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主人公として生きる

新しいことに挑戦する時、バイブルになる本を見つけることが得意だ。

この記事で、その時の自分の状況にぴったりな曲を見つけるのが得意、という話をしたけど、それは本の中の物語も然り。といっても本の場合は、共感というより、参考にしている場合が多い。


例えば、佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』。この小説は、青春ど真ん中、陸上部の男子高校生の物語である。陸上に夢中になっていた小学生の時に出会い、努力型の主人公に自分を、天才型のライバルに当時勝手にライバル視していた子を重ね合わせた。実際走っている時の描写や、高校時代を駆け抜ける爽快感が最高で、読了後はスポドリを飲みたくなる。中学で陸上部に入ってからは本格的に、何度も繰り返し読み直しては、3年間の流れをこの本でイメージしていた。


この記事で書いた暗黒のJK時代は、豊島ミホの『底辺女子高生』と共に過ごした。地方の進学校で落ちぶれた作者の高校時代のエッセイで、この時の気持ちが他の全ての物語のエッセンスになっていることがよく分かる。私はここまで酷くない、と思いながらも、こんなどん底の気持ちでいるのが私だけじゃないと知って楽になった。豊島ミホさんの本はなかなか出会えないのに、この青い小さな文庫本が、大嫌いな学校の図書室に存在しているという事実だけでも救われた。


大学に入ってからは、同じく地方の進学校から大学に進んだ朝井リョウの小説がやっぱり沁みた。『少女は卒業しない』『もういちど生まれる』『何者』『何様』の流れは、学校というコミュニティに対する冷めた気持ちと、諦めたくない私の気持ちを紙面で晒された気がした。『何者』が就活生のバイブルなのは言うまでもないけど、人によっては『何様』の方がしんどいバイブルかも。


そして、この作者抜きには私の人生は語れないと言ってもいいほど大好きな、有川浩。設定は自衛隊ものが多いけど、みんな私の恋愛バイブルだった。ただ、最新作の『イマジン?』は、私のバイブルになるはずだった本だ。映像制作会社で働く主人公の奮闘日記であり、作品が実写化されることが多い作者ならではの、リアルな業界レポ本だと思う。就活中に発売され、発売してすぐハードカバーで買って、インターンをサボって読んだ。その時私は「映像作品を作りたい」という漠然としていて、甘っちょろい考えのもとなんとなく就活をしていた。だから、制作も考えていたんだけど、この本を読んでさらに、これが自分のやりたいことなのか分からなくなった。



そして、紆余曲折してなんとか道が決まった今、物件選びをしながら、新社会人生活に心を躍らせている私が読むのは『植物図鑑』だ。表紙買いしていた小学生の時、イラストの可愛さでこの本に出会えたことで私は有川浩のファンになった。この本はその時からずっと、永遠の憧れ恋愛No.1バイブルだった。それが今、新社会人バイブルになりそうなのがすごく嬉しい。ベッドタウンの2DK、築20年リフォーム済み、料理ができない女子の一人暮らし。当時はよく分からなかったけどとにかく憧れていたさやかの生活を、私は今血眼で読んでいる。そして絶対さやかになって、会社帰りに家の前に落ちているイケメンを拾うと決めた。


この本達を読むと、「当時こんな気持ちだったなあ」と思い返すこともあるし「絶対これになる」という、目標にもなることもある。

神谷として100mを走り、美奈のように驕った気持ちで進学してどん底に落ち、自分は二宮になりたくないと就活をした。そして二宮にはならなかったけど良介にもなれなかった私は、今度はさやかのような素敵な恋愛をしたいと夢に見る。あくまでリアルな虚構に憧れる私は、少しだけ現実から目を逸らしているんだろうなと思う。

私はこれからも、この物語の主人公フィルターで1.5割増の理想の世界を生きていく。






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