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『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

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BOY meets MUSIC ストーリーズ
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2020年7月の記事一覧

見えない銃を撃ちまくるしかない。

見えない銃を撃ちまくるしかない。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -4

ハードル跳びのエリアからひと際大きな歓声が上がった。ちょうどスタートしたばかりのようだ。状況を把握しようと順位を確認した僕は目を疑った。
え…?!
先頭には、他校の選手に大差を付け、カラフルな装いの中で唯一、緑色のジャージと白いスニーカーをまとったやつがぶっちぎりでトップを走っていた。

「す・・すげぇ、ノビじゃんっ!」

まる

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その者、緑の衣をまといて金色の野に降り立つべし。

その者、緑の衣をまといて金色の野に降り立つべし。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -3 (Another Story)
時を少し戻そう。

その日は朝から憂鬱だった。
形ばかり在籍している陸上部で、初めて大きな地区の競技大会に出場することになっていたのだ。もちろん誰もやる気が無いうえに、吹き溜まりのような寄せ集め部員にとって、学校を出ての初遠征なんて抗えない遠足みたいなものであった。

そもそも、顧問の担任(20代初赴任

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学校の机に好きなバンドのロゴを書いてしまったり。

学校の机に好きなバンドのロゴを書いてしまったり。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 中学生編 -2

人生初のライブ、それは最高の体験でしかなかった。と言うより他に表現のしようがなかった。

(ほ、本物だ…!)

(音、デカっ…!)

一人で来ていることなんて全くどうってことなかった。最初の一音が鳴った瞬間、全神経はステージに釘付けになり、遠く海を越えて演奏しに来てくれた彼らの一挙手一投足に、終始心を震わせた。

あえて言うならば

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弾けないギターを弾くんだぜ。

弾けないギターを弾くんだぜ。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 中学生編 -1

「ギターが欲しいっ!」

それまでシンセのカタログばかり眺めていた僕は、取り憑かれたようにギターの広告を見漁るようになった。

当時は、少年ジャンプの最後の通販みたいな胡散臭いやつばっかりで、
まともなモノは、小学生がおいそれと買えるわけもなく、文字通り指をくわえて見るしかない日々が続いた。

そうして僕は中学生になった。

とい

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この気持ちに、名前はまだ無い。

この気持ちに、名前はまだ無い。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -6

12歳、また夏がやってきた。

望まずとも課せられる呪いみたいな夏休みの宿題。

今となっては『Back to the Future』のデロリアンの設計図を提出できる訳もなく、ひとり粛々と日々タフにやり過ごしていくしかなかった。

少し時を戻そう。

その年の4月。
新学期、僕の学校では2年ごとのクラス替えがあり、小さな町ではあっ

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If You Leave (君がもし去っていくのなら)。

If You Leave (君がもし去っていくのなら)。


『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -5

通学路のイチョウの木にはあざやかな緑が色づき、
夏への扉は、その入り口をもう開きはじめていた。

僕は来る日もひとり学校から帰ると、まっすぐ部屋にあがり、前にもまして狂ったように音楽番組を観あさっては、数少ないレコードを繰り返し回し続けていた。

小学生の男子に処理し切れない感情なんて、ぜんぶ音楽に向けるしかなかった。

そんな

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