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アンビバレンス

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どんな形容詞も邪魔だ。
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#旅

旅しているときはいつでも振られた気分なのはなぜだろう。ということは、人生すべてがずっと失恋と共にあるということだ。いつも旅の、道を知らない、星を見上げる余裕のない、間違いばかりの路上にいる。

そこでは人がすべて風景に見える。賑やかな笑い声も、衝突されたときの痛みも、欠伸が移ることも、錯覚でしかあり得ない。自分が歩くこと自体が夢との境界を失くす。いつでも行方不明であるならば、その何処にもない場所こ

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自由を語るな

旅が好き。と言うと、嘘になるのだと最近気づいた。

純粋に好きと言うより、好きだと思わなきゃやっていけないから好き、なのかもしれなくて。

「今此処にいる」ことに我慢できず、逃れなきゃならないような、圧倒的に、自分の居場所は此処ではない、と内側が疼くから、当てもなく彷徨う必要がある。旅したいのではなく、旅そのものが生き様になっているだけだ。

常に此処じゃ駄目だ、自分が腐る、という強迫観念にも近い

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愛が旅であるから

愛が旅であるから

東京なのか神奈川なのかわからないな、と二年前にセンター直前対策で塾へ通っていた当時も思っていた。蒲田は、東京都大田区であるらしい。駅で降り立ったときの、鋭い曲線を描くモニュメントと思わず入り浸りたくなる商店街は、見覚えがあった。忙しい受験生の記憶にも残っていたのだ。

もつ刺しが人気の居酒屋で女子大生らしき人物が一人で生ビールとポテサラしか頼まない光景は、滑舌が悪いといちいち叱られている新人店員に

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