い出せないわ。それをカレイのライスって」店主のネーミングに妻もあきれ返っている。

「だけどよ。この町は昔からカレイ漁でにぎわってんだ。せっかくのカレイを食べてもらおうと、いろいろ試行錯誤したんだぜ。多少面白がってくれる人がいるけど、なんだろうなこの反応って」
 店主は立ち上がると、頭の後ろをかきむしりながら中に入る。もちろんすぐに手を洗った。

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 食堂の営業が終わり、後片付けも終わったので自宅に戻る店主夫婦。「もう、あのメニュー辞めたら」と、帰り際、妻が小さく言うが「いや、それで普通のカレー出すのってなんだかなあ」店主は空を見上げてため息をつく。今日は天気が良いのか、都会から離れた港町では満天の星空が広がっている。

「カレイをもっと食べてほしいんだ。カレーなんてどこでも食えるのに」店主は目をつぶった。「あんた、それだったらカレイライスにカレーをかけたら」
「うん?」唐突な妻の言葉に店主は目を開けた「ほう、それはいいかもな。カレイライスとは別にカレイのカレーライスを新たにメニューに加える。そうすれば、普通のカレーライスを食いたいと思ってきた人もも頼むかもな」

 店主は少し元気が出ると、翌日から早速試作を開始した。「カレーライスくらい俺だって作れるんだ。だってカレイライスを出すまではカレーライス出してたからな」と玉ねぎを炒めるところから始める。しばらく使っていなかった、カレーの材料やスパイスを用意して、あっという間にカレーのルーが出来上がった。

「そしてこれを、カレイライスの上にかけると」皿に乗ったカレイとライスの上にカレーのルーが降りかかった。
「どうなんだろうねえ」妻はまだ不信感を持っている。「カレーの味が問題なければ、いけるんじゃないか」店主は自信満々。「やっぱり、出すなら普通のカレーライスも出しましょうよ。怒り狂った客がでないように」
 妻の必死の懇願により、店主は折れた。カレイライス、カレーカレイライス、カレーライスの3種類のメニューが、この日からこの食堂で食べられるようになる。

「よし、1ヵ月でどれだけ売れるかやってみよう」店主は毎日この3つのメニューでどれが人気が高いかやってみることにした。当初はやはり定番のカレーライスが売れていったが、やがてカレーカレイライスという不思議なネーミングに興味を持つ人が現れる。そして、気が付けばノーマルなカレーライスをカレーカレイライスが上回った。

 さて、カレイライスはどうか。こちらは最初は売れなかったが、かっこ書きを追加すると少し売れ出す。それは、カレイライス(カレイの焼き魚定食)と加えたからだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 729/1000

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