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ひとりじゃないよ…そう言ってくれる人がたった一人でもいたら、きっと生きていける…。

私は
学校と地域ボランティアをつなぐ
地域コーディネーター
という仕事をしています。

橋渡しはもちろん
ボランティアさんと一緒に
ボランティア活動もしています。

ごくまれにですが、
私個人に、直接、
活動の依頼がくることもあって。

つい先日も、
4年生のある先生から
国語の授業で
読み聞かせをしてほしいと
頼まれました。

授業と言っても、
それは普通の授業ではなく
学校公開授業だったのですけれどね。

先生の説明によると
数種類の本の中から
子どもたちが読みたい本を選び
自分で読むか
読み聞かせを聞くか
どちらかを選択するのだと言います。

読み聞かせを担当するのは
私のほかに
司書の先生と学校のスタッフ。
合わせて3名。

「この本をお願いします」
先生から手渡されたのは
『二平方メートルの世界で』
という絵本でした。

初めて見る絵本でした。
それもそのはず。
その本は
2021年に作られた新しい絵本。

9歳の女の子の作文をもとに作られた
ノンフィクション作品。

「長いお話なので
 初めから終わりまでではなくて
 大体この辺りから終わりまでを…」
先生が読む箇所を
提案してくださいました。

この絵本を選ぶ子は
事前に自分で読むか
先生に読んでもらうかして
内容を一通り知った上で
参加することになっているので
大丈夫とのことでした。

さて、先生から
絵本を受け取り
早速家に帰って
さっと目を通してみました。

病気と共に生きる運命。
諦め、孤独、絶望…
その中で見つけた一筋の希望
かなりメッセージ性の強い作品でした。

先生にお願いされた箇所を
早速声に出して
読んでみることにしました。

ところが…。

声に出した途端
涙がぽろぽろ溢れてきて…。

涙を拭いて
深呼吸をして
もう一度読んでみました。

けれども
涙はあとからあとから溢れてきて…。

9歳の少女の
悲しみ、苦しみが
私の中にとめどなく流れてきて
どうすることも出来ませんでした。

読んでは泣き
読んでは泣きを繰り返すうちに
彼女の悲しみが
私の中で浄化し
やがて希望へと変わっていきました。


さて、迎えた本番当日。
4年生の教室には
たくさんの先生方が集まっていました。

先生の指示に従って
子どもたちが、
次々に隣のホールへ移動して行きました。

私はそのまま残り
教室で読むことになっていました。

「『二平方メートルの世界で』を
 聞きたい人は
 ◯◯さんのところに行ってください」
先生が私の方に手を向けました。

誰もいない
ということもあるのかな?
一瞬、そんな不安に駆られましたが
先生もその辺は
うまくやってくださったようで
私の目の前に
5人の女の子が現れました。

顔を見ると
そのうちの3人は
偶然にも
5年前、幼稚園で
私が受け持った子どもたちでした。

彼女たちが
この絵本を選んだ訳が
何となく
分かるような気がしました。

彼女たちはみな
優しく、繊細で、
感受性の強い子どもたちでした。

中でもKちゃんは
小学校に入学してから
登校を渋ることが多くなり
教室でみんなと過ごせない日々が
長く続きました。

私も何度か
支援を頼まれたことがありました。

4年生になった今は
他の子と同じように
クラスで授業を受けられるようになり
元気に過ごしているようでした。

私は
彼女たちと
この絵本の世界を共有出来ることを
心から嬉しく思いました。

とは言え、研究会の場。
周りにはたくさんの先生方がいて
正直、かなり緊張していました。

彼女たちに
お話の途中から読むことを伝え
早速読み始めました。

ところが…
絵本を持つ手が
小刻みに震え出したのです。

あぁどうしよう…
優しい彼女たちが
このことに気付いたら
きっと心配するに違いない…

私は本を持つ手を
体にぎゅうっと押し付け
手の震えをなんとかごまかしました。

そして、
彼女たちの瞳を見つめながら
語りかけるように
丁寧に読み進めていきました。

今日は感情移入し過ぎない
そう決めていました。
それに、緊張で
それどころではないだろうとも
思いました。

ところが…。

後半にさしかかり、

ひとりじゃないよ…

その言葉を口にした途端
突然ぶわっと
胸いっぱいに
熱いものがこみ上げてきました。

一瞬、
声が震えました。

Kちゃんと目が合いました。

私はすぐに
気持ちを落ち着かせ
続きを読み進めました。

小学校に行き渋り
泣き叫び、暴れていたあの頃。
Kちゃんは
一体どんな思いで
毎日を過ごしていたのだろう…。

あの時
私がKちゃんにしてあげられたこと
それは
支援を頼まれた
ほんのわずかな時間
一緒に過ごすこと
学校で見かけた時に
声をかけること
それぐらいしかありませんでした。

Kちゃんには
この絵本の主人公の苦しみを
全て理解することは難しいかもしれません。
でも
分かってもらいたいけれど
分かってもらえない…
辛くて、苦しくてたまらない…
そんな気持ちは
きっと理解できるに違いありません。

あの頃
Kちゃんの対する周りの目は
様々でした。
甘え…
そんな風に捉える先生も
少なからずいました。


何とか絵本の読み聞かせが終わり
それぞれの本の魅力について
考える時間となりました。

その後、
それぞれが
読んだ本の魅力を
短い言葉で表現するという
場面がありりました。

彼女たちから出た言葉
それは…

『前向きな』や
『成長した』でした。

その言葉を聞いて
私は胸がいっぱいになって…
その場で泣いてしまいそうになりました。

主人公が
悲しみや苦しみ、孤独、
病気と生きていく人生を受け入れ
前向きに生きようとする姿に
彼女たちは
きっと
励まされ勇気づけられたことでしょう。

生きるということ。
それは時には
苦しいことでもあって。

それは
子どもたちにとっても同じこと。

それでも…
「私はあなたの味方だよ」
「ひとりじゃないよ」
そう言ってくれる人が
たった一人でもいたら…

それが両親や家族
身近な人であったらなおのこと
たとえ
こうした絵本であっても…
きっとその言葉は
生きる希望に
つながっていくに違いありません。

『二平方メートルの世界で』
私にとっても
忘れられない一冊となりました。

さて
この記事を書きながら
ふと浮かんだ歌がありました。

それは
ひとりぼっちのさみしさを
歌った歌なのですが…

ひとりじゃないよ

そんな励ましに聞こえてきました。

さみしさを味わいつくした先には、
どこまでも深い愛と優しさが溢れている…
そんな気がしました。

テルーの唄

夕やみせまる 雲の上
いつも一羽で 飛んでいる
タカはきっと 悲しかろう
音もとだえた 風の中
空をつかんだ その翼
休めることは 出来なくて
心を何にたとえよう
タカのような この心
心を何にたとえよう
空を舞うような 悲しさを

雨のそぼ降る 岩かげに
いつも小さく 咲いている
花はきっと せつなかろう
色もかすんだ 雨の中
うす桃色の 花びらを
愛でてくれる 手もなくて
心を何にたとえよう
花のような この心
心を何にたとえよう
雨にうたれる せつなさを

人かげ絶えた 野の道を
私とともに 歩んでる
あなたもきっと さみしかろう
虫のささやく 草原を
ともに道行く 人だけど
たえてものいう こともなく
心を何にたとえよう
ひとり道行く この心
心を何にたとえよう
ひとりぼっちの さみしさを 

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