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今は勝てねども

3月のある日。

その日は
息子の高校の制服の採寸のため
家族3人で
少し遠方へ出掛けていました。

行きの車の中で
息子のスマホから
ある曲が流れてきました。

それは初めて聞く曲でした。

ピアノの優しい調べで始まる
その曲が
あまりにも心地良くて
耳を澄ませて聴いているうちに
ポロポロと
涙が溢れてきました。

あとになって
それが
SEKAI NO OWARIの
『サザンカ』という曲だと
知りました。

僕は知ってるよ
誰よりも君が一番輝いている瞬間を

嬉しいのに涙が溢れるのは
君が歩んできた道のりを知っているから

夢を追う君へ
思い出して つまずいたなら
いつだって物語の主人公は笑われる方だ
人を笑う方じゃない
君ならきっと

息子の通う中学校は、
部活動が盛んで
その結果や成果で
進路が決まっていく生徒も
大勢いました。

中学校生活を
ソフトテニスに捧げる
という在り方に
どうしても馴染めなかった息子は
2年生の春に
一線を退きました。

それは
自分の大好きなことをするための
選択でもありました。

ただ、
その道のりは
決してやさしいものでは
ありませんでした。

息子の卒業文集のタイトルは
『今は勝てねども』
でした。

多くの生徒が
部活動での華々しい成果や
そこでの学びを熱く語る中
息子の内容は
少し違ったものでした。

中学生になり
初めて本格的に取り組んだスポーツ、
それがソフトテニスだったこと。
はじめは
自分が大会で活躍する姿を夢見て、
一生懸命練習したこと。
しかし
圧倒的に
周囲のメンバーと練習量の違う自分。
何の成果も出せぬまま
月日だけが流れ、
絶望したこと。

そして
次のように続いていきました。

勝つこと以外に
何か目標に出来ることはないか
そんな時に見つけた言葉が
『人生は楽しんだもの勝ち』である。
この言葉に出会ってから
勝負に対する考え方が変わった。
負けても落ち込まなくなった。
なぜなら、
負けた時は
相手に勝利という喜びを与えたんだ
と考えるようにしたからだ。
最後の試合も
結果こそ残せなかったが
笑顔で終わることができた。

でも、
その笑顔は
心からの笑顔だろうか。
楽しいに勝るものはないという
綺麗事で
勝ちたいと言う気持ちを
抑え込んでいたのではないか。

そして、その後は
敬愛する桑田さんの曲
(サザンオールスターズ)
『闘う戦士たちへ愛を込めて』
を引き合いに出し
一か八かの勝負時について
次のように綴っていました。

僕にとって
『アイツ』とは
追い込まれた時に
言い訳を考えて
逃げようとする弱い心のことだ。
勝負に相手の気持ちなんて関係ない。
何が何でも勝ってやるという
強い気持ちをもつことが
勝負の世界の仁義である。

何かもっと自分の得意なことで
何としてでも頂点をとってやる
という強い気持ちを持った
タフな野郎にもなってみたい。
どの世界の頂点に挑むか、
僕の中ではもう決まっている。

自分の大好きなことをするために
みんなと違う選択をした息子。

これで良かったんだ…
そう思いたい一方で
単なる『逃げ』ではなかったのか…
自分は弱い人間なのではないか…
という気持ちを
拭い去ることが出来ず
ずっと苦しんでいたのかもしれません。

文集を読んで
胸がいっぱいになりました。

と同時に

あなたは弱くなんかない…

心から打ち込めるものが
学校生活以外の場所にあった…
それだけなのだから…

そう思いました。

でも、
息子はきっと分かっている…

自分が得意とする
物づくり
宮大工という世界ならば
タフな野郎にだってなれるはずだと。

卒業式の日
受け付けで
息子が私たちへ宛てて書いた手紙を
手渡されました。

式の前には
とても読めないと思い
家に帰ってから
封を開きました。

お父さんお母さんへ
ではなくて、
○○さん、○○さんへと
2人の名前が書かれていました。

ふざけてなのか
照れ隠しなのか…。

周りと比べるのもどうかとは思いますが
自分はいい家庭環境で育ったなあと
最近よく思います。

自分でテニスをやると決めたのに
その気持ちは続かなかったり
趣味で木工をしても
大金をつぎ込んで結局失敗したりと
口出しをしたくなることは
たくさんあったと思います。
受験生らしくない生活をおくっていて
焦ったこともあったのではないでしょうか。

それでも
いつも僕の選んだ道を
全力で応援してくれて
ありがとうございます。

飄々と生きているように見えて
自分に苛立ったり
情けなく思えたりすることが
何度も何度もあったのでしょう。

手紙の最後は、
こう締めくくられていました。

将来の目標は
あきらめないと思うので
これからも
応援よろしくお願いします。

息子は
無事に高校受験に合格。

春から
工業高校の建築科で
建築の技術を学びます。

おそらく
高校でも
部活動の壁は
重くのしかかってくるでしょう。

でも
きっと大丈夫…

あなたなら
乗り越えていける…

私たちは
これからも
息子を応援し続けたいと思います。


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