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季節の色に染める/心の豊かさ

KIRISENでは4月から『KIRISEN Monthry Color』という試みを始めました。『KIRISEN Monthry Color』とは、月毎にテーマカラーを決めて、12ヶ月を季節の色に染め上げていくという企画です。

どうしてこういった試みを始めたかと言うと、一年があまりにもあっという間に過ぎて行ってしまうから。

気がつくともう春だ、とか、あっという間に冬になってしまって、季節の移り変わりに目を向けることを忘れがちだと感じたからです。
特に、デザイナーとして会社に勤務していた頃は、毎日夜遅くまで働いていたと言う事もあって、夏が来たのか、夏が終わったのか分からなくなることが多々ありました。忙しい日々の生活に追われると、季節の変化に気が付かない事が多いのです。

でも、日本には四季があって、その移り変わりはとても美しく、その時々で今しか味わえないもの。それを気付かづに1年が過ぎてしまうなんて、大切なものを見失ってしまっていると思いました。わたし自身、季節の移り変わりに目を向け、生活の中で大切にしていきたいと思って、この企画を始めることにしました。

そして偶然にも、年明けに取材いただいた「つくりら」さんで、二十四節気というものがあるという事を知り、素敵だな〜と思ったのでした。

二十四節気とは一年を12の「節気」(正節とも)と12の「中気」に分類し、それらに季節を表す名前がつけられている。立春・春分・立夏・夏至・立秋・秋分・立冬・冬至など。
二十四節気の成り立ち
十四節気は太陽の動きをもとにしています。太陽が移動する天球上の道を黄道といい、黄道を24等分したものが二十四節気です。
黄道を夏至と冬至の「二至」で2等分
   ↓
さらに春分と秋分の「二分」で4等分
   ↓
それぞれの中間に立春、立夏、立秋、立冬の「四立」を入れて「八節」とする
   ↓
一節は45日。これを15日ずつに3等分し「二十四節気」とする
   ↓
さらに5日ずつに3等分し、時候を表したものが「七十二候」
二十四節気は、毎年同じ時期に同じ節気がめぐってきます。そして、節気の間隔が一定で半月ごとの季節変化に対応できるので、天候に左右される農業の目安として大変便利なものでした。季節を知るよりどころでもあったため、天候や生き物の様子を表す名前がつけられ、今でも年中行事や時候の挨拶など色々なシーンで使われています。

二十四節気ほどそこまで詳しく季節は追えないけど、12ヶ月なら頑張って追えるかな、と思ってはじめてみました。


”4月の色は桜色”

桜が咲くと、春が来たんだと心がわくわくしませんか?わたしは、歳を重ねる度に桜が咲くのが1年の中で楽しみになっています。
そして、桜を見ながらお花見をする日本人の文化・感性がとても好きです。
自然と共存して生きていた日本人特有の粋な文化だと思います。
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KIRISENでは、今まで「涼を愉しむ」をテーマに浴衣をメーンとしたプロダクトを作ってきました。『KIRISEN Monthry Color』では、”涼”と言うテーマに限らず、12ヶ月の色を楽しんでプロダクトを作っていきたいと思っています。
昨年、暖色の商品も見てみたいと言うお客様からのご意見もあったので、そう言った声にも今年は少しづつお応えしていきたいなぁと考えています。

今回は少しだけ、桜色の染色過程、籠染をご紹介したいと思います。

では、早速。
まずはビーカー。為し染で色を決めます。
下の写真は端切れを使って色を決めて行く作業。
染料の量や、染める時間など、細かくノートに記載していきます。

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実は、桜色は昨年の春にも染めたのですが、納得のいく色にならなかったので今年はリベンジでもあったのです。
ピンクや赤はちょっとニュアンスを間違えると下品な色になってしまうので、そのさじ加減が難しい。
浴衣にしても美しく、桜の様に華やかなピンク色、でも暑苦しくなく、透き通った様な爽やかなピンク、それを目指します。

2色染で桜色×グリーンのパターンも染めてみたかったのでグリーン系も同時に試作染をしました。お互いのバランスを見ながら試行錯誤。

頭の中では、少しブルー系のエメラルドに近い色がピンクと相性が良いかと思っていましたが、実際は若草色の方が品よくまとまりました。

試作で色を決めたら、目方をあたって(生地の重さを計る)、染料の量を計測します。
計算通りに染まらない事もあるので、染色は感覚と計算の両方をバランス良くが大切です。

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まずは生地の地染めをしていきます。
白い生地を水にならして行きながら、少しづつ染めていくのが綺麗に染まるコツです。

生地に色が馴染んで来てから温度を上げて色を定着させて行きます。
父曰く、焦らずゆっくり染めるのがポイントだそう。

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今回は2色染なので、地染めの終わった生地を、籠に手作業でつめて行きます。浴衣生地は1反13mあるので、13m×4反分をつめて行きます。
なかなかの苦行。1時間〜2時間かけてつめて行きます。

浴衣生地は生地が薄く柔らかいので、かなり細かな作業が求められます。
この時の生地のつめかたで、模様の出方が決まります。
つめ終わると、父にチェックしてもらい、2度目の染色へ。

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籠に詰めた生地を、今度は染料を入れた別の窯に着け込みます。
途中、色を見ながらちょうど良い所で引き上げます。

桜色×桜色の2色。濃度の差が難しい所。濃度の差がありすぎても、美しくないし、柄が見えなくても籠の魅力がなくなってしまいます。

染色は基本は計算に基づいて染める時間や温度を決めていきますが、その日の気温や湿度によって、計算通りに染まらない事もあります。
なので、こまめに色を見る必要があり、なかなか手のかかる子なんです。

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色が良さそうとなったら、染料液を抜いて洗い、色止めをします。

籠の蓋を開けると、染め上がった生地が水にジワーと浮いてくる姿がとても美しいです。籠に収まった状態の形で反物が水面に浮かんで来ます。籠染は、この瞬間がわたしは一番好きです。

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そして、生地を広げながら川の様に生地を右から左、左から右へと流していきながら洗います。
もちろん、昔(祖父の若い頃まで)は染めた生地を川で洗っていました。
当時は桐生川に沿って染め屋がたくさん並んでいました。
私たちの工房もまた、桐生川の近くにあります。

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染めあがった生地は、脱水機で水を絞り、乾燥室の竹竿に干して行きます。
乾いたら、整理工場へ持って行き、のりつけしてもらって完成!

わたしのひいき目かもしれませんが、この染色の工程を見ると商品の見え方が変わってきませんか?こういった過程があって、プロダクトになっているのか〜!と。そう思っていただけたら嬉しいです。

ゴールデンウィークを開けると、母の日もあるので、4月の色のプロダクトで母の日ギフトを作りました。現定商品としては、スカーフなど。
ギフト包装として、桜色に暈染を施した風呂敷も期間限定で販売したり。(上記で染めた桜色の浴衣生地、写真撮影がまだできておらず、販売は5月に入ってからになりそうです。)
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そして、当初予定には無かったマスクの販売も、4月末から始めました。

マスク

正直、布マスクって大丈夫なのかな?と思っていたので、作るつもりはなかったのですが、全国的なマスク不足、綿生地やマスク紐の不足の話を聞き、作る事にしました。
あと、同じ繊維の会社さんが作り始めているのを見て、素材があるのに作らないのは、同じ繊維に携わるものとして少し無責任にも感じたので作る事にしました。マスクを作る事で、少しは誰かの為になっていると思える事で、私も精神的に安定することができました。些細な事でも人は誰かの役に立てることが1番嬉しいものですね。自粛期間中は素材がある限り作り続けたいと思っています。少しでもお役に立てれば、嬉しいです。

桜色のマスクは販売する事にしましたが、グレーのマスクはオンラインショップにて¥2,000以上ご利用いただいた方に無料でおつけする事にしました。グレーも素材がある限り自粛期間中お配りします。画像4

4月の桜色の話をしましたが、もうすでにゴールデンウィークに突入しました。(もう終わります!終わっている人もいますね。)
今年のゴールデンウィークは皆さんお家で過ごされた方も多いのではないでしょうか?コロナの影響で楽しみにしていたイベントが中止になったり、離れた家族と過ごす事の出来なかった方が多いかと思います。

わたしは毎年、GWは必ず益子の陶器市に夫と泊まりがけで行っていたのですが、今年は中止になってしまったのでとても残念です。
5月の益子の空気は清々しくて、土の香りや緑の香りがとても好きです。あの空気を身体で味和えなかったのは、とても残念です...。

テレワークが完全にこの期間で普及しましたが、今後はどうなるのでしょうか。実店舗を持ってお仕事されている方は今、大変苦しい状況だと思いますが、SNSを見ていると、各社が知恵を絞ってオンラインでもサービスの提供を始めたり、今ままでECサイトを運営していなかった会社がECを始めたりしていて、買えなかった物がわざわざお店まで行かずとも買える様になったのは、嬉しい事です。実際、わたしもオンラインで今まで買うのを迷っていた物を購入する機会がかなり増えました。特に地方の素敵なお店の商品を購入してみたり、送料はかかりますが、電車賃を考えれば安い!と思い、これをきっかけに色々と購入しました。

ただ、骨董市とか陶器市の様に数ある中から掘り出し物(宝物)を探し出す感覚はテレワークやECではできない事なので、この状況で改めて特別なイベントなんだなぁ、と感じました。来年は陶器市開催できる事を願うばかり。
陶器市で一年間の売り上げを出している作家さんが多いと聞いたので、作家さん達も今年は大変なのではないかと心配です。。

この自粛期間中、生活について考える時間がとても多くなりました。
衣・食・住のこと、家族のこと。
”豊かさ”についてなど。

自分を取り巻く環境・衣食住はとことん自分の「好き」な物を選んでいきたいと思いました。器一つでも、大量生産で作られた物よりも、作家さんの名前が見えて、思い入れのある物を1つ1つ選んでいきたい、改めてそう思いました。
沢山の物に囲まれていなくても、お気に入りの1つがあれば、それだけでハッピーになれる。
家や生活に目を向けると、大量にものを持つ必要なんてなく、心を豊かにしてくれる物が大切だということに気づかせてくれます。
思えば、東京の生活は毎日忙しく、買わなくて良い物を買わざるを得ない状況が幾度となくあります。朝の会議に間に合わないからコンビニで朝ご飯買っちゃおう、とか。
少なくともそういった買い物は全国的に減ったと思います。
何を買うか、を考え直した人も多かったのではないでしょうか。

この期間中で大量生産・大量消費の社会が本当に良いのか?と、突きつけられた様にも思います。都市に集中する人口のあり方や、便利や安さを優先したものづくりが必要なのか、とか。

テレワークによって家族との時間が増えた事で、時間や働きかたを見つめ直した人も多いと思います。今は外出は極力していけない事だけど、公園でお父さんと子供が一緒に遊んでいる姿が以前よりも増えて、なんだか幸せそうと思ったりもしました。(密はNGだけど1日1回は身体動かしたいよね)

本当に大切なのは、人。
当たり前の事だけど、改めて気づかされた様にも思いました。

徐々に地方の地場産業や、職人の仕事へ注目が集まってきていたのも、「人」が見える・感じるからなのかもしれません。

確実に今後テクノロジーの進化が加速する時代だと思います。通信や移動のハイテクな部分と生活の中に人の温もりを感じるものを求める二極化がますます進んでいくと思います。
衣食住に関わるものぐらいは、人が作るものづくりの価値を感じていただけたら嬉しいなぁと思います。

まだまだ先の見えない不安な日々ですが、思考を止めずに前進あるのみ!
日々の生活を大切に過ごしたいと思います。

気がつけば、だいぶ長い文章になってしまいました。。
(あんまり人と会っていないからかな?)

最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。





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