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短編小説『あれこそが本物だ』

 お昼ごはんを食べるお店に求めるものは何よりも値段である。安ければ安いほどよい。近頃は半導体が足りないかららしいがお昼ごはんが三年前と比べて平均200円ほど高くなっているがこちとら給料が増えていないため自然入れるお店が限られてきた。平均200円昼ごはん代が高くなったということは週に200円掛ける平日5日で1000円。月に4週として月給は少なくとも4000円増えていなければならないがよくわからない税金年金その他諸々によりむしろ手取りは8000円は減っている。つまり実質1万2000円減っていると考えて差し支えない。そうなるとオレが昼ごはんに使える金は三年前より減らさざるを得ないのである。

 しかしオレは本物が好きだ。本物が好きというと語弊がある。オレは本物が好きな人だと周りに思われることが好きだ。本物を紹介するブログを書いている。安いからといって全国各地どこでも食べられる牛丼で腹を満たすことはしたくない。本当はあの牛丼のことは好きだし実のところあの牛丼の味こそを本物だと思っているが世間はあの牛丼を本物だと認識していない。そうである以上オレはあの牛丼で腹を満たすことはできない。それにオレが住んでいるのは本物が集う街京都だ。京都でしか食べられない本物を食べてこそ正真正銘の本物なのだ。

 ところがもうお気づきのことと思うがオレが一食に出すことができる500円以内で味わえる京都ならではの本物などというものは存在しない。先日ツチノコを発見した剛田さんも「京都で本物を食べようと思ったら一食1000円は見ておかないといけない」と言っていた。オレのお眼鏡にかなう店はツチノコよりも希少価値があるらしい。

 そこでオレが編み出したのは本物ではない店を、さも本物であるかのように演出するという技である。一言で言えば嘘である。一言どころか一文字で言ってやった。安く済まさなければならないのはオレにとって常に喫緊の課題であるが本物に関しては別に食いたいわけではなく食ってるように見せかけたいだけなのだ。京都市内を足しげく歩き回りガイドブックには載らない安い店を3軒ほど見つけたのでローテーションしている。3軒ともうどん屋である。うどんは安い。かけうどんならこのご時世に300円を切ることがある。これに比べるとラーメンは高い。最近は750円でも安く思えるほど相場が跳ね上がっている。ラーメン作りに欠かせない半導体が不足しているから仕方あるまい。うどんが安いのはつまり半導体を使わないからだというが難しいことはわからない。しかし、そうでなければ理屈が合わない。

 280円のかけうどんを啜りながらオレは「半導体 作り方」で検索してみようと思ったがそういえばスマホはもう手放したんだった。
もうブログは書けない。解放されたオレは世界でいちばん美味いミラノ風ドリアを食べに行くことにした。あれこそが本物だ。

#令和4年3月4日  #コラム #日記 #エッセイ
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