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小さいけど 第956話・9.7

「もっと、ここを......」今俺は、庭を造っている。理想的な庭とは何か?頭の中ではいろいろ浮かんでいるが、実際にやろうとすると中々うまくいかないもの。「あの石をここに置こうか。いやもっと大きな石灯篭のほうがバランスがいいかな。池に流れる滝はこの位置に配置して、せせらぎの流れを長くしたいものだ」
 アイデアは浮かぶが、実際に配置するとなかなかうまくいかないもの。何度もため息をつきながら考える。
「やっぱり、兼六園や後楽園のような名園とは程遠いなあ。どうやってああいうのを設計したんだろう」俺はうまくいかず大きなため息をつく。

「何しているの?」いつの間にか彼女が家に来ていた。「え?いつの間に」「いや、さっきから来てたけど全然気づいてくれないから、だから何しているの?」「え?ああ、今庭を造っているんだ」
「庭?でもパソコンの前にいるだけじゃん」と彼女に指摘されたが、俺は気にもならない。
「ああ、そりゃそうだよ。バーチャルで庭を造っているんだから」

 ところが彼女はそれを見てあきれた表情になった。「なんで、バーチャルで庭作っているの。せっかくだからリアルな庭作ろうよ」
「ええ?」俺は彼女の言い分に少し戸惑う。「なに、どうやって!無理だよそんなの」
 俺は即座に否定する。だが彼女は本気だった。
「せっかくの戸建ての古民家を相続したのに、あのあたり雑草だらけで余っているじゃないの」と彼女は部屋の外を指さす。

 彼女の指摘した通りである、俺はいまいわゆる古民家というところに住んでいた。古民家といっても茅葺とかそういうものではない。ごく普通の木造住宅だが、今年の初めに父親を亡くしたことからこの家を相続し、アパートを引き払って引っ越した。ちなみに母は祖父母の面倒を見るために自分の実家にいる。

 ということで相続したものの、ほとんど手を付けていない状況。空き部屋が多くある。半年前に付き合いだした彼女は、来月くらいにここに引っ越して同棲しようといってくれている。だからだろう。本気で「庭を造ろう」と言い出しているのは。

「どうやって、俺たちだけで作るの」俺はパソコンの電源をいったん切って立ち上がった。
「うーん、まずは雑草を抜くところから始めてみようかしら」と彼女の提案。「わかった」と俺はすぐに同意した。
 住んでいる家の前は20坪ほどの庭があるが、完全に荒れ放題。何もしていない。何かしたいが、あまりにも荒れていて何かをしようという気が起きない。そもそも最近は連日暑いから外に出る気が起きないのだ。だが今日は違った。午前中に激しい雷雨。雨はやんだが、空は曇ったままだ。そのため気温が上がらず過ごしやすい。

「虫の対策だけはしておかないとな」住んでいる以上、放置しているとはいえ、庭の周りを歩くことがある。こういう時のために携帯用の蚊取り線香を常備していた。それをズボンのベルトの位置に取り付けると、さっそく荒れた庭の前に出る。

「またひどい状況だなあ」俺はさらに多くの雑草があるのを見てため息をつく。「ため息ついても始まらないわ」と彼女は早速道具を手に、雑草を取り始めた。俺も彼女に続いて雑草を抜く。

 外はすでに秋の虫が鳴っていた。耳から聞こえる秋の虫は結構音が大きくうるさいくらい。それでも夏に思う存分鳴き、まるで暑さを増長させている気がした。セミの鳴き声よりはずいぶんましだ。

「しかし、雑草と、そうではない草の違いって何だろうなあ」俺は雑草を抜きながら疑問に湧く。
「さあね。とにかく花が咲いているのは置いとこうかしら」雑草にもピンキリがあり、見たこともない花を咲かせているのもある。花がきれいなものは雑草のようでも避けておき、明らかに邪魔そうな雑草だけを排除した。

 こうして2時間ほど作業をすると、花を咲かせている一部を除き、雑草をほぼ駆除した。
「やっぱり雑草を抜くとずいぶんとスッキリするなあ」俺はパソコンでの作業でなまっていた体も、雑草抜きをすることで、体が少し楽になった気がした。

「さてと、雑草は抜いたけど」俺は雑草の無くなった家の敷地を眺める。パソコンでシミュレーションしていたのとは違い、当然大きさは限られている。石灯籠くらいは置けそうだが、とても滝なんて作れそうにない。というより、ここに池なんて掘れるのだろうか?

「とりあえず、ホームセンターに行って使えそうなものを買ってきたら」と、彼女が横でささやく。「そうだな、で、君はどういう庭が好きかな」「うーん、何がいいかなぁ。急に言われてもわからない」
「そうか」俺は小さくつぶやくと部屋に戻る。

「ねえ、今日はもう終わりにするの?」彼女が質問してきたので、俺は振り返るとこういった。
「あの大きさで楽しめる、小さな庭をシミュレーションしてみよう。ホームセンターはそれから行こう。君の意見も取り入れたいから一緒においで」と。

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シリーズ 日々掌編短編小説 956/1000

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