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11月11日の朝

「今日は、ポッキー&プリッツのどちらかを買おうかしら」と朝からユカリが嬉しそうにくつしたを履き、さらにどういうわけか、平日なのに胸元に宝石のついたネックレスをしている。
「ずいぶんご機嫌だな。いつもの磁気のやつじゃないのか? そんなことより朝食はどうなった。この前スーパーで激安販売していた、長野県きのこがあっただろ」とマサオは、テーブルで自分のを右手に持って待ち構えていた。

「わかっているわよ。ちゃんと今からを茹でるから」といってユカリはキッチンに向かう。「朝からうどんとかか?」「ううん、ラーメンよ。もやしでも乗せようかしら」「ラーメン?おい、まさかインスタントの袋のやつか」しかしユカリは首を横振る。

「違うわよ、昨日の残り。きりたんぽ鍋のスープを活用するのよ」「おお、そうか!あれ旨かったなあ」「でも、そこに普通なんていれるかしら、一般的には鶏肉とかよね。あなたのアイデアが斬新すぎ」
「おいおい、美味しかったからいいじゃないか。もし鍋にだよ。豚まん、あるいはチンアナゴを入れるというのなら、それは確かに可笑しいよ」と言ってマサオは笑う。だがそれに対するユカリからの反応がない。彼女は料理を作り始めると無言になる。だからマサオは気にせず新聞を読む。

「さて、ほう今日は第一次世界大戦停戦記念日か。第二次大戦のほうは有名だけど、こっちはやけに地味だな。なに、ポーランド復員軍人が? これ俺には関係ない記事だな。まあいいや」といって、マサオは新聞を折りたたむと、両手を大きく上げて深呼吸をした。
「それにしても二日酔いでない朝は、本当にさわやかだなあ。昨夜は立ち呑みにしておいたのが正解だった。安いしな。でもあの店、ピーナッツは殻付きのまま茹でてたし、何だっけ名前忘れたけどチーズも旨かった。だけどサッカーの中継が流れてたから、白人たちが騒いぎまくってたのが気に食わん。それにあいつら観光客か?西陣織の着物着て下駄まではいてやがったぜ。ったく、それだけがうざかったな」

「ハイお待たせ」とユカリが、丼ふたつを持ってきた。昨日の鍋のスープにはベースとなる味に加えて、ゆで上げられた具材の成分も中に入っている。複雑にいろんなものが入っているスープは多少は濁っていた。それでものように澄んでも見えなくはない。
「いただきまーす」さすが元恋人たちのふたりは、打合せしてもいないのにおそろいで声を出す。マサオはラーメンをすする。
 昨日の複雑なスープのコクのある味わい、そしてラーメンの程よい硬さ。口の中に広がるフレーバーと舌を通じて感じ取る旨味は、程よい熱とともに心地よい。
「うまいな。朝からこういうのも良い」マサオが笑顔で頷くと、ゆかりは嬉しそう。「よかった」と言うと目の前に置いてあったテレビのリモコンを手にした。「テレビ見ていいわね」「ああ、どうぞ」うまそうに食べるマサオの横で、ユカリはリモコンのスイッチを押す。ところがテレビがつかない。何度押しても反応しないのだ。

「あれ、どうしたのかしら、テレビがつかない」「電池が切れてるんじゃないか?」と言うマサオにゆかりは「そんなはずはない。だっておととい交換したばかりだし」「となると配線器具」「え?」「ああ、コンセントが取れているとか、そういうのじゃないかな」
 
 ユカリは立ち上がり、コンセントを確認する。場所は隣の部屋で、そこにはマサオのこだわりで小型暖炉が置いてあり、上には煙突があった。コンセントは入っている。しかしユカリは念のため一回抜いて再び差してみる。すると驚いたことに、次にリモコン操作をするとテレビが付いたではないか。

「良かった、壊れているわけじゃないみたいだったな」
「なに朝のニュースかしら。どこかの建物の中で中継しているわね」「どうみても公共建築物ではないぞ」「そうね介護施設のようだわ。お年寄りが何かしている。あ、おりがみね。鶴を折っているのかしら。すごくうまいわ。私これ出来ないし... ...」

「そうそう思い出した。取引先のコピーライター。彼は中国人だが、鶴を折るのが本当に得意なんだ」とマサオはつぶやくと、ラーメンの残り汁を一気に口の中に吸いとる。
「え、鶴折るの得意な人がいるの?」「ああ、何かね。そいつずいぶんとこだわり屋でさ、今まで数百羽も織り上げて家の中に飾っているそうだ。千羽を目標として。それにアンゴラとか一羽ずつに名前を付けてんたぜ」
 ちょうど、ゆかりもラーメンをすべて食べ終わった。口元をティッシュでで拭き取ると「へえ、その人マメなのかしらね。その話聞いたら何となく、奥様うらやましいわね」と、マサオにあてつけるかのように、ユカリは体を寄せる。そして意味深な視線をマサオに向けた。

 マサオは、開いた右手を前に出して前後に振って否定する。
「いや実は彼独身で、彼女を募集しているそうだ。中国では独身者をツルツルの棒を意味する『光棍』というそうだが、今日は棒が4本並んでいるから光棍節なんて言ってたな。さて出勤するかちょっとどいてくれないか」「あれ?出勤するの」「あ、ごめん。今日11月11日は有給休暇取ってたんだ」


11月11日の記念日すべてを、太字キーワードに並べて創作してみました。
(本当にこの日記念日多すぎです)

11月11日の記念日
第一次世界大戦停戦記念日、介護の日、公共建築の日、電池の日、配線器具の日、宝石の日、麺の日、ピーナッツの日、チーズの日、サッカーの日、くつしたの日、恋人たちの日、おりがみの日、西陣の日、下駄の日、鏡の日、鮭の日、ポッキー&プリッツの日、もやしの日、煙突の日、チンアナゴの日、箸の日、きりたんぽの日、磁気の日、長野県きのこの日、コピーライターの日、立ち呑みの日、豚まんの日、おそろいの日、復員軍人の日(アメリカ)、ポーランド独立記念日、アンゴラ独立記念日、中華人民共和国光棍節

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シリーズ 日々掌編短編小説 295

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