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【ネタバレだらけ】最後を観客に託す「ラストマイル」で私が見付けた自分なりの答え。

映画「ラストマイル」を観てきたら
これはどういう意味なのだろうかと
思う部分がチラホラ出てきた。
2回目を観に行く前に自分なりに
考えを整理したくて噛み砕いてみた
感想を残しておこうと思う。

以下、本当にネタバレしかないので
見ていない人は要注意!そして、
この作品は人によって受け取り方が
違う部分も多いと思うので、これが
正解とかではないし、討論目的の
noteではないのでこんな考えの人も
いるんだな~くらいに受け取って
貰えたら嬉しいです。


【バカなことをした】

病院に運ばれたとき、まだ意識の
あった山崎が口にした言葉、
「バカなことをした」はドラマや
映画でよく描かれる死のうとした
自分に対する後悔ではないように
思った。

ドラマや映画で描かれる飛び降り
シーンって大抵思い詰めた表情の
人間が写される。でもこの作品は
違った。飛び降りる前の山崎は、
何か凄いことを思いついたような
わくわくしたような表情に見えた。

これは私の考えにすぎないけど、
山崎は死ぬために飛び降りたわけ
ではないのだと思う。ただ単純に
ベルトコンベアを止めたかった。
もうとっくに壊れてしまっていた
山崎は、夜になっても回り続ける
ベルトコンベアを見て、ぼーっと
どうしたらこれを止められるかを
考えていた。そして思いついた。
自分が飛び降りれば止まることを。
ベルトコンベアが止まれば自分も
周りも楽になる。飛び降りた先で
自分がどうなるかなんてまったく
頭に過ぎらなかったんだと思う。
だからあんなにキラキラした顔で
机を持ってきて、迷いなく飛んだ。

強い痛みとともにベルトコンベアが
止まったのを感じて、一度は喜んだ
かもしれない。でもそこに五十嵐の
声が響いてきた。

「死んでも止めるなって山崎に
 伝えろ!」

そして、すぐにベルトコンベアは
また動き出した。五十嵐の言葉の
通り自分が死んでも止まらない、
皆も楽にはならない、飛び降りた
自分だけがガラクタのようになって
何も変わらず世界は動いていく。

山崎の「バカなことをした」は、
死を選ぼうとした自分に対しての
言葉ではなくて、あんなことで
変わるはずがなかったのにという
絶望のような呆れのような、
諦めのような言葉に聞こえた。

人間はギリギリの精神状態のとき
大抵冷静な判断ができなくなる。
「怪我とか病気すれば休める」とか
「事故に遭えば行かずに済む」とか
そういう思考が過ぎったことがある
人は一定数いるんじゃないかと思う。

辞めてもいい。逃げてもいい。
でもそれができない。山崎もまた
エレナと同じ、変に真面目で勤勉な
日本人の1人だったんだと思う。
きっとこの映画を見た人の中には、
そういう人がたくさんいるはず。
そんな観客へ向けたエンドロール
最後の一文がこの作品の伝えたい
メッセージなのだと思った。

【答えはロッカーの中に】

物語の終盤、使用されなかったと
思っていた12個目の爆弾は、最初に
まりかが自分で使用していたのだと
気付いたときのエレナのセリフ。

「答えはあのロッカーの中に
 あったのに!」

劇場で聞いたときこのセリフの
意味がよく分からなくて、色々な
パターンを考えた。

ストライキがこのセリフの後なら、
ロッカーの暗号の意味に気付いて
ベルトコンベアと止めたのだと
解釈できるけど、実際は違う。
ストライキの後でのこのセリフだ。
だから余計にエレナの言う”答え”が
何を指すのか分からなかった。

真意が分からなくて、色んな考察を
読んでは考えた。恋人の死の原因が
自分にあるのか、会社にあるのか
というまりかの問いに対する答え
なのかもしれないとも思ったけど、
何だかしっくりこない気もした。

多分まりかは恋人の死が自分のせい
だと判断して、その贖いに爆弾を
使ったわけではないと思う。

まりかは山崎の死の原因が自分に
あるのか会社にあるのかを知るべく
エレナに会いに来た。もし、自分が
原因なら罪を贖うとも言っていた。
だけど、
「ブラックフライデーが怖い」
という言葉を聞いていたまりかは、
会社にも原因があるということに
少なからず自信があったはず。
でなければ、わざわざエレナに会いに
本社まで来るとは考えづらい。

「それなら自分に爆弾を使う理由が
 ない」という意見もあると思う。

でも、恋人は5年間も意識不明で
恐らく戻ってくることはもうない。
だけど誓約書にサインがされている
以上、裁判を起こすことはできない。
でもその間も、デリファスは誰かを
犠牲にしながら動き続けている。
この状況になったときまりかは多分
山崎と同じ状況に陥ったのだと思う。

「ベルトコンベアを止めよう!」と
思い立った山崎はそこに囚われて、
飛び降りた。まりかもきっと同じ。
「連鎖を止めないといけない」という
気持ちに囚われた結果、爆発事件を
思いついたのだと思う。

山崎とまりかの描いた式は違うけど
「=0」の部分、稼働率を0にすると
いう部分だけは合致していた。

五十嵐に電話をするエレナのセリフに
「誰かが死んだら悲しいけど他人だし」
というものがあった気がする。

まりかもそうだったのかもしれない。
爆発事件を起こせば、デリファスは
止められる可能性がある。でも絶対に
巻き込まれる人が出てきてしまう。
でも恋人の死を意味のないものに
したくない。そのためには死ぬのは
他人だと割り切るしかなかった。

それでも罪の意識からは逃れられない。
そこに加えて、自分のせいでなくても
山崎の死を避けられなかったことに
対する罪悪感、変わらない現状への
絶望、この事件を通して何かが
変わるかもという一縷の希望と願い。
それらがすべて交ざった結果のあの
爆発前の涙だったのだと思う。彼女は
そのすべてを贖って、事件の結末を
見届けることなくこの世を去った。
そう考えると、エレナのあの言葉は

・山崎が飛び降りた理由と原因
・まりかが爆発事件を起こした理由
・2人が望んでいたこと(=稼働率0)

そのすべてが詰まっていたのに、
気付かなければ平和だから、
見なければ表面上は平穏だからと
あのロッカーと暗号を封印し続けた
会社やセンター長の罪の重さと、
同様に「止めませんよ、絶対」と
稼働をし続けたかつての自分への
戒めのような言葉なのだと思った。

【最後の孔の絶望の理由】

「次のセンター長は孔だって」と鍵を
渡された孔が、ロッカー前のベンチで
項垂れていたのもそこに繋がるのかな
と感じた。

孔はホワイトハッカーとしての経験を
生かして、犯人を突き止めることに
成功したり、エレナが爆弾に気付いた
ときも逃げずに寄り添ったりとかなり
大活躍していた。

でも、それはあくまで二番手として。
自分より上の立場であるエレナの
下で動いていたから、デリファスの
面々が押し付け合う「責任」を直接
背負うことはなかった。

でも、辞めることになったエレナに
鍵を託された孔は、その時はじめて
「責任」を負う怖さに気付いたのだと
思う。山崎のロッカーに残った暗号と
そこに込められた意味を明らかに
するのか、それともこれまで同様に
見なかったことにして放置するのか。
他人事だと思っていた判断が突然
自分事として降りかかってくる。

その判断によっては、第2の山崎を
生み出してしまうかもしれない。
もしかしたらそうなるのは自分かも
しれない。どっちの選択をしても
重たい責任がのしかかってくる。
前の職場よりも全然楽しい、ずっと
このままだと良いと思っていた
環境がいきなり一変した孔の心境を
想像しただけで吐きそうになった。

【コンベアを見下ろす五十嵐】

ロッカーの前で項垂れる孔とほぼ同
タイミングで、五十嵐がロッカーを
探しに走ってくるシーンがある。

その1個前のブロックで本社と繋がる
ビデオ通話で「爆弾はまだある」と
言ったエレナのシーンがあった。

爆弾は本当に12ダースあるのか。
もし11個しかなければ、私たちは
存在しない12個目の爆弾を永遠に
探すことになる。私が犯人なら
そうする。と話していたエレナは、
起動するかも分からない、次期
センター長の孔のことを差して
このセリフを言ったのだと思う。

おそらくその言葉を受けた本社は
当時のことを唯一知っている
五十嵐に「山崎が死の理由が
会社にあることを示す証拠が
あるのかも」と探させたはずだ。
それはおそらくロッカーにあると
察した五十嵐は慌ててロッカーを
探しにやって来る。

そして、山崎が飛び降りた場所から
ベルトコンベアを見下ろして、
その場に立ち尽くす。

きっとこの瞬間まで、五十嵐は
山崎が過重労働を苦に自殺を図った
と考えていたはず。だけど、実際に
その場所から見下ろしてみたとき、
山崎がなぜ飛び降りたのかという
答えにたどり着いた。

そしてきっとその場で、自分の
発した「死んでも止めるな」という
言葉の重みを知ったはず。その後、
五十嵐がどうしたかは分からない。
分からないけど、エレナにあのとき
山崎をどんな気持ちで見ていたのか
詰められたとき、当時の山崎と
同じように横たわった彼の中にも、
後悔があったと私は信じたい。

悪ではあるけど、完全に悪なのかと
聞かれれば分からない。彼もまた
デリファスの歯車で、ガラクタに
される可能性を持った一人なのだと
思った。五十嵐がそうだったように
誰かがガラクタになる引き金を引く
のは自分かもと思ったら怖かった。

【やっちゃんとは?】

羊急便の配達員として働く親子の
会話に度々登場したやっちゃん。
食事の時間は10分で、1日に200個
近い荷物を届けたドライバー。
だけど、その結果、やっちゃんは
過労で死んでしまった。

最初、山崎という人物の存在だけ
明らかになったタイミングで、
配達員親子の会話が挟まれたから
やっちゃん=山崎なのかと思った。

だけど、山崎は配達員ではなく
センターの方に勤めていた。
SNSでは山崎の父親ではないかとの
考察も流れていたし、その可能性を
考えたりもしたけど、私の記憶が
正しければ山崎の死をまりかのせい
だと言ったのは山崎の父親だった
ような気がする。
(この辺記憶が朧気で確証ないけど)

そう考えるとやっちゃん=お父さん
という線はピンとこない気がした。
単にドライバーの重労働がどれほど
壮絶かを伝えるための人物にも
思えるけど、あえて「やっちゃん」
という名前を出してくるあたりから
山崎の身内なのではないかとは思う。

結局誰なのか明かされることは
なかったし、5年前の山崎の飛び
降りとやっちゃんの死、どちらが
先なのかは描かれなかったから
真相は闇の中だけど、何かしら
意味を持ちそうな人物には感じた。
この辺の考察は他の人に任せます。

【あくまで主軸はラストマイル】

この作品は、大ヒットドラマ
「アンナチュラル」や「MIU404」と
同じ世界線の物語として描かれた。

間に合わなかったあとの物語を描く
「アンナチュラル」と、最悪の事態に
なる前に間に合わせる「MIU404」。
「ラストマイル」はちょうどその間を
いく物語のような気がした。

山崎やまりかを救うことはできずに
最悪の事件は起こってしまう。
だけど、最後の爆弾が爆発する前に
止めることはできた。
そして、最後の爆発を止めたのが
「アンナチュラル」でも「MIU404」の
メンバーでもなく「ラストマイル」の
世界に生きるエレナや孔、配達員たち
だったというのが本当に良かった。
あくまで主軸は「ラストマイル」に
あるという部分がブレてしまえば
「ラストマイル」である意味がない。
あくまで同じ世界線の物語という
形を保ち続けてくれて良かった。

ドラマをベースに生きている私は、
最終回が近づくたびに少し落ち込む。
3ヶ月間追ってきた人たちの未来を
自分はもう追うことができないのだと
思ってしまうからだ。続編を作るのが
大変だということは素人でも分かる。
何年後まで仮押さえしてある演者や
制作陣のスケジュール、スタジオや
ロケ地も抑えないといけない。

そのためドラマを見るときは、基本
続編はないものだと思って大切に
見るようにしている。だからこそ、
「ラストマイル」で当たり前のように
生きている過去作のメンバーを見る
ことができて嬉しかった。UDIラボも、
機捜も自分たちの仕事を粛々とこなし
同じ世界線で生き続けていた。そりゃ
欲を言えば続編が見たいけど、彼らが
生き続けていることを知れただけで、
見れただけでこの上なく嬉しかったし、
彼らがブーメランを食らいながらも
生きているなら、私も頑張れるかもと
勇気をもらったような気がする。

【苦しみの先でも続く人生】

山崎の落下で一度停止してもすぐに
動き出したベルトコンベアは人生に
似ているような気がする。

一家心中で生死を彷徨ったとしても、
恋人が殺された上犯人扱いされても、
自分を唯一信じてくれていた人が
罪を犯していても、止められたかも
しれない相棒の死を防げなくても、
人生は止まることなく進んでいく。

「MIU404」で虚偽通報を行った
勝俣くんは、「ラストマイル」の
中で機捜の一員として陣馬さんと
バディを組んでいた。先輩たちが
ドーナツEPに手を出したことで、
関係ない自分たちまで陸上が
出来なくなったやるせなさから
行った虚偽通報。でもその結果、
大切な彼女は危険な目に遭い、
友人は罪を犯して死にかけた。
そこから機捜に入るまで、彼は
どんな思いを抱えて、どれだけの
努力を重ねたのだろう。

「アンナチュラル」でいじめを
受けていた白井くんは、
「ラストマイル」でバイク便の
運転手として登場した。自分を
庇ってからいじめられるように
なった友人を助けられなかった
彼は、いじめを明らかにした上で
自らも死を選ぼうとする。でも、
中堂の「許されるように生きろ」と
言う言葉を受けて踏みとどまった。
その言葉を自分なりに噛み砕いて、
白井くんは今を生きていた。

「ラストマイル」に登場する機捜や、
法医学者が「アンナチュラル」や
「MIU404」のメンバーじゃなくても
話は成り立つとは思う。現に、その
2作品を見ていない人でもこの映画は
楽しむことができるはずだ。

でも、UDIラボや第4機捜のメンバー
だからこそ受け取れるものも多い。
生きていれば絶対に大小問わず、
色んな苦しさに襲われる。そんな
苦しみの先でも人生は続いていく。
その人生をどう生きていくのか。
この作品にはそれぞれの人生が
描かれていたように思えた。

【主題歌「がらくた」】

主題歌の「がらくた」良かったな……

この曲はエレナと孔の曲でもあるし、
山崎とまりかの曲でもあるし、
配達員親子の曲でもある。
最後に流れていく名前を見ながら
そんなことを思っていた気がする。

そして鑑賞前に聞く「がらくた」と
鑑賞後に聞く「がらくた」が本当に
全然違う曲に聞こえて驚いた。

エンドロールの後ろで流れるこの
曲を聴きながら、自分の大切な
人がどうか壊れませんように。
大切な人が苦しんでいるときに、
「今日は遠回りして帰ろう
 迷い込んだっていいから」と
言える存在であれますようにと
強く願った。

あとただの余談なんだけど、
公開前に同じ世界線の2つの物語を
改めて見返していた私は、
「MIU404」最終回の視聴後に
こんなツイートをした。

今回のタイトルがここに繋がるのか
定かではないけど、久住が最後に呟く
「俺はお前たちの物語にはならない」
という言葉が凄く心に残っている。

志摩が話していたようにあらゆる
スイッチは誰といつ出会うかで
簡単に押されてしまう。

久住やまりかは確かに悪だし、
どうやったって肯定はできないけど、
彼らもまた山崎と同じように
失くして、壊して、奪われた側で、
がらくたにされた側なのかもしれない
と考えてしまった。

この世界は正直生きづらい。
平等じゃないし、不条理だらけで
しんどいし、やるせなくなる。
だけど、そこを掬い取ってくれる
「ラストマイル」のような作品が
ある限り、この作品を見て悔しさ、
歯がゆさ、やるせなさを感じて、
現状を変えたいと藻掻く人がいて
くれる限り、救いはあると信じたい。

間に合わなかった過去を経て、
次は間に合わせようと未来へ進む
人たちがいるこの世界で、私も
がらくたになる手前まで頑張って
みようと思う。

2回目いつ観に行こっかな~!

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