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猫のいるしあわせ 第1154話・4.25

「人と対等にコンタクトが取れるレベルにまで知能が」ちょうど前の家の窓からのぞいている二匹の猫を見て私は面白いことを想像した。

「そうなったら、おそらく...…」私はいろいろなことを想像してみる。頭の中であれこれ想像してみた。想像した結果私はある結論に達した。「猫は人間と同じ知能を持つべきではない」と。
「逆に人間が猫レベルにまで...…」と、逆のことを考えようと思ったがそこでやめておいた。

「変なことを考えておくのはやめよう」気晴らしにテレビを見ることにする。テレビをつけると、ドラマの再放送をしていた。懐かしいなあと思ってみていたが、だんだんと眠くなったのか体を横にする。そのまま寝るのかなと思ったが、そうではなかったようだ。

 やがてドラマが終わりニュース番組が始まった。ニュースはつまらないとチャンネル変えようとリモコンに手を置いたがうまくつかめない。
「あれ?」手の指がうまく開かないのだ。「指が攣った?」体を動かさず寝たまま手を伸ばしたのが良くなかったようで、面倒だけど立ち上がることにした。「よ、あれ?」ところがここで腰まで攣ったのか立ち上がれない。体が思うように動かないのだ。

「え、ええ?」4つんばいにしかなれなくなっている。「ち、ちょっとナニコレ」私は想定外の状況に頭が混乱しスつも手を前足のように突き出して4つん倍にして歩く。「そういえば...…」私の位置からは見えないが、お尻のほうから何か伸びているような気がしてならない。

 私はテレビのリモコンの前に来たが、やはり手の指が動かない。「え、ちょっと!待って!」と叫んだが、その時私は自らの耳を疑った。なぜならば私が発した声は猫の鳴き声そのものだ。

「まさか...…」私はこの時余計なことを頭に中で考えてしまったことを後悔する。私は猫になってしまった可能性が高い。「そ、そういえば」テレビ画面でさっきまで人の言語をはっきりと認識していた。国際情勢のことを熱く語るアナウンサーが何を言っているのかがわかる。
 だが今は違う。何を言っているのか意味がわからないのだ。ただ特定の低い声で、何か意味不明の声を出し続けているようにしか聞こえない。

「あ、あああああ」私は気が狂いかけたが、徐々に私自身にも異変が起こっている。思考力が落ちているのだ。過去の記憶があいまいになっている。やがて自分が一体誰なのかすらあいまいだ。「わ、わたし、え、あ」まるで記憶喪失に陥ったのか、もう私が誰なのか、いやそのことすら考える状況ではない。ただ本能のまま4つんばいになって動くことしかできないのだ。

「あ、た、食べたい」どのくらいたったのかわからないが、はっきりわかること。それは空腹だ。空腹だけは本能だから反応するのだろう。何かが食べたいが、いったい何を食べてよいのかわからない。というよりエサはどこにある。ここは部屋の中、食べ物が何もない。

 ここでドアが開いた。私は開いたドアから見えた存在を見て身構えた。それは私がかつて猫と思っていた存在が二匹いる。彼らはなぜか二足歩行をしていた。だがそのうちの一匹の前足、手?と思われるところには何か持っている。それを見た時私の嗅覚が反応した。それは私にとってのごちそうだと思えるおいしそうなにおいだ。

 二足の猫が何か声を出しあっている。一般的に思うような猫の鳴き声ではない。音のアクセントが上下していて、それはまるで話し言葉のよう。だが私には何を言っているのか理解できない。「は、腹減った!」私は無意識に本能を口にした。そしてそれは言うまでもない。猫の鳴き声として私の口から発せられた。すると二足歩行の猫の一匹がしゃがみ込むと、手に持っていたあるものを私の前に差し出す。

 それは私の飢餓状態からの解消を大いに期待できそうなもの。つまり餌だ。私は礼も言わずただ顔が前に突き出た。前足は床につけたまま顔だけを餌の前に突き出すと、口からそれに喰らいつく。そして無心にそれを食べる美味しいという味覚だけはわかる。ただ獣のように必死に食らいつき、徐々に身をもって感じられる腹の満たされ方に、最高の快感を味わうのだ。
 そしてふと私に向かっていた視線の先を見たとき、私に対して二匹の猫がうれしそうな表情を見せながら、私が餌を喰らいついているのを見ていた。

ーーーーーー
「て、ところかな」私は、ここまで想像で書いたシナリオを見て満足する。そう今まさに人が猫の知能になり、逆に猫が人の知能を持ったらどうなるかということを再現してみた。最後は本能でえさにありつくところで、ストーリーを終えることにしたのだ。

「あれ?」立ち上がれない。「まさか...…あんなの書いたから私、本当に猫?」とは思って、一瞬鳥肌が立ったが、しばらくして原因がわかった。ぎっくり腰で体が動かなくなったようだったのだ。
「これはこれで、た、大変だけど、それよりか」私は自分で考えたシナリオ通りにならずに済んだと、腰の痛さを耐えながらそう思った。

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