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中編

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少し長めの怪談です。
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#都市伝説

動物にまつわる説話『鹿』

動物にまつわる説話『鹿』

T県U市近郊〜喫茶店マスターの話〜

「個人経営でそこまで広い店ではありませんし、付近にお店自体が少ないのでお客さんとよく話をするんですよ。まあ聞き耳立てるだけの時もあるんですが、その時は常連の方1人だけだったのもあって他愛の無い世間話をしてたんです。町内の誰それさんが、みたいな。平日はいつも6時に店を閉めるんですが……夕方5時ちょっと過ぎてましたかね。
 髭面の男性が1人いらっしゃったんです。ひ

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線路脇の廃屋にて

線路脇の廃屋にて

 ある路線のすぐ脇に一件の廃屋がある。周りにある家々には住人がいるが、そこだけは長いこと誰も住んでおらず、解体される事もなくただ建っている。市や町が解体しようと試みたが、何故かことごとく失敗してしまうと言う。
 そこにはある女性の霊が出るのだそうだ。
 その霊は決まった時間になると二階の窓際に現れ
「ぎゃーーーーーー!!!!!」
 と叫び声を上げて倒れこむ。それから暫くして階段を這って降りて来て、

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その息遣いを私は覚えている【中編】

その息遣いを私は覚えている【中編】

 まともに見れた物では無かった。
 いや、例えまともだったとしても多種多様な花に彩られ、毎日欠かさず見ていた寝顔と何ら変わらない穏やかな顔をしているリクを、どうして私が面と向かって虹の橋へと送り出す事が出来るだろうか。
 どうにか直してくれたのだと言う。今見えている顔の反対は、飛ばされてコンクリートの上を滑ったせいでとても見られたものではなかった。
 様々な手続きが終わり、家に戻ってお気に入りの玩

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その息遣いを私は覚えている【前編】

その息遣いを私は覚えている【前編】

ハッハッハッハッ…

 枕元で聞こえる荒い息遣いが私の眠りを妨げる。
 頭だけ動かして見ようとしても、そこには暗闇が広がるだけで何もいない。
 1度母と一緒に寝て貰った事があったが、母には何も見えていないし聞こえてもいないようだった。無論、私にも姿は見えてはいない。幻聴だと思い込もうとしても、余りにはっきりとしたその音が私の心を大きく揺さぶり、震わせる。
 聞こえなくなる様にと布団を頭から被ると、

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組織液状化症【不思議な話】

組織液状化症【不思議な話】

人の約70パーセントは水分で出来ている。
その割合が徐々に増加する「組織液状化症」、通称SLS(sells liquefaction syndrome)という病気が見つかった。人のみならずその他動物にも感染し治療が著しく困難であり、感染力自体もそれなりだった。
一度感染すると水分量の多い部位から体組織が更に液状化していき、軟骨等の比較的硬い部位に移り、最終的に頭蓋骨等の内骨格、或いは甲羅等の外骨格

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彷徨える夕暮れ【怪談】

彷徨える夕暮れ【怪談】

「良い子にしないと夕暮れがやって来るよ。夕暮れはお前の影を飲み込んで、終いにはお前も飲み込んで、綺麗さっぱり消し去っちまうんだ。そうなるともう誰にも会えない、誰にもだよ。ママにもパパにもばあばにも会えないんだ。だから良い子にしてなきゃいけないよ」
というのが、幼き私を叱る時の祖母の決まり文句でした。何で怒られてしまったのかははっきりと思い出せませんが、初めて聞かされたのが確か年長組だったので言って

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巷で噂のエスカレーター【怪談】

巷で噂のエスカレーター【怪談】

12、エスカレーター

近所に幽霊が出ると噂のエスカレーターが存在する。そのエスカレーターはJRの駅に直結する比較的新しい物で、幽霊が出そうには微塵も見えない。しかしながら、噂は近隣に住む子供から大人まで知っているし、実際に出くわしたと言う人が後を絶たない。
その噂の内容は多少の差異はあれど、大まかにはこうだ。
「雨の降る日に、時間の遅い電車を利用しようとすると霊が現れ、あの世に引きずり込まれる」

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