輪廻の風 (24)


エンディとフロッドは43階まで来ていた。

敵を撃破して上に進めば進むほど兵隊の数は減少していき、43階に着いた頃には襲撃してくる兵隊は1人もいなかった。

しかし、それでも状況は悪かった。
フロッドの所持していた銃の弾丸は尽き、エンディは脇腹と太ももに1発ずつ被弾を受け、出血がひどかった。

そして一階で囚人達を撃破したであろう兵隊隊が、怒涛の勢いで上に向かってきているのが分かった。

「すまないエンディ君、医療キットを持ってくるべきだった。」

「こ、これくらいどうってことないよ。それより、あと少しで45階に着く。急ごう!」
痩せ我慢をしているのは明白だった。

「ラーミアって子を助けたあと、どうやって逃げるつもりだ?その傷にこの状況、とても逃げきれないよ。」

「そんなのやってみなきゃ分からない。とりあえず俺はラーミアを助ける。どうやって逃げるかは、その後に考える。」

フロッドは少し呆れた様子だったが、それ以上にエンディの心意気に胸を打たれていた。

「全く、勇敢なんだか無鉄砲なんだかよく分からない子だね。君みたいな子供がそんなボロボロになって戦ってるんだ、大人の僕はもっと頑張らないとね。」

フロッドはそう言い終えると、エンディを突き飛ばした。そして隠し持っていた手榴弾を天井に向かって放り投げた。

天井は勢いよく崩れ落ち、エンディとフロッドの間に瓦礫の壁が出来て通路は塞がれてしまった。

「おいフロッドさん!あんた何やってんだよ!」
瓦礫できた壁越しに、エンディは叫んだ。

「エンディ君、手荒な真似をしてすまない。追手は僕が食い止める。君はその隙に上に向かってくれ。どうしても助けたいんだろ?」

「無茶だよ!弾丸だってもうないのに!殺されちゃうよ!」

「そんなのやってみなきゃ分からない、だろ?子供を守るのは大人の義務だ。子供達の未来を守れないようじゃ大人じゃない。ラーミアちゃんを救い、必ず生きてバレラルクに行け!」

エンディは泣いた。声を出さずに、大粒の涙をボロボロと流した。

「フロッドさん、ありがとう!おれ生きるよ!生きて必ずフロッドさんみたいなカッコいい大人になるから!だからフロッドさんも死なないで!また会えるって信じてるから!!」
エンディは叫んだ。しかしフロッドからの返事はなく、その場はシーンと静まり返っていた。

そして上に向かって階段を駆けのぼった。
たくさん思うことはあったし、言いたいこともまだまだあった。それらの感情をグッと押し殺して走った。

フロッドに助けてもらった命を絶対に無駄にするまいと誓った。

そしてようやく、45階に着いた。
そこには、目を疑うような信じられない光景が広がっていた。

ジャクソンとその部下10数人が、傷だらけで地面を這いつくばっている。全員、かろうじて息はありそうだ。

壁や天井、床にはいくつもの大きな穴が空き、穴の周りには大きな亀裂が生じている。

まるで、獣が暴れたかのような光景だ。

唯一意識のあったギルドは、腰を抜かし、脂汗をかきながらガタガタ震えている。

「お、おい…どうした?何が起こった?」

エンディはそっとギルドに話しかけた。

「あ、悪魔だ…悪魔が来た…ウワアアァァァッ!!」

ギルドは発狂しながら走り去っていった。

「待てっ!!」

エンディは急いでギルドの後を追った。
せっかくここまできたが、この階にラーミアはいないだろうとエンディは何となく肌で感じていた。

ギルドは、エンディが現れた方とは反対方向にある通路を走り、螺旋階段をのぼった。

その後に、エンディも続いた。

感覚的に5階分くらいのぼっただろう、と言うところで塔の空中庭園のような場所に辿り着いた。

そこは、鉄筋コンクリートでできたこの塔には似つかわしくない場所だった。
地面は少し湿った土。そして無数の木々が生い茂っていてなんとも不気味な場所だった。

空には三日月。
風になびく木々が海原をうねる波のように見えた。

「アズバール!どこだー!たすけてくれぇー!」

ギルドは我を忘れて走り回っている。
エンディはそんな様子をポカーンと眺めていた。

すると、真っ暗な樹海の奥深くから背の高い長髪の男が歩いてきた。

「何の騒ぎだ、ギルド。」

「悪魔だ、悪魔がきたんだ!助けてくれ!」

「悪魔だ?あのガキのことか?」

アズバールの目線の先にはエンディがいた。

「ち、ちがう。あいつじゃない、おい!誰だお前は!」
ギルドはようやく正気を取り戻し、エンディの存在に気付いたようだ。

アズバールは凍りつくような冷酷な目をしていた。
首に大きな傷痕があり、全身からは残虐非道な殺意の波動を放っていた。

アズバールと目が合ったエンディは、恐怖のあまり無意識に2歩後ずさりしてしまった。




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