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トンネルの先の世界 第801話・4.4

「おい、西川、あれなんだと思う」同じ年の親友。川西が見つけたものは、廃墟のようにも見える。「これは?」俺、西川が見ると、どうやら小さなトンネルのようだ。
 俺は幼馴染の親友川西と山の中にいる。軽いハイキングのつもりが、好奇心旺盛な点も共通である俺と川西は、コースを離れて山の中に入った。その先で見つけたものが、小さなトンネルだ。

「気味が悪いな。なんだろう」俺がトンネルを見て一瞬鳥肌が立った。だが「西川、行ってみようぜ」と、いつも携帯している懐中電灯を片手に川西はすでに中に入ろうとしている。仕方なく俺もついていった。
「しかしまっくらだなあ。いつの時代のものだろう?」俺も懐中電灯は持っている。灯しながらトンネルの中を歩く。
 もう何年も人が入ったことの形跡がないこの小さなトンネルは、不気味なほどまでに静けさに覆われていた。
 正直、先に向かうのが怖かい。足元が震える。「これ煉瓦で作られているみたいだ。明治か大正のころのものかなあ」と、俺とは対照的に冷静な川西はいろいろと分析。

 歩くこと10分くらいするとようやく出口が見えてきた。「あ、明るいぞ」川西はその明かりに引き寄せられるように、どんどんと前に進む。俺は引きずられるように後に続く。こうして出口に出た。10分くらいしかたっていないのにいきなり暗闇から出たからであろうか?陽の光がまぶしく思わず目をつぶる。

「お、すぐに町が開けているみたいだ。街に出たようだよ」と川西、再び目を開けると、確かにそうである。「ちょっとつまらなかったかな」俺は先ほどまでの恐怖が一気に吹っ飛んだ気がした。
「ここどこなんだろうな。とりあえず行ってみよう」俺も川西も何の躊躇もなく町の方に降りて行った。


 しばらく何の疑問もなく歩いていたが、あるものを見たときに俺は首を傾げた。「おい、川西あれおかしくないか?」俺が指さしたものを川西も見た。「あれ、川が逆流しているな」「そうだろう。風が強いときに逆方向に流れているのを見たことがあるが、これ明らかに段差があるのに水が上の方向に向いて流れているぞ」
「面白い、動画に撮ってみよう」と川西はスマホで動画を撮影し始めた。
「お前、相変わらず物好きだな」ここで俺は何気なく腕時計を見る。そのとき、再びトンネルの時同様の鳥肌が襲った。「な、な、何、ええええ!」時計の秒針が、なぜか時計とは逆方向に刻んでいるではないか?
 俺は一瞬頭がおかしくなったと思った。もう一度時計を見る。やはりそうだ逆回転していた。よく見ると分針の長い張りも逆方向を向いているように見える。
「な、なに、時間が逆に流れている、おい、川西これ」俺は早口で時計が反対に動いていることを説明。だが川西はいたって冷静だ。「へえ、逆回転か、そういえば太陽も東の方に沈んでいるのかもな」

 そう言って余裕のある川西はさらに進む。やがて公民館のような少し大きな建物が見える。そこはガラス越しからテレビが見えた。それを見たがやはり俺は顔色が変わる。人が歩いているシーンが流れているが、後ろ向きに歩いている。映像が逆回転しているのだ。
「逆回転の世界、え、そんな」俺は怖くなり、川西に「も、戻ろう。この世界は異世界だ」と言った。
 川西は俺の問いに首を横に振る。「逆回転の世界、いいじゃないか。俺しばらくここにいて調査するよ」
「はあ、何を馬鹿な!」俺は川西の言っていることを疑った。

 その時一台の車がふたりの横を過ぎる。それはバックに走っていた。通常の車のバック速度とはととても思えない速さで軽快に走り去っていくのだ。
 俺は恐怖のあまり今度は心臓の鼓動が高鳴ったが、川西はそれを嬉しそうに眺めている。「すごいな本当に逆回転だ。本当にこの世界の時間軸が逆回転しているのなら、若返るかもしれない。俺、これまでの人生で何度か選択を誤った気がしているんだ。もし戻れるなら戻って再びやり直したいことがある。だから俺はしばらくここにいて逆回転の世界にいるよ」

 俺は川西の決意に一瞬次の言葉が浮かばない。しばらくの沈黙ののちようやく口を開く「でも、今の生活とかどうするんだ?」「だったら行方不明者でいいではないか。本当は西川、君もこのままいてほしいが、それは俺には言えない。立ち去るのは自由だ」

 そういうと川西は、俺の前から街中に向かう。おれはもう一度川西に対して大声を出した。「この世界に残ったら後悔するかもしれないぞ!」それに対して川西はこちらを向き。「それはどうか、わからない。元の世界に戻った君の方が後悔するかもしれんよ!」というと、そのまま歩いて行った。

 俺は川西の説得を諦め、来た道を戻る。人気のないうっそうとした気味の悪いトンネルを抜けて元の世界に戻った。そこからも道なき道を歩き大変である。だけど暗くなることには家に戻れた。この後、川西は行方不明者となる。

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「まさか、あの川西なのか?」あれから10年、俺は結婚もして子供もいて日々平和で幸せな生活を送っている。最近俺よりも20歳くらい年下の人物が話題となっていた。逆回転の世界のことをリアリティに語り、ネットで話題になっている人物。その名は川西であったからだ。
「本当にそうなのかもしれないが、もう俺とは違う次元の人だしな」そう思った俺は、その川西という人物を接触することも意識することもやめた。


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